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タブー (3)
『和誠』
『……』
『兄ちゃん!』
『おわっ!びっくりした』
『ずっと呼んでたのに!』
『悪い、音楽聞いてた。どうした?』
『……』
『世那……?』
『兄ちゃん、今日は何時くらいに帰ってくる……?』
『部活出るからいつもどおりかな』
『そ、っか……あのね、今日はあの人、仕事午前中だけなんだって』
『へえ、珍しいな』
『僕もテスト中だから午後休みなんだ。だからね、兄ちゃん。あのね……?』
『うん?』
『今日は、早く帰ってきて……?』
ハヤク、カエッテキテ。
ああ、そうだ。
世那は確かにそう言った。
そして俺は、
聞こえなかったフリをした。
知っていたんだ。
もうずっと前から。
なぜ、世那の身体は痣だらけなんだ?
なぜ、世那は父さんのことを父と呼ばない?
なぜ、俺たちは兄弟なのに全然似てない?
なぜ、父さんと母さんは目を合わせない?
裏切ったのは母さん。
そして生まれたのが、世那。
父さんは母さんを赦した。
それは愛だったのか。
それとも、見栄か。
単なる意地なのか。
それは俺にはわからない。
でも、父さんは母さんを赦した。
そして、
世那を憎んだ。
俺は知っていたんだ。
すべての答えを。
夜中に響いてくる啼 き声の正体も、
その理由 も。
世那は耐えていた。
自分がどんな星のもとに生まれたのかを理解し、そして受け入れようとしていた。
でも、世那は幼すぎた。
――早く帰ってきて……?
あれは世那からの最初で最後のSOSだった。
俺はそれに気付いていたのに、気づかないフリをした。
世那の限界は、もうすぐそこにまで迫っていたのに。
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