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 玄関が閉じられる音で目が覚めた。 「ん……貴遠…?」  どうやら、うたたねをしている間に、恋人はどこかへと出かけてしまったようだった。  窓辺をぼんやり見れば、カーテン越しに外の光が、夜景から零れた光が忍び込んでいる。エアコンが静かに温風を吐き出し、その静かなモーター音が愁の耳元に寂しく響く。 「どこ…行ったんだよ…」  最近はセックスのあと自分が眠りについたと同時にどこかに行ってしまう。帰ってくるのは決まって翌日の夕暮れ。  会社員としてきちんと働いているらしい彼を、大学生である自分がどこに行っているのか、問いただすわけにも、問い詰めるのも違うと感じていた。だから、夕食らしきものを一緒に食べ、セックスをし風呂に入り布団に入る。  そして、置き去りにされる毎日を送っていた。 「はあ、二重生活…?」  もしや、と要らぬ心配を抱えるのも阿保らしいと愁は考えていた。  貴遠は自分の趣味趣向などを尊重してくれているし、押し付けることをしなかった。乳首にピアスを開けることも嫌な顔せず手伝ってくれた。その後のセックスでも、被虐嗜好の愁に合わせピアスを使った愛撫もしてくれた。  完璧な恋人じゃないか。  遊びたい盛りの自分を囲うこともせず、自分の仕事を全うしている。それだけなのに。  愁は、ベッドを降りると冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し飲んだ。  なんだか、乾燥している。  そういえば、この間まで半袖で過ごしていたのに、なんだか上着を羽織ることが増えていた。そろそろ衣替えの季節かもしれない。  普段から煩わしいと裸でいることが多い自分には、関係のない話だが。  ふと、姿見のミラーが目についた。  乳首から下がるリング式のピアスが鋭く光っていた。ブルーがかった金髪に、色白の肌。耳元にはシルバーのピアス。  華奢な体つき。パンクファッション好きといえば聞こえがいいが、何処から見ても完璧なチャラ男がそこにいた。  スーツを着こなす貴遠の隣に、本当に自分が並んでいてもいいのかと何度も思ったし、尋ねた。  貴遠は決まって優しく笑ってキスをした。 「チ…勝てねえ…」  何に、というわけでもないが、勝負をするつもりもなかった。   「…さむ…」  肌寒いくらいが丁度いい自分には珍しく、肌が粟立った。  インターホンが鳴ったのは、その時だった。

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