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第60話 邀撃 ②

康太が愛して止まない男だった 「康太、支度をしますよ!」 榊原は康太をバスルームに連れて行った 軽く体躯を洗って、歯を磨き支度をする 放っておくと濡れた髪を犬みたいにブルブルと康太がふる 「康太……歯を磨く時は……大人しく……」 榊原は注意した 記者会見と言う事もあって念入りに歯磨きして バスルームを出た 髪を乾かし、何時もの様に康太の支度をする そして自分の支度に取り掛かる 康太は榊原の首にネクタイを結んだ 「伊織、オレな道明寺にネクタイの結び方を習ったんだ」 そう言い瘤にして結ぶ、難しい方のネクタイの結び方で、榊原のネクタイを結んだ 榊原はニコッと笑った 「似合ってますか?」 康太に問い掛ける 康太は榊原の唇に口吻を落とした 「おう!似合ってる! オレだけの伊織だ!」 「君だけの僕です! そして君は僕だけのモノです」 見つめ合う瞳は互いを映し出していた 「愛してる伊織」 「僕も愛してます康太」 「行くぜ!」 「ええ。何処までも共に付いて行きます」 康太と榊原は迎えを待っていた ドアをノックされ開けると見慣れない男が立っていた 「漆原当麻です! お二人をお連れする様に言われました」 礼儀正しい男が立っていた 康太と榊原は部屋を後にした 地下の駐車場まで行くと、見知らぬ男が車から降りた 「初めまして島崎耕作です」 康太は笑って 「島耕作?」と呟いた 耕作は少しだけムスッとして 「島崎、耕作です」 と言い直した 垂れ目が憎めない男だった 康太は耕作の前まで行くと 「しゃがめ!」 と言った 耕作はしゃがんで康太の所まで縮んで見せた 康太は耕作の頭を撫でてやった 耕作は……真っ赤な顔になった 「拗ねるな、可愛いだろ?」 康太は笑った 当麻はドアを開けると康太達を促した 「どうぞ!お乗り下さい」 言われ康太と榊原は車に乗り込んだ 少しイライラ気味の当麻を横目で見て康太は笑った 「言わねぇと明日死んだら悔いしか残らねぇぞ」 康太はボソッと呟いた 後は興味もないと榊原に凭れ掛かった 頭の包帯は取れていた だが髪で隠れない傷が痛々しかった 榊原はその傷に口吻を落とした 康太は榊原を見上げた 「愛してますよ奥さん」 榊原はそう言い康太を抱き締めた まさか車内で……命バリのカップルを目撃しようとは…… 命よりタチが悪いかも…… 命達は外では親子だから…… このカップルは……伴侶と公言して止まない 全国ネットで伴侶がいると宣言した飛鳥井康太 彼等の生きる定めは過酷だった だから誰よりも互いを欲するのか…… 当麻には計り知れない世界だった 「テレビ局には力哉がいる」 「君の命で力哉は動いているのですね」 力哉は康太の言葉を総て完遂すべく動いている 「………伊織……」 榊原は康太を強く抱き締めた 車はABCテレビ局の駐車場へと向かう 康太達がテレビ局に到着すると警備員が現れた その身を護る為に康太達の廻りを取り囲んだ 「飛鳥井康太さんですね」 警備員が尋ねると康太は不敵に笑った 「そうだ!」 「こちらにお起こし下さい」 警備員が康太に言う 康太と榊原は警備員に守られ局内へと入って行った テレビ局には厳戒態勢が敷かれた この日の見学は総てキャンセルされ ネズミ一匹出入り出来ぬ厳重な警備が施された 康太と榊原は控え室に詰めていた ドアの外は警官が立っていた ドアをノックされ榊原はドアを開けた すると堂嶋正義が立っていた 「坊主、やっと此処まで漕ぎ着けたな」 「まだ気が抜けねぇ…」 「厳戒態勢だぜ? この局に入るのは無理だろ?」 「………あの女は……油断がならねぇ……」 「何があっても御前は護る! この命に変えても護る!」 「正義……」 「御前は亡くせぬ存在 この日本の為にもな お前を必要とする人間の為にもな」 「………本当にありがとう 正義の協力なくば…成り立たなかった」 「結婚祝いだ!