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()(づき)様、(しも)(つき)様。あずさ、参りましてございます」  ()(ぶち)に膝を揃え、三つ指ついて平伏したあずさは、(あるじ)達の声がかかるのをじっと待った。  痩せぎすの骨格は確かに二十代後半の男性のものだが、その雪白の(ほそ)(おもて)は儚げな女の風情である。  首の付け根で縛った長い髪は腰まで届き、頬に掛かる(おく)れ毛や悲しげに垂れた(まなじり)には(うれ)いの色が濃い。赤味の差した唇には、男を無意識に誘うような()(わく)的な色香が漂っている。  秋も深まりつつある宵のことだった。  麻の()()一枚ではそろそろ夜が厳しい。  だが奉公人であるあずさに綿入れなど許されず、第一この薄い衣すら、主達の前ではすぐ用を為さなくなるに違いない。 「顔を上げろ」  命じたのは、抑揚のない低い声だった。  背筋を伸ばすように上体を起こすと、板敷きの部屋の中央、唯一の光源である(とう)()を挟んで、二人の男がそれぞれの姿勢であずさを見つめていた。  向かって右手、脇息に凭れ掛かる長髪の男が、先ほどあずさに声をかけた葉月である。  整った顔は能面のように無表情で、冷淡な印象を見る者に与える。  そして左側で胡座(あぐら)をかく、逆立つように刈り込まれた短髪の青年が、葉月の年子の弟、霜月である。  野性味溢れる太い眉の下の吊り上がった目は、捕まえた小動物をいたぶる獣の()(えつ)(らん)(らん)と輝いている。 「早くこっちに来い」  霜月が招くのに応じて、あずさは一段高い部屋の中へと足を踏み入れる。  キシリ、と板が(きし)む音がすると同時に、霜月がその(たくま)しい腕を伸ばした。 「やっ……!」  乱暴に捕まえられた体は、抵抗する間もなく霜月に組み敷かれる。  のし掛かる霜月は体格で兄に勝り、陽に焼けた浅黒い肌と全身に盛り上がった筋肉は、まさしく雄と呼ぶに相応しい。  ニヤリ、と笑った唇の間に牙と見紛う犬歯が覗き、あずさは捕食される恐怖と、そして同時に、()(ぎゃく)的な興奮に身を震わせた。 「ほら、()つん()いになって、とっとと口を開け」  (した)(ごろも)をかき分け、取り出された赤黒い(ごう)(ちょく)が、あずさの眼前に晒される。  むっと香る()えた匂いに一瞬(ちゅう)(ちょ)したのが気に入らなかったのか、霜月はあずさの前髪を乱暴に掴むと、その柔らかな口内へと無理矢理己を押し込んだ。 「んふ、う、うぅっ……!」  喉の奥に届きそうなほど長くて太い雄の象徴を、あずさは手を添えて懸命に頬張る。兄弟に仕込まれた舌使いで、じゅるじゅる唾液の音を立てながら熱い男根に舌を絡めると、霜月は満足気に細い息を吐き出した。 「ハッ……相変わらず、美味そうにしゃぶりやがる」 「ふぅっ……ん、んぅっ……」  顎の下を犬にするようにくすぐられ、あずさは鼻から艶めいた息を漏らす。  口の中の熱塊はますます大きく硬くなり、今宵もこれを尻に穿たれるのかと思うと、じん、と甘い痺れが腰を重くした。 「今日は俺からだ。いいよな、葉月」 「好きにしろ」  奉仕するあずさに興奮を隠しもしない弟とは対照的に、兄の態度は無関心かに素っ気ない。あずさを眺める瞳にも欲情はおろか、一切の感情の色を浮かべず、彫像のようにそこに在る。  だが葉月とて、あずさの身も心も支配し所有する、絶対の主であることに変わりはない。  あずさは霜月の張りつめた裏筋に舌を這わせながら、絶望と、それを上回る愛欲への期待に心を震わせた。

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