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第3話 終焉
「周防切嗣!」
名を呼ぶと、切嗣は康太を見上げた
「周防切嗣は死した…その名で生きようとすれば…その命…尽き果て…闇へ堕ちる!
お前は別人になって生きるしかねぇんだよ!」
「我は…まだ…生きて良いのか…」
「周防切嗣…は死んだ!
それで良い…お前は別人になる!
別人までは命を盗りには行かねぇよ!」
切嗣は…嘘みたいな現実に…
唖然となっていた
「秋月!」
康太が呼ぶと、秋月は「はっ!」と康太の前に膝をついた
「顧問弁護士を呼んだら、話を詰めろ!
その時…戸籍も持ってくる…
周防切嗣を、捨て…その名で生きろ…良いな!
そして秋月…お前はそれを見届けたら…切嗣を厳正に預け…
お前は…別の道を行け…!」
「我に…主を捨て去れ…と?」
「お前の主は周防切嗣!
周防切嗣は、たった今、黄泉へ渡った…
その名を使えば…その命…闇へ堕ちると言わなかったか?」
「我が…主は…逝きましたか…」
主と…共に…
それが秋月の願いだった
主が…黄泉に渡ったのなら…私も共に逝かねば…ならぬ…
主を…一人にはさせられぬ…
「秋月!」
「はい…」
「お前も…一緒に昇華した。
お前は…もう黄泉には渡れぬ…
その命…飛鳥井康太が貰い受けた!」
「え…」
秋月には…事態が飲み込めなかった
「秋月、オレに仕えし者はどうだ?
オレを主と定め…100年の時を越えて着いてきた者だ…
お前も名前位は…聞いた事はある一族なんだぜ!」
秋月は…100年の時を越えて…の言葉に…驚愕の瞳を康太へ向けた
「御厨忠和…慎一の魂は…最期の御厨の一族だ!」
「御厨…!」
飛鳥井と並ぶ…黄泉の眼を持つ一族…
「盛田…、周防…、この一族の始祖は…
御厨の血を引く者…
彼等は御厨の終焉の後…名を変え…生き残りし一族だ…血は…こうして脈々と…受け継がれ…続いて行った…。
知っていたんだろ?秋月!」
「…………はい。翁に…お聞きしておりました。
総て…ご存知でしたか…」
「そして秋月!お前は飛鳥井の血を引く一族の者なり…違うか?」
「……………!」
康太の言葉に…秋月は…言葉をなくした
「認知こそされてねぇが…お前は飛鳥井の血を引いてんよ
だからな、拾って生かす…お前の命は…オレが持っている」
「……どう…なさる気ですか…?」
「どう…って、お前は護る者だ…
だからな、お前に一条隼人を託そうと思う」
「え…?」
「オレの宝を…何があっても…護ってくれ」
康太はそう言い…隼人の手を取り…秋月の前へ出した
「一条隼人なのだ…」
隼人は…秋月に、挨拶をした
秋月は…隼人の…底知れぬ…力を感じ取っていた…
「九曜…の血を持つ子だ…。
その力は…封印してあるが…お前には解るだろ?
慎一だって解るんだからな…」
「…………はい。」
「隼人の…命を護ってくれ!
この先…何があろうとも…隼人を護れ!
オレは…当分は動けねぇ…乱世に突入した飛鳥井を…護らねぇとならねぇ…
オレの変わりに…隼人を頼む!」
この日の為に……秋月は生かされてきたのか…?
と勘違いしたくなる…康太の采配に…言葉をなくした
「オレは適材適所、人を配置する為に在る!
オレの配置は絶対だ!違えれば…その命の保証はせぬ…!死にたいのなら…聞かなくて良い!
選択は…させてやる!
選ぶのは自分で選べ!
そうして進んで行けば良い!」
選ばせてやると…言うのに
選択肢は…行くか…死か…
ならば…行くしかないではないか…
秋月は…康太を射抜き…嗤った
「どうせ、先のない命…貴方の為に…使いましょう!
貴方の宝を…何があろうとも…御守り致します!」
康太はニャッと嗤って
「周防は、鎌倉の屋敷で悠々自適に過ごす
厳正が見届けてくれる!
厳正の所には御厨の血を引く…城之内の親父も飛鳥井源右衛門も…もいる
皆で…酒を酌み交わし…楽しく過ごせ」
と、告げた
周防切嗣と秋月は別々の道を行く…
別れを告げていた
秋月は…周防の前に跪き…
「切嗣様…永らくの御別れになります」
と、別れを告げた
康太はそんな秋月の悲壮感を笑い飛ばし
「秋月、懇情の別れは言わなくて良い…
逢いたかったから逢いに行け
お前の主は周防切嗣…死ぬまで周防に仕えれば良い
お前の命はオレが握ってる…と言うだけだ
オレを主に仕えろ…とは言ってねぇだろ?
オレに仕えし者は緑川慎一、唯一人!
他は要らねぇんだよ!
共に逝くのは…伴侶と仲間と…飛鳥井瑛太!
