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エピローグ
「やっぱり剪定 するときは芳次郎の方が上手いのう」
「おだてても何も出ねえよ、八十助さん」
庭にある大木の剪定をしながら八十助と芳次郎は大声で笑っていた。
あれから2日後。
芳次郎を連れ帰ると、八十助は驚きのあまり腰を抜かした。
その日の夕飯は大盤振る舞いでいつになく深酒をしていた。
飲めない菊之丞も恐る恐る、祝い酒を楽しんだ。
長屋の住人も大喜びで、約束して居た子供は菊之丞の姿を見るなりありがとうと抱きついてきた。
照れながら笑っていると、その子の親から野菜があまってるから持っていって、とたんまり貰った。
それはきっと芳次郎を連れ帰ったことへの御礼なのだろう。
夏を迎える前の庭は緑が美しく、菊之丞が一番好きな季節だ。
八十助と芳次郎の様子を縁側に腰掛けて眺めている。
手にしたあの煙管で煙草を吹かしながら。
御天道 様は何もかもお見通しだ。
それでもやっぱり、これが一番の正解なのだと、菊之丞は大きく背伸びする。
「旦那さーん、この枝も切っちまって良いんですかい」
手を振りながら芳次郎が話しかけてくる。
みんなの前では旦那様、二人だと菊之丞と呼んでくる。
(全く、器用な奴だ)
「今行くから、そのままにしとけ」
さわさわと木々の緑が音を立てて揺れる。
何もかもが眩しくて、心地よい。
【了】
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