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第7話

 リチャードはズキズキ痛む頭を押さえながら、食堂に向かった。  それは、断じて酒のせいではない。  ジェフが早々に酔いつぶれたせいで、リチャードの酔いは軽いものだった。  昨晩、寮の部屋に戻ってきたジェフは、服を脱ごうと上着のボタンに指をかけるのだが、うまく脱げなくてリチャードに訴えかけてきた。 「……リチャ……、脱ーげーなーい。  あついー!!  ……脱がしてよぉ!!!」  ふらつきながらリチャードにすり寄ってきて、ジェフは甘えるように下から覗き込むのだ。  酒を飲ませたら間違いなく襲われるな……。  騎士団のやつらの中にも、もちろんそういう・・・・者たちがいる。  しかし、だいたいの人間が知っているその事実に、ジェフは全く気付いていないようなのだ。  だから、性欲処理のためには男でも構わないという連中にとっては、もともとジェフは狙いやすい子猫ちゃんだった。  しかし、田舎から出て来たばかりのジェフは、王都ではまず見かけられないくらいに真面目で性格も良い好青年だ。  だからそんな世界は知らなくてもよいと思うのだ。  今はまだ。  まあ、そのうち世間ずれしてくるだろうとは思う。だがジェフが純朴なうちは、リチャードが守ってやろうと、密かに思っていた。   しかし、ジェフが酔ってこんな乱れた状態になるのが知られれば、明日にでも後ろの貞操を失ってしまうことは想像に容易い。  こっちの気も知らないで、呑気なもんだな……。  「まったく、世話が焼ける……」と文句を言いながら、リチャードはジェフの服に手を掛けた。  服を脱がされているというのに、子供の様にじっとしている。 「ほら!  手を上げろ!」  両手をバンザイさせ、リチャードは上着の下に来ていたジェフの貫頭衣を上に引っ張り上げた。   ああ……また香水をつけたのか……甘い匂いがする。  リチャードはジェフのズボンのベルトを外すと、服が支えを失って足元に落ちた。  下履き以外の衣類をすべてはぎ取ったジェフの体を、リチャードはいとも簡単に持ち上げる。  ジェフの使用している寝台に向かうと、ジェフの体を横たわらせた。  初めて見るジェフの体は、ごつごつした男性的なものではなく中性的に丸みを帯びていて、白い肌は艶を帯びて美しい。  そしてその肌が、アルコールの影響で、ほのかにピンク色に染まっていた。  無駄のない引き締まった体だが、リチャードのそれと違って派手に盛り上がる筋肉ではない。  つ……と、リチャードがやさしく胸元を指でなぞると、ジェフは恥ずかしそうに目を伏せた。  しかし嫌がる様子もなく、ジェフはリチャードに身を任せている。  リチャードはジェフの体に覆いかぶさり、か細い首筋に唇を落とした。 「………あっ……」  ジェフの口からは甘い吐息が漏れた。   そのままリチャードはジェフの下履きに手を伸ばして……。  うわっ!  何やってんだ!!  リチャードは、我に返って顔を上げた。  俺は何を血迷って……!!!!!  驚いて体を起こしたせいで、がんっ! と、寝台の低い天井に頭を打ち付けてしまった。 「ぐっ……!」  痺れた痛みが後頭部を襲う。  しかしその痛みのおかげで、意識がはっきりと保たれた。  甘い匂いを嗅いだ途端に、理性が飛んでしまったようだ。  リチャードは、性器が丸見えになっているジェフの下履きをもとに戻すと、その体の上に上掛けをかけて自分の寝台へと戻った。  盛りのついたガキじゃあるまいし、何をやってるんだ俺は……。  自分の蛮行に、リチャードは恥ずかしさで頭を抱える。   だいたいジェフはベータじゃないか!!  オメガに盛るんならともかく、ベータに盛るなんて俺は変態か!  いくらオメガみたいに甘い匂いをさせているからって、俺は……。  まてよ?  いくらなんでも、匂い嗅いだだけで理性が飛ぶっておかしくないか?  リチャードは、顔を上げて、横たわるジェフを見つめた。  ………オメガ?  いや、それにしては発情期がこない。  3か月も一緒にいるんだ。  一度は来ていないとおかしだろ?  発情期が来ないオメガなんて、聞いたことが無い。  ぐるぐると思考がまとまらず、寝台に横たわっていても、全く眠気が訪れなかった。  そして空が白み始めたころ、ジェフが寝台に腰かけながら小さく呟いているのに気付いた。  結局、眠れないまま夜が明けてしまった。  ジェフの様子をぼんやりと見つめていると、ジェフはリチャードの視線に気づいて、昨夜のように肌を赤らめた。  恥ずかしがり、体を丸めたジェフの背中を見つめながら。 「いや……気にしすぎだろ?  ……男同士なんだから……」  リチャードは声を絞り出して立ち上がった。  ……ったく!!  意思を裏切り勃ち上がりかけた自分の分身に視線を落としながら、リチャードはジェフに気取られないようにそそくさと部屋を出ていった。  その顔は、ジェフに負けないくらいに赤くに染められていたのだが。

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