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第1話 対峙

秋月が連れて来たのは… 周防切嗣の東京の別邸 日本庭園が広がり、数寄屋造りの家が、その庭園に合って… 美しさを醸し出していた バスは…門の前に停まった 秋月はバスから降りると…重々しい門を解錠して押した すると重厚な門が、ギギギギギィィィ~と開かれた 「使用人は…総て…解雇して今は誰もおりません 中にいるのは…周防切嗣…唯…一人に御座います…」 と、頭を下げて…康太を促す 康太は、何も言わずバスから降りると、スタスタと歩き出した その後を榊原が追う 続いて…一生達が追った 戸浪海里は…総てを見届ける覚悟で…最後に降りて…全員を見ていた 秋月は……それを見届けて… 屋敷の中へ入った 自らの手で…重厚な門を…閉めた 切嗣様… 翁の…申してた人が参ります 道を誤って走り続けてしまった… 貴方が…やっと… その走りを…終えられる時が来たのです… 切嗣様… 我も共に逝きます… 貴方に遺されたのは… もう…私しか… 残ってはいないではないじゃないですか… 英華に集っていた…輩は皆… 終焉を察知すると…去っていった… 貴方には…もう…誰も…残ってはおらぬ… 康太はまるで…前に来たことがあるかの様に的確な足取りで歩を進める 玄関まで行くと…康太は立ち止まった 秋月がやって来て、玄関を開け、スリッパを用意する すると、靴を脱ぎ…スリッパに履き替え、秋月を見た 「秋月…人様のお宅を勝手に歩き回るのは…気が引ける…案内しろ!」 居場所は解っている… 解っているが…秋月に連れて行けと…康太は言う スタスタと周防の部屋に行き…引導を渡す…そんな事はする気はない… 非礼きまわりない行動は…する気はなかったからだ… 「……では、此方へ…」 長い廊下を歩いて行く 廊下越しに日本庭園が眺められる様に、ガラス張りの廊下は朝陽が差していた 庭園の石がキラキラ光る… 秋月が案内する後ろを一生が歩き… 康太を守るように榊原が、康太の少し後ろを歩いていた 聡一郎と隼人はその後ろに着き、慎一が続く 誰もが黙々と廊下を歩いて行った 長い廊下を…黙々と歩き、中庭が一望できる… この屋敷で一番良い部屋の前に止まると、秋月は屈み込み膝を着いた 「切嗣様…お連れ致しました…」 秋月が声をかけると…部屋の中から… 「入れ…」と返答がされた 秋月が襖を開けると… 「どうぞ…」と、康太達を招き入れた 開かれた襖の真ん中に…康太は立ち…部屋の中を見据え 唇の端を吊り上げた 「周防切嗣…久し振りだな!」 康太の言葉に…秋月は… 康太を見上げた… 「お知り合いなのですか…?」 そんな事は…聞いたことなどない 周防は秋月の言葉には返さなかった 「飛鳥井康太…翁の…掲げた絵画の年になったか…」 周防の座っている…床の間の上に… 康太の絵が…掲げてあった その絵は…周防の命で…見えぬ様に… 外されていて、秋月ですら目にした事はなかった… 秋月でさえ…その絵を目にするのは… 初めてだった 色褪せた額縁の…絵には… 今、現在の…康太の姿が描いてあった だが…その絵は最近描かれたのではなく… 額縁が…風化していて…年代を感じさせていた… 「蔵人との約束を果たしに来た… 解っているんだろ? だから…どんな手を使っても…俺を潰そうとした…違うか?」 康太は部屋に入ると… 絵の前に立った そして秋月の方を見て嗤った 「秋月、この絵はな、蔵人が描かせたオレの未来画だ! 鷲尾風月の…先読みの目に映した… 今、此処にいる、オレの絵だ!」 