気にするな 闘いは終わった訳じゃねぇ」 康太は唇の端を吊り上げ不敵に嗤った 局の人間が呼びに来て、会場に入る 堂嶋正義はずっと側にいた 会見の席に榊原と康太と堂嶋正義が立ち並んだ 会場に姿を現れた3人を撮ろうと フラッシュが一斉に炊かれた 力哉が会見を取り仕切る 「 本日は飛鳥井康太の為に 多数の方々、皆様お集まり戴きまして 本当にありがとう御座いまし 質疑応答は手を挙げて会社の名前と自分の名前を告げて下さい では、これより記者会見を始めさせて戴きます」 力哉は記者席に向かって深々と頭を下げた 「この会見に至った経緯を飛鳥井康太本人がご説明させて戴きます ではお願いします」 力哉に言われて康太はマイクを持った 「本日は飛鳥井康太の為に多数の方々に起こし戴き、本日に感謝いたします 私は最近、殺されかけました 執拗に何度も何度も命を狙われてます 仕事でも妨害を受けている それを白日の下にさらす為に会見を開きました」 会場はざわついた 殺されかけた……尋常な話ではない…… 堂嶋正義が康太のマイクを取ると話し出した 「堂嶋正義です 飛鳥井康太は3日前、事故を装って殺されかけました 運転していたのは九曜芸能事務所の社長 神野晟雅、そして副社長の小鳥遊智、彼等は今も入院してます そればかりか……昨夜もホテルに火炎瓶を持った男が乱入して……命を落としそうになりました 火炎瓶の男は何故か飛鳥井康太が宿泊するホテルの鍵を持っていました 鍵を勝手に開けられ……火炎瓶を投げいられた その犯人は現行犯で捕まってます 神野晟雅の車を執拗に事故らせた犯人も捕まってます 彼等は素直に自供してるそうです ある人に借金のカタに脅されてやった……と。」 堂嶋正義が、それを伝えると記者が手を挙げた 「仙台放送の江原浩志といいます 神野社長の事故のニュースは出ていませんでした」 「報道規制を掛けさせて戴きました 事故のニュースを出し症状を知らせば… 生きていれば、また殺そうと人を差し向けるので! 公表は控えました」 記者は納得した 「東都日報の東城洋人と申します」 社長自ら……記者会見に出向いていた 「なら何故今、記者会見を開かれたのですか?」 公表すれば、また狙われないか…… 東城は心配していた 飛鳥井康太が大阪で記者会見を開く そのニュースが出回った 何故大阪なのか…… 東城はその真意を確かめるべく、社長自ら出向いて来たのだった 榊原はマイクを持つと 「飛鳥井家真贋の伴侶 榊原伊織です 飛鳥井建設の副社長をしております 飛鳥井建設は下請け業者を妨害により大幅に失いました それによって仕事が回って行かなくなる大ダメージを受けました 総てにおいて支障がおきて来たので、公表する事に決めました これ以上の妨害を回避せねばなりません! また真贋を狙う事故によって九曜芸能事務所の社長である神野と小鳥遊は未だに予断が許されない状態にいます 真贋の命の保証が日に日に危険に及んできている現状もお伝えせねば、平穏な暮らしは皆無に等しい状況です! 昨夜も、安全な筈のホテルで襲われました 何故犯人はホテルのキーを持っていたのでしょう? 火炎瓶を投げ付けられ……殺される所でした これ以上の暴挙は許さない! その為だけに記者会見を開きました!」 榊原はカメラを睨み付けそう言った 「駿河第二放送の中山悟です 神野社長達は重症なら、何故貴方はそんな軽症なのですか?」 康太がマイクを取ろうとすると堂嶋正義がマイクを取った 「飛鳥井家 真贋は呪術師 弥勒院御当主が命を護った でなくば、この会見には出ておれぬ傷であったろう 下手したらこの世にはおらぬ事となっていた 3日前、助けて…殺される……と、電話を受けたのは我が叔父、安曇勝也でした 叔父は秘密裏に警察を動かし保護に当たらせた でなくば……確実に仕留められていただろう 爆発炎上した車を考えれば神野社長達の傷でも軽い 弥勒院の御当主が命を懸けて護る存在、それが飛鳥井康太です 軽症なのは、弥勒院御当主が寿命を削って助け上げた誠意! 下手な勘繰りは辞めた方が身の為 こうしていても弥勒院の眼は康太から離れる事はない」 記者達は言葉を飲み込んだ 下手な事など言えぬ雰囲気だった 「東都日報の東城洋人です 貴方の命を狙った犯人は誰なのですか?」 