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第4話 帰還

外に出ると…バスが止まっていた 「まさか…あれかよ?」 康太が一生に問い掛ける 一生はバスの中の…兵藤貴史を見付け… 「だろ…貴史がいる…」とげんなり答えた 兵藤がバスから飛び出してきて康太に飛び付いた 「うわぁ~ おい!危ねぇだろ!」 康太は文句を言うが…兵藤は聞かず… 康太を強く抱き締めた 「少し位…許しやがれ!」 兵藤の肩が…揺れていた 「貴史…」 飛鳥井に来るな…と、言って避けてきた 飛鳥井の家の裏にいるのに…来るな…と、康太は言った その言い付けを守り…兵藤は…1ヶ月以上…飛鳥井へは顔は出してはいなかった 力哉がバスから降りて…兵藤を引き剥がし…捨てる 「康太…君に逢えない日々は…辛すぎます…」 力哉はそう言い康太に抱きついた 「力哉…てめぇ…」 兵藤が怒り…力哉との間に割り込む 力哉も負けじと応戦する… 榊原が康太を抱き上げ…バスの中へ入って行った 一生や聡一郎、隼人もバスに乗り込み 席に座った 兵藤は「ちえっ…」と拗ねて、バスの中へ入って来た 力哉もバスの中へ乗り込むと…運転手に出してくれと…頼んだ 兵藤は…慎一の姿がなく…康太に問い掛けた 「おい!番犬が…足りないけど良いのかよ?」 兵藤の問いに一生が 「アイツは主の言い付けで仕事中だ!」 と、返した それで、兵藤は、大人しく座席に座った バスは走りだし… 康太は榊原の膝の上で…寝息を立てて… 眠りについていた 兵藤は一生に 「このまま飛鳥井へ帰れば良いのかよ?」と尋ねた 「康太…どうすんだよ? このまま飛鳥井へ帰って良いのかよ?」 一生が問い掛けると康太は瞳を開けた 「桜林へ寄ってくれ…悠太を拾わねぇとな… そして、会社へ行く…家に戻らせて構わねぇだろうからな…」 康太は……一生を見つめ笑った 「貴史、桜林…だそうだ!」 一生は兵藤に行き先を告げた 兵藤は運転手に…行き先を告げた 「桜林学園 高等部へ…向かってくれ!」 兵藤が告げると…運転手は…バスを走らせた バスは高速道路に入り、見慣れた街並みへと進んで行く 高速を降りると…横浜の街を走り抜け行く 桜林学園 高等部の正面玄関にバスが停まると… 康太は座席から立ち上がり…バスを降りた 授業を受けていた生徒が… 校門の前に停まったバスを見ると…… バスの中から、飛鳥井康太が降りる所だった 康太を見付けた生徒が… 椅子を倒して立ち上がった 「康太さん!」 そう叫んで…走り出したのは… 3年A組…現生徒会長 藤森…だった 藤森は…授業はそっちのけで…クラスを飛び出し…駆け出した その後に…生徒が続く… 悠太も立ち上がると…窓から…飛び降りて校庭を駆け出した 「 康兄!」 叫んで駆けて行く 康太は悠然と歩き出すと… 校庭の中央で立ち止まった 藤森が…康太目掛けて駆けて行く 悠太より早く…藤森が…康太を抱き締めた 「康太さん…!」 藤森を兵藤が剥がす 「兵藤会長…やはり貴方も共にいましたか…」 「藤森、俺に抱き着かねぇのかよ? 良いぜ!さぁ抱き着け!」 兵藤は笑って藤森に抱き着いた 「ぎょえぇ~」 藤森が悲鳴をあげると…兵藤は藤森の首を抱えた 「失礼な奴だな!」 兵藤が藤森を構っている間に… 悠太がやって来て…康太に抱き着いた 「康兄!!」 デカいナリして悠太は康太に抱き着き…泣いた そんな悠太の首根っこを掴み…引き離したのは… 佐野春彦…科学教師だった 「康太…」 佐野の腕が震えていた 「彦ちゃん…」 康太は佐野の背中を撫でた 佐野は康太を離すと…姿勢を正した 「持ち帰りますか?」 「あぁ…迎えに来た…」 「そうですか…荷物は?」 「後で聡一郎が片付けに来る」 「解りました!では、連れて帰って下さい 貴方がいると…授業になりません!」 