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第3話

それでも、1年目に比べれば、怒られることは減った。 ただ、今日は朝から怒られた… それだけで、気分は下降する。 訂正きた文書を三度、確認して送り直した。 「あ、ぶ、部長、送りました」 「分かった」 ホッと胸を撫で下ろす。 部長の「わかった」は、間違えていないのサインだ。 最初の頃は、「え、それだけ?間違ってないの?」と不安になったものだった。 今となっては、なんとなく阿吽の呼吸まである。 それから、外回りをして定時の少し前に会社に戻る。 やっぱり、部長は帰ってきていない。 いつも定時ギリギリか、過ぎに戻ってくる。 同情を禁じ得ない。 まぁ、俺なんかの同情なんて、いらないだろうけど。 今日の分の事務処理をしていると、部長が戻ってきた。 「お、お疲れ様です」 「お疲れ様」 夕方の部長は少し疲れが見える。 大変、気怠そうで、それはそれでキャーキャー言われている。 朝も夕方も騒がれるなんて…、なんていうか、不幸な人だな。 「前沢」 「え、は、はい!」 「なんだその…、憐れなものでも見るような目は」 「あ、そんな顔してました!?」 「ああ。眉毛なんか八の字になってたぞ?」 「すみません。部長が疲れているように見えたので…」 「そうか…、俺も歳なのかもしれん」 「えっ!?いや、橘部長は、ほかの部長陣と比べても10歳以上若いじゃないですか!」 「まぁ…、営業部だし」 「だとしても、橘部長は若いです。それに、俺が部長と同じ量の仕事してたら、死んでると思います」 「…、お前、部長の座を狙っているのか…?」 「今の話の流れで何故そこに行きついてしまうんですか!?お、俺に部長は無理です!!」 「当たり前だ。現状で任せられるか!」 よ、良かったー。 ディスられてる感はあるものの、俺の仕事がこれ以上増えてしまったら、遊ぶ時間が減る! 俺の趣味は何を隠そう、合コンだ。 可愛い女子と飲みに行くのが生きがいだ… それこそ、俺が橘部長みたいになってしまったら、飲み会はおろか、知り合った女の子との連絡もままならない。 「そうだ、前沢」 「なんでしょうか」 「明日飲みに行くか」 「え、あ、明日は、合コンが…、あっ」 「ほう、部長の誘いを断って合コンか」 「すみません」 「まぁ、そっちが先約だから仕方ない」 「じゃ、じゃあ、部長さえ宜しければ、今日はどうです?」 「今日?これからか?」 「あ、迷惑でなければ…」 「迷惑とは言ってない。7時まで待っててくれ」 「はい」 急とはいえ、橘部長と飲みか〜 日頃のあれこれをまとめて注意されそうだなぁ。 あまり気乗りはしない。

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