康太はそう言い…自分の顔の描かれた絵を指でなぞった 額縁の中の…康太の絵は… 今、立っている服装で…容姿で書かれていた 今の風景を過去の人間が見て描いた… としか言えない…絵だった 「今、この瞬間のオレを…風月は見て描いた この絵を描いた時のオレは…まだ小学生だ 風月はオレの未来を詠み…描いた絵がこれだ! この絵はな…周防の終焉を蔵人が詠み…切嗣へ遺した遺言だ!」 康太が告げると…周防は瞳を閉じ…当時に想いを馳せた 家督を譲ると言う日…切嗣はこの部屋に呼ばれた 呼ばれて行くと…少年とも青年ともつかぬ絵が飾られて…その絵の前に蔵人が立っていた 蔵人は切嗣を見るなり…嗤った 『切嗣…わしがなにも知らぬと想うか?』 周防蔵人の瞳は…切嗣の果てまで見透かしそうな目をしていた 切嗣は惚けた 『翁…何の事でしょう?』 『お前は…持てる権力に溺れて…周防を貶める… 持てる権力に神にでもなったと傲るか?』 蔵人の瞳は切嗣を捉えて離さなかった 総て見えてるんだぞ… とでも言う……その瞳が…切嗣は嫌いだった 蔵人は自分の力を…子供に受け継がせるのを危惧して生涯独身を貫いた 従兄弟の子を貰い受けた時から…周防の終焉を見ていた 見ていて…蔵人は何も手は打たなかった… 周防の終焉……それこそが…周防蔵人の望みだったから… 蔵人は…黄泉の眼を持つ飛鳥井源右衛門と懇意にしていて、この屋敷で良く酒を酌み交わしていた その時…次代の真贋だと…紹介されたのが…… 飛鳥井康太だった 源右衛門は蔵人に 『この子が次代の真贋だ!』 と蔵人に紹介した 横柄な面構えの康太の姿に…蔵人はただならぬものを感じていた 強い…果てしなく強い…力を感じていた 『この子が…』 蔵人はそう言い…康太を見た 『飛鳥井康太…この子は100年に一度転生し救世主だ…飛鳥井は…この子の手によって…また100年続く…稀代の真贋だ 』 源右衛門の言葉に…蔵人は納得した そして蔵人は…康太に 『飛鳥井康太…お前が周防の終焉を告げる…死神になってくれ…』 と頼んだ 康太は不敵に嗤い… 『良いぜ!オレが…終焉を突き付けて…終わらせてやる! 哀しい魂を…救ってやんよ! どうやらオレは…そう言う定めにある』 この時点で…周防の家の…果てを詠む… その力に…蔵人は総てを託す…事にした 歪んで進んで行くしかない果てならば…その手で断ち切ってくれ…と蔵人は頼む そして……その歪みの果てに…行かせてしまった…哀しい魂を…解き放ってくれ…と 蔵人は頼んだ 『蔵人、鷲尾風月を呼べ! オレの…果ての姿を書かせろ!』 終焉を告げる者を…遺して逝け…と言うのだ… その絵を…切嗣に渡し…お前は黄泉を渡れと…言うのだ 蔵人は…総てを飲み… 先詠みの画家…鷲尾風月を呼んだ 風月は呼ばれた時点で…総てを了承し、康太へ 『飛鳥井康太…私に…その時の貴方を見せなさい!』 と告げ…スケッチを出した 真っ白な…スケッチに風月はペンを走らせた 風月は…果てを見ながら…下絵を進めた… 下絵を描き上げるまで…黙々とペンを走らせ… 下絵が終わると…何も言わず…頭を下げ…帰っていった その1か月後に出来上がったのが… 康太が背にしている…未来画だった まさに…今日、この日の…飛鳥井康太を鷲尾風月は描いたのだ 周防が…あの額縁の…存在すら忘れて過ごしていた頃… 突然…それは突き付けられた… 世界が終わるかの様な……衝撃 一条隼人の記者会見で… 飛鳥井康太が、初めて…公の場に姿を現した 初めて目にした時の…驚愕と戦慄は…忘れない 蔵人が『お前へ終焉を告げる人間を用意した…彼と逢う時…お前は破滅へと導き終わりを告げる…』 と言い絵を渡された… 死神の顔を… 見間違う筈など…ない 易々と…やられてたまるか! 