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第73話
白々とした空気が流れた。武内は毒づきながらスマートフォンを引っ摑むと、浴室のドアを押し開けるかたわら応答ボタンをタップする。
三枝はタオルケットを引っかぶった。水を差されてかえってホッとする反面、甘やかなものが内奥にくすぶり、悩ましい吐息がこぼれる。
いつもの癖で眼鏡を押しあげ、その指はさっきまで内 に在った──。
タオルケットにくるまって手足を縮こめた。だいたい武内も武内だ。授業中のスマートフォンの使用を禁ず、と校則に明記してある。
その例に倣うと、セックスの最中はスマートフォンの電源を切っておくのが礼儀じゃないのか?
襞がむず痒くて腰がもぞつく。ローションが乾きはじめているためでもあるが、愉楽の壷へと作り替えられようとしているそこが、さらなる愛技を欲している──。
頭をひと振りして、まったく別のことを考える。あしたは午前中いっぱい赤点組および、受験対策に特化した三年生の補習とあわただしい。
仕事に忙殺される毎日だが、お盆の前後にはまとまった休みがとれる。
休み中のスケジュールは今のところ未定だ。武内は、何か心づもりがあるのだろうか。
仮にもつき合っているのなら、泊りがけとは贅沢は言わない。日帰りで遠出をするとか、そういうイベント的な計画を練るのもありなのでは?
宙ぶらりんの状態に置かれて数分が経過した。「待て」と命じられた犬ではあるまいし、と下着を拾いあげた。
だがシャワーを浴びないうちに穿くのは、ためらわれる。
閉ざされたっきりのドアを睨む。狭い部屋だ。別に聞き耳を立てているわけではないが、物音にエコーがかかるという浴室の構造上、声をひそめていても相槌に関しては切れ切れに漏れ聞こえる。
なんとはなしに秘密の匂いを感じる。
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