佐野は笑って康太に話した 「悪かったな…」 「構いません…貴方に逢えた… それだけで…得した気分です… 明日…理事長に自慢してやります!」 康太は笑った 笑ったまま… 佐野に背を向けた 「悠太!帰るぞ!」 康太が言うと……悠太は黙って康太の後に続いた 榊原は…佐野や生徒達に…一礼して康太の後に続いた 兵藤も笑って一礼した 一生や聡一郎、隼人も…一礼すると… 康太に続いて…校庭を後にした バスに乗り込むと…康太は戸浪に 「若旦那…寄り道して済まなかった…」と謝った 戸浪は「構いませんよ…」と優しく応え… 微笑んだ 全員がバスに乗り込むと、バスは走り出した 生徒は…そのバスを見送り… 見えなくなるまで…じっと見送っていた 飛鳥井の家の前に…バスが停まると 康太はバスから降りた 後に続いて榊原が降り、兵藤、一生、聡一郎、隼人、戸浪、そして最後に力哉が降りた 全員を下ろすと…バスは走り去って行った 康太は飛鳥井の家へ向かう 一生が走って…飛鳥井の玄関の鍵を開けた ドアを持って…全員を家の中へ招き入れる 全員が入ると…一生はドアを閉めた 応接室のソファーに、ドカッと康太は座った ネクタイを緩め様とする康太に気付き…榊原が康太のネクタイを解いた そしてYシャツのボタンを少しだけ外してやった すると康太は深呼吸して…榊原を見て笑った 「周防が…聞き分けの良い子で助かった… 手に掛けなくて…良かった…」 康太は…呟いた 誰も…手に掛けたい者など…いない それでも行かねばならないないのだ! 康太は戸浪へ視線を移すと… 「若旦那…悪かったな…」 と謝罪した 「いいえ…貴方を見届けるが…私の定め 見届けさせて貰えて…良かったと想っております!」 康太はその言葉を受け…微笑んだ 「若旦那…緑川牧場の…解体が終わって…更地になった 来週、その地に降り立ち…地鎮祭を行う その様に力哉と調整してくれ!」 康太の言葉を受け…戸浪は頭を下げた 「会社に帰りましたら、田代と力哉とで調整してくれると想います!」 「一生、若旦那を送ってくれ!」 康太は戸浪を向いたまま…一生に声を掛けた 「了解!」一生は答えると、戸浪に 「会社へ送れば宜しいですか?」と尋ねた 「ええ。会社まで送ってください!」と一生に返し、康太に向き直った 「康太、時間が出来たら…連絡下さい また、美味しい店に貴方をお連れしたい…」 「解った。時間が出来たら連絡する! それより若旦那…最近の会社はどうなんだよ?」 統制は取れてるのかよ?と康太が問い掛ける 「貴方の手を借り、トナミ海運は生まれ変わりました 生まれたての会社ですから、気が抜けませんが、沙羅が社員の管理全般をしてくれてます 何かあったら、その分対処が早く出来るので…今の所…何の問題も出てはいません…」 康太は…そうか…良かったな…と笑った 戸浪は康太を抱き締め…ありがとう…と耳元で呟いた 康太の無償の愛は大きい 敵に回せば…一捻りで…消えてしまう 敵に回すより…取り込んだ方が良い… 飛鳥井康太の果てを見届けると…決めた あの日から…共に在ろうと…願っていた 戸浪は康太を離すと…深々と頭を下げた そして踵を返すと、一生に向き直り 「お願いします…」と頼んだ 一生は立ち上がり「なら、送ってくるわ!」と康太に告げた 「頼むな!隼人、一生と共に行け 若旦那を送り届けたら電話をくれ オレは会社に顔を出し…家族を戻す! 清四郎さん達も戻さねぇとな… そしたら家族に話もあるしな…連絡くれ!」 「了解!」 一生は戸浪を促すと、応接間を出た その後に隼人も続いて出て行った 兵藤が「康太…何する気なんだよ?」と問い掛けた 「飛鳥井の家を建て替える…真壁の土地にビルをぶっ建ててる最中だ! 出来上がったら総てを配置する 飛鳥井建設 此処に在り!と示してやる! 近来…稀に見る…ビルを建てるつもりだ!」 「始動するのか…ワクワクして来たぜ!」 兵藤は不敵に笑うと…康太はそれを受けて笑った 「そう。始動する!これからはノンストップだ!