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第76話

 冗談めかして訊ねてみたら、どんな答えが返るのだろう。自虐的だな、と笑い飛ばしてくれるのだろうか。あるいは、はぐらかされるのがオチなのか。  前者にしても後者にしても不満がくすぶる予感がして、口をつぐむ。  猛暑つづきのなかで帰省ラッシュがはじまり、ニュースは空港や高速道路の混雑ぶりを伝える。  三枝のお盆休みは結局、実家に顔を出して、地元の旧友と飲みにいった程度で終わった。  携帯電話は便利な反面、罪作りなツールだ。武内のスマートフォンに何度か電話をかけたが毎回、留守番電話サービスにつながるのみでコールバックはなし。  LINEとメールに対しても梨のつぶてを決め込まれ、まさか一種の放置プレイだろうか。  だから休み明けの出勤時、武内と職員用の玄関で行き合わせたさいには、うれしいと思うより先にショックを受けた。  武内は、こんがりと日に焼けていた。南の島で休暇を満喫してきた、という見本のように。  もしも土産と称してマカダミアナッツあたりを渡されることがあれば、熨斗(のし)をつけて返そう。  うつむきがちに革靴をサンダルに履き替えるにしたがって、ふつふつと怒りが込み上げてきて、下駄箱の扉を開け閉めする指が小刻みに震える。  ──携帯が通じない秘境が日本に残っていたとは、驚きです……。  ほったらかしにされていたぶん皮肉る権利があって、しかしプライドが邪魔をする。三枝は眼鏡を押しあげると、笑顔をこしらえた。  ひがみ根性丸出しで食ってかかるのは、みっともない。第一、校内ではお互い教師の顔を崩さないのが鉄則だ。  あらためて、にこやかに挨拶を交わす。そして武内とつれ立って職員室へと向かう途中、 「すみません、おれはちょっと……」  尿意をもよおしたふうを装って手洗いに寄った。やるせなさと口惜しさをない交ぜにゆがんだ顔が、鏡に映り込んだ。

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