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第1話

「おい葵。カウンターの奴がお前を見てるぜ」 一緒に飲んでいた豊に言われて僕はグラスから目を離した。 豊が顎で指した先に、彼がいた。 サラリーマンだろうか。暗い色のスーツに身を包み、独りで飲んでいる。 そういえば以前にも見たことのある顔だ。 彼はこちらを見ていたが、僕が視線をやると目を背けてしまった。 「気をつけろよ、葵。お前を狙ってる奴はワンサカいるんだせ」 豊は面白そうに笑って見せつけるように僕にキスをする。 さっきの彼はこちらをまだ見ているのだろうか。 豊と僕がこのゲイバーに来るようになって2ヶ月。 煙が充満する室内と、落ち着いたマスターの選曲のジャスが心地よくて通っている。 専ら、豊は新しい子を漁りにきているけど。 豊とは別のバーで知り合った。 そのバーは「普通の」バーだったのだけど… 『アンタ、男にしては美人さんだな。どうだ、俺のアクセサリーにならない?』 初対面でそんな事を言われてさすがの僕も、面食らったのだけど何故かついていってしまった。 それからの腐れ縁。 豊はいつも僕の前で新しい子を物色しては持ち帰りする。 相手の子は僕に恐縮しながら、豊と帰って行くのだけど。 僕も豊もお互いにお構い無しなんだ。 だってアクセサリーは嫉妬なんかしない。 ただの持ち物だから。 それを知ってか知らずか、僕にちょっかいを出して来る男たちに、豊は所有権を見せびらかすかのように目の前でキスをしたり身体を触って来る。 大抵のヤツは豊に恐れて僕と話をする前に逃げてしまう。 自分は相手を作るのに、僕には作らせない。 それでも僕は構わなかった。他人と関わるのが苦手な僕はこれが心地よかった。 …彼に出会うまでは。

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