途中下車は許さねぇ! 行くしかねぇんだよ!お前もな!」 康太が兵藤の胸を叩いた 「解ってるさ!俺らは運命共同体 お前が行くなら…俺も立ち止まれねぇ! 行くぜ!とことん行くぜ!お前とよぉ!」 兵藤は康太に拳を向けた 康太は兵藤の拳に拳を合わせた 「なら、また明日な! 力哉、会社に戻るぜ!」 兵藤は立ち上がると、力哉を呼んだ 力哉は立ち上がると康太に頭を下げ、兵藤を促し、部屋を出て行った 康太は聡一郎の方を見ると 「悠太、明日から家から学校に通え 聡一郎、荷物を整理しに家に還れる様に寮へ行ってくれ! その前に悠太にスーツを着せて連れていってくれ! 終わったら電話をくれ!そしたら場所を教える!」 悠太を連れて行け…と頼んだ 聡一郎は立ち上がると、悠太を連れて…応接室を出て行った 康太は榊原に清四郎へと電話を入れてくれ…と頼んだ 「良いですよ。この家に呼びますか?」 「嫌…慎一がホテル・ニューグランドに会食出来る部屋を取ってくれてる筈だ そこへ来てもらってくれ…そして部屋も…取っておいてくれてる筈だかんな…伊織…」 康太は…榊原の首を引き寄せ 「そこで…」 康太の言いたい事は解っているから… 榊原は…ゴクッと…唾を飲み込んだ 榊原は…康太を見詰めた 康太は…榊原を見詰めた 二人の縺れ合う視線に… 「あ~もぉ…雰囲気出しやがるな!」 と、一生が怒った 康太は…振り返ると…笑った 「お前さぁ…外に田代がいるのを知っていて…送って行け…と言ったのかよ?」 「……田代は…忠犬だからな…主を待つのは使命だ…」 一生は怒って康太の横に座る 隼人もその横に座った 「伊織…飛鳥井家…真贋の服を…着て行く」 その言葉で…甘い雰囲気を払拭させた 真贋の服を… それの意味する重さを知っているからだ… そして康太は…その使命の為に… 生きているのだから… 榊原は康太を連れて寝室へ向かうと… クローゼットの中から…和紙で包んだ真贋用の着物を取り出した 「僕が着せて構わないのですか?」 「伊織が着せて…」 康太がニコッと笑って言うと…… 榊原は下半身にズキッと来た 康太のスーツを脱がせて…下着一枚にする スーツをハンガーで吊るすと… 真贋の着物を…着せた 「伊織…」 「何ですか?」 「服を持って行ってくれ…」 「ええ。着替えを持って行きます… 誘ってるんですか…?」 康太は…胸元にあった榊原の指を咥え…舐めた 「伊織…愛してる…」 榊原は堪えきれず…康太を抱き締めた 「出掛けられなくなりますよ…?」 「……それは困るけど…伊織を味わいたい…ぁあっ…んっ…」 強引に…榊原は康太の唇に接吻した 口腔を…舌が犯す… 搦まる舌が…康太の口腔で縺れて…暴れる トロンとした瞳を榊原に向けて… 「…伊織…夜まで…ねぇ…」 榊原は唇を離すと…康太の喉に舌を這わせた… ペロッと舐め… 「…夜まで…待ちたくない…と言ったら?」 熱く滾る股間を押し付け…榊原は問う 「…口で…する……ねがっ…」 刹那げな瞳に…榊原は康太を離した 「魅力的ですがね…今は我慢します…」 「…ん…」 「…その変わり…夜は覚悟して下さいね」 「解ってる…伊織の好きにすれば良い…」 榊原は康太を抱き締めると… 離した 榊原は康太を離すと、真贋の着物を着せた 祭事の時の康太には触れない だけど…何もない時は…こうして榊原の手で…着せて貰う 榊原は康太を着せると、自分も着替えた 伴侶のスーツに着替えて… 支度が済むと…榊原は寝室の施錠をし、康太を促し一階の応接室へ向かった 応接室へ入って行くと…仕事を終えた慎一が康太を待ち構えていた 「慎一 終わったか?」 その言葉だけで…慎一には充分だった 「はい。総て貴方の想いのままに…完遂して来ました! 俺は総てこの目で見届けて来ました」 康太はその言葉を受け…頷いた 「慎一 ご苦労様」 労いの言葉を慎一に掛ける それを受け取り…慎一は嬉しそうに笑った 「なら、行くとするか! 