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第10話
「そういえば最近の魔法宮、何かごたごたしてるよな?」
昇格試験の前日、夕食時にそんな話を始めたのはバイロンだった。
バイロンはいろんなところに友人を持ち、持ってくる情報は価値が高いものが多い。
言動のチャラさが裏切っているが、結構使える男なのだ。
ちょっとよれたおじさん騎士にしか見えないのに、こう見えて王都の治安と警備を担当する第2部隊では部隊長に次ぐ地位を得ている。
「ごたごたって、なんですか?」
ジェフリーらと一緒に合格したエリス・ニエマイアは興味津々にバイロンに聞き返した。
もちろん、ジェフリーは無関心を装いながら、バイロンの言葉に耳を欹そばだてている。
「なんかレブル長官の姿が見えないって話でなー」
「ええ?
魔法宮の?
どうしてですか?
体調を崩したとか、ですか?」
「それが良く分からん。
いろいろな話は出ている。
魔法宮が最近人の出入りが激しいって話もある。
もっとも一番有力なのは、長官の王太子への嫁入りが近いんじゃないかと噂だ」
バイロンの言葉に、ジェフリーは驚きのあまり思わず「なっ!」と声を上げてしまった。
違う! そんな予定はない! と、とっさに言わずに済んだのは、ジェフリーの横で、リチャードがスプーンを落として大きな音を立てたからだった。
「うるさいぞ! ジェフ!」
どちらかというとうるさかったのはリチャードの方だったのだが、遠くから叫んでいる第7部隊長のクレメンスには、そこまで見えなかったようだ。
名指しされたジェフリーは取りあえず謝罪した。
「っ! はっ! 申し訳ありません!」
椅子から立ち上がり、敬礼をし、また席に戻る。
その間、肝心のリチャードは微動だにしていなかった。
「リチャード?
どうした?」
ジェフリーが話しかけると、リチャードは青白い顔をしている。
「……いや、何でもない」
何でもなく見えないんだけどな?
そのまま席を立ったリチャードの背中を、不思議そうに見つめるジェフリーだった。
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