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一
「葉 月 様、霜 月 様。あずさ、参りましてございます」
濡 れ縁 に膝を揃え、三つ指ついて平伏したあずさは、主 達の声がかかるのをじっと待った。
痩せぎすの骨格は確かに二十代後半の男性のものだが、その雪白の細 面 は儚げな女の風情である。
首の付け根で縛った長い髪は腰まで届き、頬に掛かる後 れ毛や悲しげに垂れた眦 には愁 いの色が濃い。赤味の差した唇には、男を無意識に誘うような蠱 惑 的な色香が漂っている。
秋も深まりつつある宵のことだった。
麻の夜 着 一枚ではそろそろ夜が厳しい。
だが奉公人であるあずさに綿入れなど許されず、第一この薄い衣すら、主達の前ではすぐ用を為さなくなるに違いない。
「顔を上げろ」
命じたのは、抑揚のない低い声だった。
背筋を伸ばすように上体を起こすと、板敷きの部屋の中央、唯一の光源である灯 火 を挟んで、二人の男がそれぞれの姿勢であずさを見つめていた。
向かって右手、脇息に凭れ掛かる長髪の男が、先ほどあずさに声をかけた葉月である。
整った顔は能面のように無表情で、冷淡な印象を見る者に与える。
そして左側で胡座 をかく、逆立つように刈り込まれた短髪の青年が、葉月の年子の弟、霜月である。
野性味溢れる太い眉の下の吊り上がった目は、捕まえた小動物をいたぶる獣の愉 悦 で爛 々 と輝いている。
「早くこっちに来い」
霜月が招くのに応じて、あずさは一段高い部屋の中へと足を踏み入れる。
キシリ、と板が軋 む音がすると同時に、霜月がその逞 しい腕を伸ばした。
「やっ……!」
乱暴に捕まえられた体は、抵抗する間もなく霜月に組み敷かれる。
のし掛かる霜月は体格で兄に勝り、陽に焼けた浅黒い肌と全身に盛り上がった筋肉は、まさしく雄と呼ぶに相応しい。
ニヤリ、と笑った唇の間に牙と見紛う犬歯が覗き、あずさは捕食される恐怖と、そして同時に、被 虐 的な興奮に身を震わせた。
「ほら、四 つん這 いになって、とっとと口を開け」
下 衣 をかき分け、取り出された赤黒い剛 直 が、あずさの眼前に晒される。
むっと香る饐 えた匂いに一瞬躊 躇 したのが気に入らなかったのか、霜月はあずさの前髪を乱暴に掴むと、その柔らかな口内へと無理矢理己を押し込んだ。
「んふ、う、うぅっ……!」
喉の奥に届きそうなほど長くて太い雄の象徴を、あずさは手を添えて懸命に頬張る。兄弟に仕込まれた舌使いで、じゅるじゅる唾液の音を立てながら熱い男根に舌を絡めると、霜月は満足気に細い息を吐き出した。
「ハッ……相変わらず、美味そうにしゃぶりやがる」
「ふぅっ……ん、んぅっ……」
顎の下を犬にするようにくすぐられ、あずさは鼻から艶めいた息を漏らす。
口の中の熱塊はますます大きく硬くなり、今宵もこれを尻に穿たれるのかと思うと、じん、と甘い痺れが腰を重くした。
「今日は俺からだ。いいよな、葉月」
「好きにしろ」
奉仕するあずさに興奮を隠しもしない弟とは対照的に、兄の態度は無関心かに素っ気ない。あずさを眺める瞳にも欲情はおろか、一切の感情の色を浮かべず、彫像のようにそこに在る。
だが葉月とて、あずさの身も心も支配し所有する、絶対の主であることに変わりはない。
あずさは霜月の張りつめた裏筋に舌を這わせながら、絶望と、それを上回る愛欲への期待に心を震わせた。
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