一生、聡一郎に行き場所を教えといてくれ」 康太の言葉を受け一生は 「了解!」と携帯を取り出した そして操作してメールを送信する 「行くぞ!」 康太は言葉を掛けると、玄関に向かった 榊原は携帯を取り出すと… 「康太…少し待って… 電話を入れるの忘れてました…」 と、気まずい顔をした 康太は笑って…玄関の外に出た 榊原は…親に電話を入れ… 時間が取れたら…ホテルニューグランドに来てくれ… と告げた 清四郎は快く了解してくれ、家族を連れて…向かうことを約束してくれた 慎一は康太の後ろに控え…離れる気はないみたいだ 一生は…仕方なく…キーを取り出して… 運転することにした 駐車場に向かい…車に乗り込む 榊原の車に…康太と慎一が乗り込んだ 一生の車に、隼人が乗り込み… ホテルニューグランドに向けて車を走らせた 車を走らせて直ぐに…康太は口を開いた 「何かあったか?」 「鎌倉の…家に…知らない人間がおりました 天宮先生はご存知見たいで…連れて帰るので気にするな…と仰有られましたが…」 「あぁ…彼は…室生夏生…と言う オレの…愛人だ…気にするな…」 康太が言うと…榊原は… 「愛人!!いるのですか!」 とアクセルを踏み込んだ! 物凄いスピードで…車が走りだし… 慎一の顔は…引き吊った… 「伊織…オレに愛人なんていると想うか?」 康太が怒って…唇を尖らす スピードを落とした榊原が…路肩に車を停めた… 「康太…冗談は…」 ハンドルに顔を埋めて…榊原は息を吐き出した… 「伊織しか…愛せねぇよ!」 康太はそう言い…榊原の頬にキスを落とした 顔を上げた…榊原が康太の頭を引き寄せる… 吸い付く様に唇が重なり…接吻が深くなる 慎一は…堪らない時間に……咳払いをした 榊原は康太の唇を堪能して…唇を離した そして……笑顔で 「さぁ、吐きなさい! 誰を鎌倉の家に囲っていたのかを!」 と、康太に迫った 「……室生夏生…今、20歳…位か…今度逢わせる」 「君との関係は?」 「オレは夏生の後見人だ!」 「後見人?…」 「正式には…瑛兄が…だかな。 オレが拾って育てた…存在だ 逢わせる時期が来たら…解る… 知るのはその時で…良いと想った…」 「後見人……親代わりなんですか?」 「そう。陵介を拾った頃からな…」 樋口陵介… 飛鳥井を潰そうとした…親を…康太が…抹殺した 残った陵介を引き取り育てたと…前に聞いた 時期を同じ…とすれば… 何か…深読みせずにはいられなかった… 康太が…飛鳥井に所縁なき者を…生かしておく筈などないから… 「夏生の存在…即ち…飛鳥井康太の影となる」 「え?……影…ですか?」 「……オレの頭脳の内部…みたいなもんだ」 と、含みを持たせ…言葉を続ける 「夏生は…オレの影となり動く存在 オレの手となり足となり…動く存在だ!」 「逢わせて…戴けるのですか?」 「今度な…戸浪の…地鎮祭の時に逢うだろ」 今まで…表に出さずに…動かせていた… 飛鳥井康太の…駒 それを表に出して…逢わせてくれると言うのは… そのポジションは揺るぎがない…と言う事が…解った 康太は前を見て…不敵に微笑んでいた 榊原は、エンジンをかけ…走り出した ホテルニューグランドへ… 向けて走り出した 瑛太や清隆、玲香達には…慎一が事前に連絡を入れておいた 会食の席を…康太の命を受けた時には… 飛鳥井の家族には…場所は教えておいた そして周防の件が片付き…天宮に連絡を入れた時に、飛鳥井の家族にも連絡を入れ ホテルの予約も入れた 慎一は…名実共に…康太の従者として、手腕を振るっていた 康太は…そんな慎一が解るから… 何も言わない ホテルを予約しといてくれ… その言葉だけで…事の真意を推し量り…動く 先の先まで読み…康太の意のまま…動く 飛鳥井康太を主と定め…仕えし者 それが緑川慎一だった 「慎一 」 「はい。」 「夏生を見て…どう思った?」 