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タブー (4)
「僕は悪くない……悪くないんだ」
うわ言のように、何度も何度も繰り返す。
ふたつの目から滝のように流れ出ている涙を拭おうともせず、
ただ口元に淡い笑みを浮かべ、何度も、
「悪くない……」
何度も。
「僕は悪くないんだ……」
人形のようだと思った。
握りしめたらその場で壊れてしまいそうな、弱く脆い、
人の形をしたモノ。
「ははっ……だって、僕は悪くないもん……」
楽しそうに泣く世那の前で、父さんはついさっきまで生きていたのが嘘のように、すっかり死人の顔をしている。
俺は、ゆっくりと立ち上がった。
世那をここまで追い詰めたのは、俺だ。
家族が壊れて、ひとりになるのが怖かった。
だから世那を、
見捨てた。
なんという哀れで弱い心。
救いようがない。
今さら償えるはずがない。
それでも、
こんな俺にも、できることがあるとしたら。
きっとそれは、
たったひとつ。
そう広くはないリビングを、時間をかけて横切った。
吹き飛んでいた鞄を漁り、スマートフォンを取り出す。
小さく軽いはずのそれが、今日はずっしりと重い。
震える人差し指を、ゆっくりと動かした。
押した番号は、たったの三つ。
ワンコールも終わらないうちに、落ち着いた女性の声がした。
ひいひいと泣き笑う世那の後ろ姿が、奇妙に蠢いている。
その光景を脳裏に焼き付けながら、俺はただひと言、告げた。
「俺、父親を殺しました」
fin
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