心に…闘争心が燃える 蔵人から受け取った絵を見て… 切嗣は…こんな子供に終わりを告げられて…たまるか! と、唸った こんな子供…こっちが捻り潰してやる… そう…せせら嗤った だが…初めて…飛鳥井康太を目にした日 切嗣は核心へと変わって行った ならば…出る杭は打つしかなかろうて! 潰される前に…潰してしまえば良い… そう思い…弟の盛田兼久を唆した 飛鳥井家 真贋を手中に納めれば…この世界だって…手に入る 飛鳥井建設を狙い撃ちして…手に入れろ そうしたら…飛鳥井家真贋は手にしたも同然 真に受けた…盛田兼久は飛鳥井建設を…手に入れようと…躍起になり 飛鳥井康太の手によって…滅びの序章を唱えられ…滅び行くのに耐えきれず… 自らの命を断った 我が弟を… 切嗣は怒りと憎しみを…飛鳥井康太へ向け 形振り構わず…潰す事に躍起になった 躍起になれば…なる程… 追い詰められて行く… 飛鳥井康太を追い詰めて行くのに… 自分が追い詰められて行く… どんな手を使っても潰せぬと…解った日 切嗣は…息子を呼んだ… 息子として生きて来させた…譲を呼んだ 『何か御用ですか?』 この子供は…切嗣に従順だった 秋月が育てた…秋月の後継者だった 『飛鳥井康太を……その手に掛けてきてくれ…』 抹殺しろと…譲に頼んだ 譲は…息を詰めると… 『了解しました…』と言葉を吐き出した 無茶な依頼なのは…解っていた… これで……この子供も…解き放たれるならば良い… 途中で逃げたとしても…構わない 飛鳥井康太は容易く討たれなどしない… 況してや…譲の手になどに…掛かってなどくれまい… 解っていて送り出した… そして行方を断った… 秋月が使える総ての手を使って行方を探したが… 行方は…解らず…秋月は切嗣にそう告げた 切嗣は、ならば良いと…吐き捨てた… これで自由になるなら…構わぬ…と 何十年も駆け続け生きてきた その中で…今日と言う日は…心穏やかに迎えられ… 周防切嗣は…静かにその時を迎えていた… その時を…待っていた 「飛鳥井の死神…やっと…逢えましたね」 切嗣は康太を見据え…そう言った 康太は何も言わず…切嗣を見ていた 切嗣は静かに懐から…短銃を持つと…康太へ向けた 「私が無抵抗で…お前に引導を渡されると想っていたか?」 切嗣が皮肉に嗤う だが、康太は微動だにしない 後ろの榊原は…康太が動かないから…警戒だけした 何かあったら…康太の前へ出でる… この命に代えても…康太を守る… トリガーに…力を込めようとした瞬間… 天井が…割れんばかりの…轟音が響き渡った 時空を切り裂き…荒波を呼び起こし…現れたのは… 「海坊主の…登場か…」 康太はクスッと笑った 弥勒厳正…その人だった! 「幾久しいな…切嗣! 康太に手を出すな!解ってて手を出すな!」 厳正は…切嗣へ向かって怒鳴った 厳正は…切嗣の前に立つと…康太から切嗣を守った 康太に手を出すな…と言いつつ… その行動は…切嗣を守っていた 厳正は康太を見てニカッと嗤うと 「我が息子…高徳は…康太に銃口を向けた瞬間…お前の息の根を止める …2度と再び…この地を踏めぬ果てまで…突き落とし消し去る その命……抹消する事となる… だから!手を出すな!」と…息子の存在を告げた すると…その言葉を笑い飛ばすかの様に 天井が響いた 『親父殿、我は…貴方が盾に成ろうとも…康太に銃口を向ければ…その瞬間…総てを闇に葬り去る覚悟だ…例え貴方でも、康太に危害を加えれば…生かしてなどおかぬ! 楽に死ねると想うな!』 と、弥勒の声が響いた 厳正は「親不孝な息子だぜ!」と鼻で笑い飛ばした

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