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遠距離ワンコ 2 【終】

電話越しに先輩の声が優しく響く。 『なぁ、桜太。合格したらご褒美何がいい?』 「え? ご、ご褒美貰えるんですか⁉︎」 『慌てすぎ。そりゃ合格祝いなんだから。なんでもいいぞ?』 「た、例えばっ⁉︎」 先輩のご褒美発言に一気にテンションが上がってしまい、やや食い気味に聞くとまた先輩は可笑しげに笑う。 『そうだなぁ。お前が喜びそうなこととかかな?』 「俺が喜びそうなことですか?」 するとクスッと笑いながら先輩は煽るような声を出した。 『お前のマニアックな趣味に付き合ってやってもいいよ』 「ま、マニアックって……」 『そうだなぁ。至れり尽くせりなセックスしてやろうか? 俺が全部してやる』 思わずごくりと喉が鳴ってしまった。 それに気付いたのかはわからないが、先輩は笑いながら続ける。 『お前がやりたいならコスプレもしてやる。セーラー服とか絶対好きだろお前』 「セ、セーラー……⁉︎」 『なんだよ嫌なのか?』 「嫌なわけないです! セーラー服の先輩をちょっと想像してしまっただけです」 『なんだよ。もう妄想してるのか? やらしい奴だな』 その前に合格だろ? なんて言いながらけらけらと笑われたけど、そもそもそんな妄想をさせたのは先輩の方なのに。 「先輩ひどいです。眠れなくなるじゃないですか」 俺の意思なんかほとんど通用しないそれが硬く勃ちあがり、さっきまで感じていた眠気はどこかに飛んでいってしまった。 でも先輩は電話の向こうで大笑いしているだけだ。 『俺は触ってやれないから自分で何とかして寝ろよ?』 本当に先輩は自分勝手だ。でもそこが好きな自分はもうどうしようもない。 「ひどいです」 『残念だな。目の前にいたら舐めてやるのに』 「せ、先輩っ! 煽らないでください!」 先輩はクスクス笑っている。でももうこんな状態になったら吐き出さないと本当に眠れないのだ。 「……あ、あの……先輩のコスプレ想像してやってもいいですか?」 『セーラー服か?』 「はい。っていうかもうちょっとだけ妄想してしまってます。スカートと靴下だけ履いてる先輩を……」 『何でスカートと靴下だけなんだよ。変態だな』  「す、すみません」 そして先輩はまたひとしきり笑うと軽く息を吐いた。 『なんなら電話で手伝ってやろうか?』 「えっ? えぇ!」 『焦りすぎ』 「あ、でも……すごく魅力的なお誘いなのですが、それだと朝まで眠れそうにないので、遠慮します……」 『おまえ、相変わらずだな。朝までってどんだけやる気だよ』 「…………」 黙り込むと先輩は可笑しそうにした。 『電話だけで朝までだったら会ったときは俺、朝まで寝かせてもらえないんじゃね?』 『だから煽らないでくださいってば!」 『ふふふ、ごめんごめん。お前も適当なところで早く寝ろよ?』 「は、はい」 そしてしばらくの間、どちらも喋ることなく静かな時間が流れた。 「あの、先輩……」 「ん?」 優しい声だった。 先輩の声を聞いてると早く会いたくてたまらなくなる。 「先輩……合格したら、たくさん褒めてほしいです」 電話口に優しい吐息が漏れた。 『たくさん褒めてやるよ。当たり前だろ?』 だから合格したら早く部屋探しに来いって先輩は笑って言った。 「じゃあ、おやすみなさい」 『おやすみ』 電話を切った後も、ベランダから見る月は満月に近い形をしていて街は寝静まったように静かなままだった。 でも少なくとも先輩と俺は起きていてこの空の下で繋がっているんだと思うと、少し前に感じていた寂しさは少しだけ薄まった。 「早く会いたいなぁ……」 今日はもうちょっとだけ夜更かしするけど、明日も頑張ろうと思う。 先輩との新しい生活はもうすぐそこだから。 終

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