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プロローグ
祝日明けのある日の朝、魔法宮の次官イーノック・ローグは上司であるジェフリー・レブルの執務室のドアをノックした。
いつもなら、すぐに「入れ」と、声が掛かるはずなのだが、その声が返ってこない。
イーノックの上司であるジェフリー・レブルは、魔法宮で最も優れた魔術師だ。
更に、今年26歳になるこの若者は、恐ろしく美しい容貌の持ち主で、崇拝者は魔法宮だけに留まらない。
しかし、そんなことを、本人は気付いているのかいないのか、イーノックの知るジェフリー・レブルは勤勉で真面目な上司である。
だからこそ、イーノックは不審に思った。
いつもなら、執務室に座り、仕事を始めているはずなのだ。
してはいけない行為なのだが、イーノックは妙な不安にかられ、ジェフリーの執務室のドアを開けた。
やはり、おかしい。
いつもジェフリーの机の上には未処理の書類が山積している。
仕事が遅い訳でも、仕事ができないわけでもない。
あらゆることに精通しているジェフリーのもとには、厄介ごとが次から次へと持ち込まれていて、いくら仕事をしても追いつかないのが現状なのだ。
その書類が、ない。
綺麗に片付けられていた。
しかし、机に近づいたイーノックは、ジェフリーの机の上にちょこんと置かれている、小さい封筒に気付いた。
―――辞表。
封書には、そう表書きがされていた。
イーノックは決して無能ではない。
しかし、有ってはならない事態に、思考が完全停止してしまったのだ。
そして長い沈黙の後。
「たたた、大変! 大変だぁぁぁ!!」
イーノックは辞表を片手に、執務室を飛び出した。
ドナン王国の至宝と呼ばれるジェフリー・レブルの失踪。
そのニュースは瞬く間に王帝へと奏上され、その日のうちに捜索隊が結成された。
しかしその行方は、いつまでたっても、杳として知れなかった。
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