「今…思い出せ…と言われても…顔が思い出せません…」 慎一は苦笑した 康太はなにも言わず…瞳を閉じた 後はもう…康太は何も言わなかった… ホテルニューグランドの正面玄関に車を止めると、康太と慎一は車から降りた 榊原も車を降り…車寄せにいるドアマンにキーを預け、ホテルの中へと歩を進めた ホテルのロビーに足を踏み出すと… ソファーに座っていた瑛太が…康太の姿に気づき…駆け寄った 顔を見れなかった時間が…瑛太を焦れったくさせた そんな瑛太の気持ちを感じ取った康太は… 瑛太の姿を見て…笑った 「瑛兄…」 康太が名を呼ぶのと…瑛太が康太を抱き上げるのは…ほぼ同時だった 「康太…」 瑛太が愛しそうに康太を抱き締める… 愛しい…弟だ どの兄弟よりも…溺愛して 自分の子供より…愛して止まない…弟だ 瑛太は康太を抱き締めた 一頻り抱き締めてると… 瑛太は康太を下ろした そして康太の背を押し…家族の方へ促した そこには、清四郎や真矢、笙が座っていた 康太の到着に…ホテルニューグランドの副社長が姿を表した 「康太様 お久し振りです! お部屋を御用意しておきました!さぁこちらへ」 副社長が康太に会釈をして…案内の態勢を取る 康太は笑って…その後に着いた 榊原、一生、隼人、慎一は飛鳥井の家族や、榊原の家族に続いて…後へ続いた 副社長は大広間のある部屋に、案内した ドアを開けると…広間の中央には長いテーブルが鎮座して 白いテーブルクロスが掛けられていた 副社長は上座の席の椅子を手に掛けると、引いて康太を促せた 康太は…その席に座ると… その横の席に榊原を座らせた 揺ったりとした動作で…椅子を引き 座らせて行く様は…かっての貴族の様な扱いで… 康太は…全員が座るのを待って口を開いた 「後二人…遅れてくる」 「承知致しました。お見栄になられましたら、ご案内致します」 副社長は康太に軽く会釈をすると ドアを開けに行き…給仕の者を招き入れた ワゴンを引いた者達が…お茶の準備をする 康太達の前に、お茶とケーキを並べて… 頭を下げて…部屋から出て行った 「お料理は、まだお見栄になってらっしゃらない方が、お見栄になられましたらお持ち致します。 まずはお茶でお口を潤して戴いて、と考えております。」 副社長の瞳が…それで宜しいですか?と康太に問いかける 康太は頷き…お茶に口をつけた 副社長は康太に軽く頷くと 「それでは、お連れの方がお見栄になるまで お寛ぎ下さい。」 姿勢を正し…副社長が部屋を出て行くと 康太は口を開いた 「今日、呼んだのは話があったからだ!」 康太は単刀直入に…話題に入った 瑛太が…康太に問いかける 「話…ですか?」 「そう。話があんだよ!」 「どの様な…?」 「あんだと想う?」 逆に問いかけられ…瑛太は押し黙った 「真壁の土地にビルを建てる事になった 基礎工事は既に始まっている そして飛鳥井の家を建て替える!」 康太の言葉を受け…瑛太は 「その時が…来たのですか?」と問い掛けた 「そう。飛鳥井が残る為には…今、しておかねぇと…先へは進めねぇ… 真壁の土地に地下三階、地上15階のビルを建てる! 飛鳥井の家も近々…取り壊し… 建て直す。 それと同時に…飛鳥井建設も建て替える それを…来月着工して…2年以内に総てを終える!」 信じられない話が…康太の口から…次々と飛び出して行く 清隆は「建て替え…ですか?」と問い掛けた 「そうだ!総て建て替える!」 「その間…会社は?家は?どうするのですか? 建つまで…離れ離れで過ごせと言うことですか? 2年も…家族が…離れて暮らす…訳ですか?」 清隆は…激昂していた バラバラの家族など…望んではいないから… 解っている… 真贋の言葉は…絶対だから… だけど…家族離れて暮らすなんて…堪えられないのも…事実なのだ こうして…康太と離れて暮らして、想うのは 家族で暮らした日々ばかり…… 望んではいけないのか…? 家族で暮らす… 当たり前の日々を… 望むなと言うのか…? 