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 目覚めたことを自覚するまで、少し間があった。  軒の向こうに見えるのは、意識を手放す前と同じ青空。しかし陽が少し西に傾き、風も宵の涼しさを孕み始めた気がする。  すぐ傍らで、誰かが背中を向け座っていた。自分が目覚めたことを気配で察したのだろう、ゆっくり振り返ったその人はやはり葉月だった。  葉月は不思議な顔をしていた。  先刻見た苦痛に耐える表情とも、常の無表情ともどこか違う。  例えるならば、空虚。何もかもを諦め、捨て去ってしまったような(せき)(りょう)の影が、彼の静かすぎる(おもて)にはあった。 「気を失ったから転がしておいた」  淡々と述べられた自身の状況に、あずさは慌てて跳ね起きる。申し訳ありません、と平伏して気がついた。汗にまみれていた身は清められ、着物も雑ではあるが着させられている。 「大変失礼致しました。二度とこのような失態がないよう、気をつけます」 「…………」 「そろそろ(ゆう)()()(たく)がありますので、これで下がらせて」 「必要ない」  中途で(さえぎ)られ、あずさは言葉を失う。  恐る恐る顔を上げると、葉月はこちらに背中を向けたままだった。  そしてあの抑揚のない声で、信じられないことを口にした。 「霜月のいない今なら見逃してやれる。……おまえの『家』に、帰るといい」

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