そう決めてんだよ!」
康太はそう言い笑って
「悪いな秋月、お前の入る余地はねぇんだよ!」と告げた
「………主…を捨てなくて良いと?」
秋月は信じられぬ思いで…口にした
「…オレは、そこまで酷い奴じゃねぇかんな!失礼な!」
康太が怒ると…慎一が前に出た
「飛鳥井康太を、我が主と定めし仕える者は 、我一人!
それは誰にも譲りはしません!
100年の時を…辿ってまで…仕えたいと想った人だ!
この立場…誰にも渡しは致しません!」
だから、引け!と慎一の瞳は告げていた
引かぬなら…命に変えても…
その意思が見えては…引くしか有るまい…
秋月は慎一の瞳をじっと見て
「貴方が相手では…私は白旗をあげるしかありませんね…」と苦笑して
慎一に深々と頭を下げた
慎一は笑って秋月に
「緑川慎一と申します!お見知り置きを!」と言い手を差し出した
「秋月…巽…です!」と、名を名乗り、慎一の手を取った
固く握り合った手に…主に仕える者同士の重責を分かち合っていた
手を離すと…慎一は深々と頭を下げた
年下の者として…年長者に敬意を払った
秋月は、優しく笑い…康太に向き直った
「では、総ての手続きを致しましょう!」
「少し待て…」
康太はそう言うと、黒龍と地龍の横に立った
「二人を呼んだのは、昇華の為だけじゃねぇ…
見せてやってくれ…黒龍…」
康太に言われると…黒龍は窓を開けて…庭へと降りた
天を仰いで…両手を広げた
地龍も庭に降り立ち…地面に両手を広げた
地脈を探り、水脈から…水を溢れさせた
日本庭園の庭に…水が吹き出し…
あっという間に…スクリーンを作り出した
日本庭園に…見事な水の壁が出来ていた
康太は手から炎帝の刀を出すと…榊原に渡した
「伊織、違えたら…お前が討て!」
康太はそう言いパレスの長い刀を榊原に渡した
榊原はそれを受けとると…鞘から抜いた
紅蓮の焔が燃え上がり…榊原の手の中で…燃え上がっていた
「黒龍、呼んでくれ!」
康太がそう言うと…黒龍は水の壁で出来たスクリーンの前に立った
黒龍が天空に手を翳すと…辺りは暗くなった
豪雨が降りだし…荒れ狂う天気となった
「このスクリーンは黄泉と現世と繋ぐテレビ電話みたいなもんだと想ってくれ…」
黒龍はそう言い…スクリーンに映像を映し出した
スクリーンの画面には…
白い馬に跨がり、深紅の服に金糸をふんだんに使い刺繍が施され……
贅の限りを尽くした様な、高貴な服を身に付けた男が白い馬に跨がり…映っていた
康太はその男を目にすると…ニカッと笑った
「兄者…酔狂が過ぎる…」
康太が言うと…スクリーンの画面に映る男は笑った
「我が弟、炎帝よ、そなたが魔界と繋ぐと聞いてな…お前に逢いたくて…来てしまった」
白い馬から降りて苦笑する…
その姿は紛う事なく…炎帝の兄 雷帝…
閻魔大魔王の姿だった
「兄者…邪魔をするな…総て終わったら…」
「解っておる…さぁ黒龍呼ぶが良い…
我がその姿を見せてやろう!」
閻魔が言うと…黒龍は…
「恐れ多いって…言っても聞きゃあしねぇんだろうな…」
と呟いた
「黒龍!呼べ!」
康太が叫ぶと…スクリーンに黒龍が呼び寄せる人の姿が…
写し出された…
スクリーンに映りし姿は…
盛田兼久…その人だった
閻魔は「人の世の名は…盛田兼久…その所業…罪状に、裁きを渡し…無間地獄に送る…
時間はない…早く話すが良い。
後にこの魂は無間地獄に堕ち…罪状の数だけ試練が渡される…
罪とは前世の行いなり!
その行いにより…人の世を終えた後…罪過を与え試練を行う…」とその魂の送り先を…説明した
盛田兼久は…総てを受け入れ…穏やかな顔をしていた
「兄さん…最後にお逢いできて…良かったです…」
スクリーンの中の盛田兼久が、周防切嗣へ向かって笑った
「兼久…」
周防は叫んだ…
自分が唆して…死に追いやったも同然だったから…
「わしを…恨んでおるか…」
切嗣は問い掛けた
一番聞きたかった…言葉で問い掛けた
「兄さん…私は恨んでなどおりません」
「兼久…」
「命を断つ…大罪を犯したのは…
破滅を見届ける事の出来ぬ…己の不届きな心の所為…兄さんの所為ではありません
疲れていたのです…誰も信じず…誰とも築いて来なかった…
人間不信だけ…募り…自分が止められなかった…
それだけです…兄さんが悪い訳ではありません…恨んでなどおりません」
「兼久…」
周防は庭まで飛び出し
スクリーンの前に…崩れ落ち…泣き出した
「兄さん…今生の別れです…」
盛田兼久はそう言い…深々と頭を下げた
「兄さん…命があるうちに…今世にお返しする為に生きてください
兄さん…貴方の上に…穏やかな死が訪れます様に…」
「兼久!」
盛田は…閻魔に頭を下げると
「宜しくお願い致します…」と終わりを告げた
閻魔は「解った…」と言うと悔悟の棒を手にした
それを振り上げ凪ぎ払うと…
盛田兼久の姿は…消えた
スクリーンには……閻魔の姿だけ
映し出されていた
盛田兼久は無間地獄に堕ちて行った
「その魂…無間地獄に堕ちた!
