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第77話

 運動部系の生徒でにぎわしいグラウンドや体育館にひきかえ、校舎は閑散としている。  学期中とは異なって定時で帰宅できるものの、のんびりとしてはいられない。二学期は行事が目白押しだ。  通常の授業にしわ寄せがいくことがないよう、今のうちにまとめておきたい資料があったり、研修に参加したりと、むしろ夏休み中のほうが忙しい面がある。  出勤して早々カチンとくる出来事があった、その翌々日も、三枝は例によって例のごとく教科準備室にこもっていた。  夏休みの課題から出題する小テストを作成していると、 「負けた、チクショー、外野に抜けたぁ!」  国語科の同僚が背もたれを盛大に軋ませながらのけ反り、ぎょっとしてボールペンを取り落とした。三枝はボールペンを拾いがてら、くだんの同僚の元へキャスター付きの椅子を漕いでいった。 「負けたって、何が、何にですか」 「俺の母校が甲子園の準々決勝でサヨナラ負けを食らった。チクショー、トンネルやらかしたセカンドは丸刈りの刑だだ!」  と、吼えながらイヤホンをむしり取る。スマートフォンで生中継を聴いていたとみえて、イヤホンからベスト4進出を果たした学校の校歌が流れ出す。 「高校球児の祭典が終わって、日が暮れるのが少し早くなって。新学期が始まると文化祭の準備に生徒たちが浮かれて」  三枝がそう言うと、 「バカ騒ぎのあとには中間試験、結果を元に三年生は最後の三者面談。ぼんやりしていると来週は卒業式ってことになってたりするんだなあ」    同僚が肩をすくめ気味に後を引き取った。  などと、ひとしきり雑談を交わしてから問題文を推敲する作業に戻る。だが目がしょぼしょぼして集中できない。額が熱っぽくて、なのに悪寒がする。  こめかみが疼き、指の腹で揉む。  ゆうべ武内が、ひょっこり訪ねてきた。曰く「親戚がリゾート地で営むペンションの手伝いに駆り出されて、休みが丸々つぶれた。連絡できなくて悪かったな」。

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