1 / 36
第1話
「ねぇ、今日も部長、すっっごくかっこいい〜」
「目の保養〜」
「オフィスにいるだけで幸せ〜」
始業前のちょっとした時間。
今日も、話好きの若い女の子たちがキャーキャー騒いでる。
視線の先には、わが営業部を誇る部長…
っていうかこれ、部長に聞こえてるだろ。
ちらりと部長の顔を見るが、何食わぬ顔で朝から事務処理をこなしている。
部長なんて肩書きなのに、部長は若干30歳の若手だ。
そもそも、うちの会社の営業は若手で構成されるようにはなっているものの、部長にしては若すぎる気がする。
それでも、彼の功績を考えれば、納得せざるを得ない。
部長だけで、うちのクライアントの何割を持ち、売上の何割を担っているのか…
俺は入社してまだ2年目のペーぺーだけど、俺より後に部長が出社したことはないし、俺より先に退社したことがない。
俺が30歳であんなに会社に縛られてたら、普通に辞職してると思う。
えらいな、部長…
「おい」
「…、おい!」
部長が誰かに話しかけてる。
珍しいなぁ…
「おい、お前だ、前沢」
「えっ!?へっ!?お、ぼ、僕ですか!?」
「はぁ…、さっきからお前に声をかけている」
ま、まさか俺に話しかけてるとは思わなくて、背筋がピーンっとなった。
結構シカトしてたよな、俺…
こ、こえぇ…
うちの営業部長は、「鬼部長」としても有名である。
.
ともだちにシェアしよう!