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第1話
笹原和希は俺の2歳年上の兄だ。
兄に対しての古い記憶は、兄の笑顔と、濡れた冷たいタオル。この二つの記憶である。
昔から兄は、俺のことを嫌っている。理由は分からない。
でも俺は、兄のことが大好きだ。
なんでもできる兄。
とてもかっこいい兄。
バスケ部のエースで、いつも女の子と一緒にいる兄。
俺はいつも、兄の横にいる女の子に嫉妬していた。
俺には向けてくれない笑顔、言葉。そのすべてをもらえる女の子が憎かった。
兄と触れ合いたいけれど、兄に嫌われている俺は家でいつも無視されている。
部活をしている兄は帰りが遅い。なので俺はいつも兄の不在中に、兄の部屋に侵入してゴミ箱を覗く。
俺が兄と触れ合えるのはこの瞬間だけなのだ。
ゴミ箱の中には、夜食代わりに食べたのであろうグラノーラのお菓子の包装ゴミや、コンビニのビニール袋。
それに、ぐしゃぐしゃに丸められて変色して乾燥したティッシュ。
『あった……』
ゆっくりとそのティッシュを広げると、独特のにおいがする。
大好きな兄のにおいだ。
そのにおいを嗅ぐと腰から下がぞくりと震える。
慌ててズボンと下着を脱いで、硬くなった自分のそれを上下に扱く。
「兄ちゃん、兄ちゃん……かずき兄ちゃん」
このティッシュの中に、兄の精液が付着している。その事実だけで興奮する。
兄はどんな姿で、どんな表情で精液を吐き出すのだろうか。
それを想像するだけで、血液が逆流するんじゃないかというほどに昂る。
「く、うぅ……っ」
兄の使用済みのティッシュに、射精した。
乾いていた兄の精液と俺の出したばかりの精液が重なる。
これは俺と兄のセックスだ。
またそのティッシュを丸めて、兄の部屋のごみ箱の中へきれいに戻す。
あともう少しでこの部屋に、兄が帰ってくる。
兄の部屋を出て、自分の部屋に入ると、玄関から兄の帰ってきた音が聞こえた。
今日はいつもより帰りが早い。
ぎしぎしと階段を上る音が響く。
俺は部屋から顔だけ出して兄が部屋に入る姿を見る。兄は俺の顔を見ると舌打ちをして部屋の中へ入っていった。
俺の痕跡に、兄はいつも気が付かない。
そんな俺の幸せな毎日は、突然終わりを告げた。
兄が遠くの大学に進学した。
兄はもうこの部屋にいない。
兄の使っていたベッドからは、もう兄のにおいはしない。
空っぽの兄の部屋に入っては、兄の痕跡を探す。
「あった」
髪の毛を一本見つけた。チャック付きの袋にそれを入れる。
部屋に戻って机の引き出しから兄の体の一部を集めている箱を取り出す。
兄の使用済みのティッシュ。兄の切った爪。兄の黒々とした髪の毛。
体の一部ではないが、引っ越し前に捨てたパンツもある。
兄の体の一部を眺めながらのオナニーは虚しい。
「かずき兄ちゃん……会いたいよ」
兄は実家へは寄り付かない。ゴールデンウイークも夏休みも帰ってこなかった。
この世の終わりのような気分を味わっていたが、そんな俺にもチャンスがやってきた。
もう少しで修学旅行があるのだ。
この期間であれば、親にもバレずに兄に会いに行けるのではないだろうか。
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