「父ちゃん…」 康太の想いを思えば…言ってはいけない事なのだ… 「すみません…」 清隆は…グッと押し黙った 康太は父親の方を見て 「代替えは用意してある! 会社も家も…変わりの場所は…用意する 少しの間は…不自由するかも知れないが… 先を見越せば…我慢してもらうしかねぇ…」 総ては…明日の飛鳥井の為……家の為 清隆は…もうなにも言わなかった 瑛太が父親に変わって言葉を投げ掛けた 「家族は…一緒に暮らせるのですか?」 「じゃなきゃ迎えに来る訳ねぇよ父ちゃん!」 康太は不敵に笑った 唇の端を吊り上げ…あの不敵な笑みに… 瑛太は…先を見極めて行かねばと考えを切り替えた 「康太、君と暮らせるのなら…何処でも構いません!」 「オレは…そんな訳にはいかねぇかんな! 何処でも良い訳にはイカねぇ… 伊織とエッチしても…聞こえねぇ部屋じゃねぇとな…」 康太は…悪戯っ子の様に笑った 瑛太は至極真面目な顔を向け 「毎日見てれば…飽きると想うので…構わないでしょ…」と言い笑った その言葉を受け康太は頬を膨らませ 「オレは見せる趣味はねぇかんな!」 と怒った 一生が「お前になくても…旦那には…あるかも知れねぇじゃねぇかよ…」と日頃の行動に苦言を呈した 榊原は嫌な顔をして… 「康太を見せるなんて…勿体ない…嫌です!」とノロケた 笙が…嫌な顔をして…弟を見た 「伊織…誰も…見たくはないでしょう…」 「いいえ…兄さん。見たい奴なら…うようよいるでしょ」と苦笑をした 笙は知りたくなくて…黙った 「近いうちに引っ越すから! 飛鳥井の家を先に引っ越しさせて、会社を仮の場所に移す! 異存はねぇかよ?」 康太の言葉に…家族は頷いた 清四郎だけが… 「……やっと……近くに越してきたのに… 離れて暮らさねばならないのですか? 私達は…離れて暮らしてても…構わないと…想っているのですか…」 感情を露にして…康太に食って掛かった 離れて暮らす…不本意だが… 康太の言う通り…して来た それも、我慢さえすれば…また逢える 側で暮らせる… その思いがあったから…堪えられた だが…離れて暮らすなら…話は別だ 離れて暮らす… 何時まで… その思いに…清四郎は取り乱した 真矢が…清四郎を抱き締めた そして、恨みがましい瞳で…康太をみた 「清四郎さん…飛鳥井から然程離れてないマンションに移るつもりです そのマンションの方が…清四郎さんの家からは近い… 一年位は…歩いて…1分もかからねぇご近所さんになるんだぜ!」 康太の言葉に清四郎は…唖然となった 笙が「ご近所…?」と怪訝に問い掛けた 「そう。ご近所。清四郎さんの家の近くに12階建てのタワーマンションがあんだろ?」 「ええ。」清四郎は狐に摘ままれた様に答えた 「あのマンションは飛鳥井康太の持ち物だ! 飛鳥井の家を建て替えるのを視野に入れて… 完全セキュリティーのマンションにした 網膜セキュリティーを取り入れてるからな… ネズミは…入れねぇ様になっている」 「あのマンションは……康太の持ち物なんですか…?」 「あのマンションの最上階に住む! 8階からの上のフロアはまだ空室のままだ! 他は全室完売…オレ達は…そのマンションの最上階総てを占めて住む! 清四郎さん達も住みますか?」 「康太…」清四郎は涙ぐんで康太を見た 「淋しい思いをさせた分は…埋めねぇとな! 側にいたいなら、側にいれば良い オレ達は何処へも行かねぇ! オレは飛鳥井康太として、明日の飛鳥井を築く為に行く 火の粉はかかるかも知れねぇ… 飛鳥井康太の家族だから…狙われるかも知れねぇ それでも、オレは立ち止まらねぇ! オレは行く 一緒に闘うなら来れば良い 命が惜しいなら…隠れてろ! オレは歩みを止めねぇ! それが解ってるなら…来いよ! 側に来れば良い!」 康太はそう言い…笑った 子供の様な顔で…清々しく笑う顔に… 引き返す道などない事を知る 「降りかかる火の粉が怖くて、飛鳥井康太と共に生きては行けない!」 