課せられた罪状が昇華するまでは…抜けられぬ…空間で犯した罪の分だけ試練を乗り越える事となるだろう…それが定め…」
閻魔は言い放った
「兄者…ありがとう…
無理させた…」
弟の為と言えど……無間地獄に落ちし死者の魂を…呼び寄せる事など…もっての他だろう…
「まぁ気にするでない。お前の望みだ…
文句など…取るに足らぬ事と一笑してやるさ」
「兄者…」
「人の世を終えたら…戻って参れ!
そうしたら…魔界は…乱世に突入させる…
お前の手で…一掃してくれ…それまでは兄が…何があっても守り通そうぞ!!」
「オレの行く道は嵐が起こる…嵐を呼べば…塵は舞い上がり…掃除が出来る!
兄者…人の世を終えて逝くまで待っててくれ…そしたら大掃除してやんよ!」
康太は不敵に嗤った
閻魔は白い馬に乗ると…
「我が弟、炎帝よ!また逢おうぞ!」
と弟に別れを告げると…衝覇をスクリーンに向け放出した…
水のスクリーンの壁は…ヒビが入り、みるみるうちに…崩れ去った
黒龍は…「ちえっ…やられた!」と崩れるスクリーンの側から離れた
崩れ去る水のスクリーンが…渦を巻き…空間を歪める
ブラックホールの様な空間が出来…
閻魔が…黒龍と地龍に…戻って参れ……と
無言の命令だった
黒龍と地龍はブラックホールの様な空間の前に立つと
「またな我が友 炎帝よ!」と黒龍は別れを告げた
「青龍にいさん、またお逢いする日まで!」と地龍は別れを告げた
そしてブラックホールに吸い込まれる様に…
渦巻く空間に…吸い込まれて…
消えた
渦巻く空間は、黒龍と地龍を飲み込み
閉じて行った
康太は秋月に顎をしゃくり…周防を部屋に戻せと合図をしてた
周防が部屋に戻るのを確認して、部屋の中へ戻った
部屋の中には…何時来たのか…
天宮東青が…座っていた
「康太、総て貴方の想いのままに…書類を揃えて参りました!」
天宮が頭を下げると、康太は子供みたいに笑って
「東青、悪かったな!」と声を掛けた
「いいえ!私はその為に在るので…お構いなく…!」
天宮は机の上に書類を出した
天宮を呼んだのは慎一だった
皆が庭に出向いている間に、慎一は天宮へ電話を入れ呼び出したのだった
榊原は手にした炎帝の刀を鞘に納め…手に消した…
そして、康太の横に行き、座に着いた
一生や聡一郎、隼人も部屋の中に戻って、日本庭園の見える庭側の窓を閉めた
「秋月、東青と、話をして詰めて行け!
これ以上は…オレの出る巻くじゃねぇ…
帰るとするか…」
康太はそう言い立ち上がると…天宮の方を見た
「東青、後は頼むな!」
「解っております!
この屋敷の管理も…後程管理会社の者が参ります…セキュリティも総て入れ換えて…
飛鳥井康太所有にしておきます!」
「頼むな…慎一が見届ける!
お前が帰る時…飛鳥井の家まで連れ帰ってくれ!」
「解っております!」
天宮は深々と頭を下げた
「若旦那、帰るとするか…」
康太はそう言い、フッと笑うと…天宮から背を向けた
康太が部屋を出て行くと…榊原が続き、戸浪が後を歩き、一生、聡一郎、隼人が続く
一生は「康太、車を呼んどいたぜ!」と康太に告げた
「タクシー?」
「違う!力哉と貴史が…全員乗れるのを調達して来るってよ!」
「力哉と貴史?また珍しい取り合わせだな…」
康太は笑った
「力哉の仕事を手伝ってたらしいぜ…
だから、一緒だって力哉が言ってた…」
「そうか。なら、外で待ってるとするか!」
康太が廊下を歩いて行くと…
周防が走って…康太を追ってきた
「待ってくれ!」
周防が…真摯な顔をして康太の姿を追う
康太は立ち止まると…振り返った
「飛鳥井を狙っているのは…わしだけに非ず…
飛鳥井を手中に納めようと狙っているのは…うようよおる!
わしは世捨て人となるが…人脈は秋月に…託してある!
お前の…力になれるのなら…秋月は喜んで…その命を差し出して…くれる!」
「飛鳥井は乱世に突入した
飛鳥井に刃を向けるなら……オレは振り払うだけだ!
オレは負けねぇ!絶対に負けねぇ!
だから…気に病むな…お前は…自分の道を行け!」
康太はそう言うと…もう振り返らずに…
歩いて行った
切嗣は……そんな康太の姿が見えなくなるまで…見送って…
深々と頭を下げた
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