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第75話

 ノルマを果たした。三枝はそう思い、太腿の力を抜きながら、ノルマ? と心の中で繰り返した。  恋人と睦み合っているさなかにノルマだなんて、情緒に欠けるったら。  あとはセルフサービスでというふうに、打ち捨てられたペニスを慰める気にもなれない。身じろぎした拍子に、餅を()くように内腿が粘ついて、こちらを洗い流すのが先決だ。 「シャワーを浴びに……」  抱擁から逃れようとすると、かえって抱きすくめられる。  賢者タイムに入った武内は余韻にひたるどころか、換気扇の下へ事後の一服をくゆらしにいくのが常だ。  ある意味、珍事だ。ミネラルウォーターを取ってくると、口移しで三枝の喉を潤す。 「照れ臭いです、でも……」  ラブラブっぽくて嬉しい──。咳払いで濁して、はんなりと微笑(わら)う。武内がピロートークを楽しむ気分になっているなら、こちらも口移しで渇きを癒やしてあげると、もっと甘々な雰囲気が漂うはず。  さっそく裸体の下から這い出して、床に転がっているペットボトルに手を伸ばす。  ひと口含み、唇を重ねる。だが結び目は鎖されたままで、ミネラルウォーターは口の中で虚しく温まっていった。  素っ気ない態度に、少なからず傷ついた。武内が彼の体液で三枝をよこすのは至極当然なことでも、その逆はルール違反にあたる、と匂わされたように。  見つめ返す双眸を残忍な光がよぎった。内腿に掌がかぶさり、残滓をこそげとった指が口許に突きつけられる。 「舐めて、きれいにしてもらおうか」 「『俺が法律だ』みたいで横暴で……!」  語尾は唇を嚙み裂くようなキスにさらいとられた。舌を搦め取られるはしから唇をもぎ離すと、その唇のあわいを辛辣な科白がたゆたう。 「今じゃ教師はブラック企業の社員並に過酷な労働条件で働いている。適当にガス抜きができないやつが女子の更衣室を盗撮してみたり買春してみたり、馬鹿をやらかす」 「おれは……」  ──何かの捌け口ですか……。

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