笙は…康太を見つめ…言葉を放った 「僕達は…君達と共に行く覚悟など…とうの昔に出来てるんですよ! 我が弟…榊原伊織が…飛鳥井康太を選んだ時から… 康太が再生してくれた家族だ… 康太と共に在るのは…当然だろ?」 榊原は…兄を見詰め…苦し気に瞳を閉じた 自分の選択が…家族を苦しめているのだ… それは不本意…なのだ だけど…康太と離れる気などない 離れる時は……共に死する時…それのみ 死しても離す気などない 来世も…その先も…共に…… 「明日から…3日掛けて引っ越しする 飛鳥井の家の引っ越しが終わったら…会社の引っ越しだ!」 瑛太が康太の言葉を受け… 「会社は…どちらへ引っ越すつもりなのですか…?」 と、尋ねた 「会社は…オレ等が住むマンションに移す! その為に…7階から上は入居させてねぇ! 12階建てだかんな、会社のフロア総てはいるだろう」 康太の言葉に…清隆は…総てを飲み込んだ 「7・8・9・10・11階に会社を移す! そして、12階は、飛鳥井の住居とする! エレベーターは12階では止まらなくなってる 12階へは直通のKeyが無きゃ上がれねぇ 非常階段もオートロックになってて鍵がなきゃ入れねぇ セキュリティーは万全だ 乱世の飛鳥井に相応しいステージだろ?」 康太が話終えると…聡一郎が悠太と…案内されてやって来た 部屋に入った聡一郎は、微笑み康太を見て 「社員全員の網膜をデータベースに入れて…管理します そして社員全員に認証カードを渡して…会社に入るには、それがないと入れません! 当然…忘れたら会社に入れません! なくしたら解雇の対象になります! なりすましをさせない為に、網膜は…本人と登録と合致しないと…入れません!」 と、説明をした 清四郎が…「網膜…気軽には…遊びに行けませんね…」と呟いた 「なら、住めば良いじゃんかよぉ! 見晴らしは良いぜ!ランドマークタワーが一望出来るかんな! 清四郎さん達の部屋も当然ある 気にせず住めば良い と謂ってもそれは無茶だろうからな、電話をくれれば誰かが迎えに行くから大丈夫だ!」 清四郎はホッと安心し、その場にいない人間を口にした 「源右衛門は…?最近お見かけしませんが…」 清四郎は康太に問いかけた 「じぃちゃんか? 多分…当分は戻らねぇだろ? そう言う定めだ…飛鳥井源右衛門は…見届ける者だ…総てを見届け…黄泉に渡る… その寿命…後、6年… その後転生して…飛鳥井の真贋として再びこの地に降りる」 定め… あまりにも重い… 定め… 「源右衛門は…転生するのですか…? 確か…康太と伊織の…次の転生は…ないとお聞きしました」 オレの…人の世はこれで終わる… 前に…康太はそう言った 「あぁ…オレと伊織…の転生はねぇな 前に言った通りだ…」 康太は清四郎を見据えて言った 清四郎は…目を伏せた… 「……でも今は…側にいられる…人だ 私は…もう離れて住みたくはないです。」 康太は席を立ち…清四郎を抱き締めた 「源右衛門も…家が決まれば帰るだろう 孫が帰れば…源右衛門も帰る そしたら側で過ごせば良い」 「康太…」 「淋しい想いをさせた…その分の埋め合わせはする 今年の夏も白馬で過ごしましょう!」 「白馬……?」 「ええ。8月になったら白馬に行きます 清四郎さん達も時間を作って、向こうで過ごしましょう!」 清四郎は康太の肩に顔を埋め頷いた 「父ちゃんや母ちゃんも…白馬に行こうぜ!」 「あぁ…今年も…行きましょう…」 清隆は…嬉しそうに呟き…玲香は頷いた 瑛太は立ち上がり、料理を運び込むように頼んだ 暫くすると料理が運び込まれ 康太達未成年者はジュースを入れたグラスを渡され 瑛太達大人はワイングラスを渡され、乾杯した 乾杯!!!!と、それが合図となり… 宴会に突入した 康太は目の前に置かれた料理を一心不乱に食べ始め 榊原や一生達も…料理に口をつけた

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