41 / 168

第41話

 眼鏡を押しあげた。ひらりひらりと振り動かされる手は催眠術師のそれのようで、眩惑される。  即ち魔が差した──。  頑なな態度が軟化する兆候が現れたことを察知して、くいくい、と親指が動く。  透明な糸でたぐり寄せられるように、足が独りでに動きだす。ダイニングチェアと向かい合って立つと、後頭部に手が添えられた。  ためらいがちに顔をうつむけるのを待って、よくできました、というふうに唇をついばまれる。  好かれていると信じたい、信じようと決めたのだ。  不安がつのるそばから、それを打ち消して唇の結び目をほどく。  人それぞれ流儀があって妥協点を見いだすことが、ふたりの歴史を作ることにつながるのかもしれない。そう考えるとキスが深まる。  くちづける角度を変える合間に、猫なで声が唇のあわいをたゆたう。 「やってくれるな」  割り切れないものはあったが、強いてねじ伏せる。三枝は、ゆるゆると膝を折った。  もっとも、すでにいきり立っているものを目の当たりにすると怖じ気づく。  眼鏡を外した。恐る恐る顔を伏せていくにつれて、石鹸の残り香がくゆり立つ。  蒸し暑い季節柄、単に汗を流してから訪ねてきたのか。  それとも部屋に通されるなりセックスになだれ込めるように──つまり時間を節約する思惑があってシャワーを浴びてきたのか。  うがちすぎだ、と自嘲気味に嗤う。屹立を両手で支えて、(いただき)に唇をかぶせた。  ただし、ブランクがあるせいで、ぎこちない。先端を食むと、その独特の弾力性におののく。  もともと口淫は不得手だ。思わず歯列を鎖すと、サオがずるりとすべって鼻の穴をふさぎ、いきおい口許がゆるむ。  すかさず、こじ入ってくる。喉を突かれて嘔吐(えず)き、 「……ぅう、ん、ぐっ!」  ペニスを吐き出そうとしたが、腰を突きあげてこられて果たせない。 「ちんたらするな。サービス問題から解答欄を埋めていって点数を稼ぐのが試験のセオリーだ。あれの応用で裏筋を重点的に舐める」

ともだちにシェアしよう!