2 / 36

第2話

「え、えっと、なんでしょうか?」 「なんでしょうか、じゃないだろう。朝イチで提出するって言った資料は?」 「あ、ま、まだ送ってないです」 「人のことをボーッと見ている暇があるなら、早く提出しろ」 「あ、すいません…」 やべぇ、部長のこと見てるの、バレてた… この分だと、女の子たちの声も聞こえてただろ… 「それと、業務の方から上がる予定表はまだか?」 厳しい声で、先ほどの女性陣に声をかける。 「あっ!すいません!今お持ちします!」 「君たちも、話す暇があったら出来ることをしなさい」 そそくさと蜘蛛の子を散らすように、女の子たちは席に戻った。 陰では、「部長はかっこいいけど、結婚したら厳しそうだから嫌」なんて言われている。 正直、俺も家に帰って部長がいたら、休まるものも休まらなさそう… もちろん、部長のことは尊敬している。 言っていることも正論だ。 それでも、部長に指摘されると死ぬほど緊張する。 「ぶ、部長、資料、PDFで送りました」 「…、数字、合ってない」 「え!?」 「5段目、1個ずつズレてるだろ?」 「う、うそ!?あ、ほんとだ…、すみません」 「前沢、前から言っているが、相手がお客様だったらどうする?見積の値段、出し間違えたら訂正はできないぞ?送る前に三度、チェックしろ。 前沢は、三度、だからな」 「は、はーい。以後気をつけます」 首を竦めて、データの訂正をする。 「お前の以後はいつになるんだかな」 正直、部長に送る資料を間違えたのは今日が初めてじゃないし、稀なことでもない。 部長が怒るのも仕方がない。 で、でも、自分のクライアントとの取引でも手一杯なのに、営業資料とか社内文書の作成まで押し付けられたら…、ミ、ミスくらいするっしょ!? .

ともだちにシェアしよう!