2 / 60
第2話 昇華
「厳正…」
康太は…厳正に声かけた
「何だ?」
横柄な態度で…厳正は応える
「お前達の親子喧嘩は…もう良い…」
「そうか?だが、お前には聞いて貰わねばならぬ
我が息子は…お前の為なら…我をも手に掛ける勢いだがな、それでも…わしには息子だ!
我が息子に手を下させない為ならば!この老体を捨て去る覚悟だ!」
弥勒厳正が出て来た一番の理由……それは
康太の為ならば…その命…躊躇もなく闇に葬る…それを阻止するためだった
「厳正…」
「何だ?」
「お前は総てを見届けろ!」
「……ぐっ…!我に…それを…?」
「此処に来るのは定め…その定めに則って…
お前は終焉を見届けろ!」
厳正は静かに…瞳を閉じた…
来るべきではなかったわい!
息子が…先走らぬか…気になって駆け付けた
人を手に駆ければ…その魂…闇へと堕ちて行く…
それは阻止したかった…
この命に代えても…阻止すべく…康太の前へ…飛び出した…
なのに…!
総てを見届ける…見届け人になれと…康太は言う
康太の体躯を…赤い焔が上がる…
その焔に触れれば…一生消えぬ痕になる
紅蓮の妖炎をメラメラ巻き上げ…康太は立っていた
「周防、飛鳥井に手を出した以上は…覚悟は出来ているんだろうな?」
康太が周防に問い掛ける
周防は微動だもせず
「覚悟なら…この絵を翁から貰った時から出来ている…一思いにやるが良い…」
そう答えた
秋月は…主の前へ立ち…主を守った
康太は…ニヤッ…と嗤うと…
手に…蒼白い妖炎を纏う槍を出した
その槍を見て…一生は…ギョッとなり
「…青龍の…正義の槍……」と呟いた
秩序と規律と法律を織り成して造られた…正義の槍…
法の番人の青龍が持ちし槍…
それを康太の手に出した…
契りし…関係…だと解っていても…
一生は少しだけ…驚いていた
康太は槍を振り回し…嗤った
「昇華する…それで、今までの事は…チャラにしてやる!」
一生は…慌てた…康太の昇華は総てを無にしてしまう!…と慌てて止めに入ろうとしたが…
榊原の腕が…一生を止めた
近寄るな!…と榊原の腕が言う
グッと息を詰めて…一生は押し留まった
康太の頭上で…蒼い槍が…回り出す
蒼白い妖炎を振り撒いて…正義の槍を振り回した
空気が冷えて…
振り回されるたびに…ピキッ…と凍る
ブリザード並みの冷気が…部屋を凍らせる
康太は呪文を唱えると…
天空が裂けて…二頭の龍が…現れた…
漆黒の龍と…純白の龍が…天空に…舞い
こちらを見ていた
「黒龍、地龍…力を貸せ!」
康太は天を仰いで…叫んだ…
周防切嗣は瞳を閉じて…
その時を待った
秋月も主共々…その時を待った
槍の先に…二頭の龍の…力を受ける
ズシッと重くなった槍を振り回し…
康太は…周防を斬った
「 昇華! 」
康太の声が…響き渡り…
目の前を…閃光が走った
蒼白い…光に…目が眩まされ…何も見えなくなった…
目を開けて…何が起こったのか…
確かめようとすると…
そこには…
人の形をした黒龍と地龍が…
康太の横に立っていた…
康太は笑って…黒龍に抱き付いていた
「黒龍…ありがと…」
「良いってことよ!」
黒龍が康太を抱き上げ…頬を擦り寄せた
「お前が泣かなくて良いなら…力を貸す!
してやれる事なら…してやる!
総てを無にすれば…お前は誰よりも傷付き…泣く…からな。
腕を上げたな…閻魔に自慢してやるよ!」
「お前達が力を貸してくれたからだ…」
一生には訳が解らなかった…
榊原は…額に…ピキッ…と怒りマークを着けて…兄を睨み付けていた
黒龍はお構いなしで…康太と分かち合っていた
一生は「おい!説明しろよ!」と怒鳴った
榊原は「兄さん…康太を返して下さい!僕の…モノです!」と奪回すべく…問い掛ける
黒龍の手から…康太を奪ったのは…
榊原でなく…地龍だった
「炎帝…久し振りだ!体調はどうだ?」
兄の青龍など眼中にもないかの様に……地龍が康太と再会を分かち合う
「悪くはねぇぜ!でなきゃ…昇華は出来ねぇよ」
「そうだな!腕を上げられた!」
仲良く再会を喜ぶ3人に…一生はキレた
「説明しろよ!」
一生が叫ぶと…同時に…
榊原は弟の腕から…康太を奪回して…
誰にも渡すか…と康太を抱き締めた
その独占欲に…黒龍と地龍は苦笑する
不貞腐れた…赤龍の顔に…黒龍は笑って抱き締めた
「ご機嫌を直せ…」
「説明しねぇから…だろうが!」
一生は…黒龍に…拗ねて言う
「炎帝が力を貸せと…青龍の槍で…念を送って来たんだ…
だから…時空を切り裂いて…現世に現れた
でなければ…このタイミングで来るわけないだろ?」
言われてみれば…納得だ
あんなにタイミング良く…来たと言う事は…
康太が呼んだしか…有り得ない
一生は……ならば…
周防切嗣は…………?
どうなったのだ?
一生は…
恐る恐る…
周防の方を…伺い見た
周防切嗣は……茫然自失の状態で…座っていた
秋月も…何が起こったのか…訳が解らなかった…
弥勒厳正だけが…総てを見届けて…
嗤った
「誠…見事な…裁きで御座いました!」
厳正は…康太に深々と頭を下げた
「周防切嗣は死んだ…周防の家は終焉を遂げた!
英華の時代は…今…幕を閉じた!」
康太はそう言うと…榊原の腕から降り…周防の側へ歩み寄った
周防は康太に…
「何故?」と問い掛けた
何故?生かしておく…?
何故?殺さない?
トドメを刺さない?…
自分なら…必ず息の根を止める
そうして今まで生きてきた…
「周防、残りの人生は…周防の名を捨て…生きて行け!
お前の今までの業は…昇華してやった…
周防切嗣は死んだ…」
康太はそこまで言うと……秋月に向き直った
「秋月、周防切嗣の密葬を行え…
葬送の義に則って…弔辞を述べて送ってやれ…出来るか?」
康太の言葉を受け…秋月は
「総て…貴方の想いのまま…完遂致します!」
と康太へ返した
「秋月、この屋敷を寄越せ!
その代わり…鎌倉にある屋敷をくれてやる!
そこで余生を送れ…近くには厳正のボロ屋もあるしな…
皆で酒を酌み交わし…過ごして行け!」
「では、この後…譲渡の手続きを致しましょう…
葬儀の後では…ハイエナの如く…
財産を狙った輩が…現れます」
「なら、東青と…話をしてくれ
オレは実務的な事は関知しねぇ…
慎一、後頼めるか?」
康太は、慎一に声をかけると、慎一は
「解っております!天宮先生と話をして…貴方の想いのまま…完遂致します」
と答え…秋月は…主に仕える慎一をじっと…見ていた
ともだちにシェアしよう!