東城洋人の質問に康太は 「それは警察が教えてくれる オレが言える範囲を超えている」と答えた 「………そうですね 犯人を晒す目的ではないのですね」 「飛鳥井建設は妨害を受けていました 下請け業者に飛鳥井は真贋を亡くして仕事は減ると嘘の情報を流したり、脅したりして妨害を繰り返した 続けば飛鳥井は信用の失墜となる その様な輩に飛鳥井は屈しない! ですから今回は記者会見を開かせて戴きました」 どんな妨害があろうとも屈しない 飛鳥井建設はこのまま終わりはしない! そんな想いが……滲み出ていた 康太はマイクを持ちカメラを睨み付けると 「飛鳥井建設は何事にも決して屈指はしない! それを此処に宣言致します! どんな困難が立ち向かって来ようとも、必ず乗り越えてみせる! 明日の飛鳥井の礎を担う 明日の日本の経済の礎を担う! その為だけにオレは生きている どんな妨害にも屈指はしない」と宣言した その言葉は重かった 会社の為だけに生きてる存在だった 人生の総てを掛けて、会社を護る姿があった 「関西日報の浅野篤史と申します 誠しやかに飛鳥井家真贋の死亡説が出ておりました 私は友人の今枝浩二に真相を聞く為に電話しました 何故その様な噂が出たのか……知りたかったのです 事故を目撃した犯人が飛鳥井康太は死亡したと認識した……と言う事なのですか?」 「多分、そうだと想います… 下請け業者には飛鳥井建設は終わる… だから飛鳥井建設の下請けなどしてたら… そのうち仕事も無くなる……と騙して手を切らせました 飛鳥井建設の仕事をする下請け業者はなくなりました 建設中の建物は遅延を生み出し…… 飛鳥井建設はピンチになりました 宮瀬建設のご厚意で何とか下請けは確保しました ですが、続けば……飛鳥井は取り返しのつかないダメージを受ける それは避けたかったのです 飛鳥井家真贋は死んではおりません! またオレが死のうとも次代の真贋は存在する 飛鳥井はこれからも続いてゆく事を、此処に保証致します!」 康太は真摯な瞳でカメラを見据え話した これで、飛鳥井建設の下請けは戻って来るだろう 飛鳥井家真贋の存在 それは飛鳥井建設を左右する……絶対の存在だった 記者会見は2時間ちょっとの時間を掛け 質疑応答に丁寧に答えた 堂嶋正義は最期にマイクを持つと 「飛鳥井康太は特別な存在ではない 普通の大学生だ それが殺され掛からねばならぬ世の中が歪んでいると俺は想う ほんの数ヶ月前、飛鳥井建設に押し入った暴漢に康太は殺され掛けました 彼は今も……当時の恐怖を抱えて生きている 脳に刻み込まれた恐怖は中々……乗り越えられはしない だが立ち止まらず、彼は逝く 明日の飛鳥井の礎を築く為に……その身を擲って生きている 飛鳥井康太はまだ19歳の大学生だと言う事を忘れてはいけない この治安の良い日本で何故幾度も命を狙われねばならぬだ? 報道に携わる方は、それを理解して貰いたい 彼は特別な存在ではない そして驚異などではない! 今日は飛鳥井康太の為にお集まり下さり本当にありがとう御座いました!」 堂嶋正義は立ち上がり、深々と頭を下げた 彼は孤高の戦士として……有名だった 群れず馴れ合わず……我の道を逝く孤高の戦士 その堂嶋正義が飛鳥井康太の為に頭を下げた それだけでも……人間臭く……庶民に近付いた瞬間だった 誰かの為に必死に訴える姿は、視聴者の共感を得た 堂嶋正義 此処に在り と公言したも同然の記者会見だった こうして記者会見は幕を閉じた 記者やテレビ関係者は一斉に警察署の方へ流れ出て 情報収集に躍起になった 明日の一面を飾る その犯人を特定すべく、会場を後にした 記者会見を終えて、康太は控え室に移動を始めた 飛鳥井康太がテレビ局を出るまでは厳戒態勢の警備は続けられる 局で1番大きなスタジオを出て、控え室に向かう 警備員にガードされながら康太と榊原は歩いた 誰もいない筈の廊下に駈けて来る足音が響き渡った 「康太!!」 慎一の声がして康太は振り向いた 「………慎一?」 康太は呟いた 何故?慎一が此処にいる?? 康太には解らなかった 力哉が連れて来てるのは控え室なのに?? 控え室から此処はかなりの距離があった 駈けて行き慎一は康太に抱き着いた 「………間に合った……」 慎一はそう言い康太を抱き締めた 康太は何が起こったのか解らなかった 「慎一??」 康太は慎一の名を呼んだ 「………康太……」 慎一は辛そうに康太の名を呼んだ ズルッと崩れる体躯を康太は抱き締めた 堂嶋正義と榊原は逃げて行く人間を追いかけ取り押さえた 警備員が慌ただしく動く 警察がやって来て……救急車のサイレンが鳴り響いた 康太は慎一を支えて立っていた 榊原と堂嶋正義が戻って来た 堂嶋は「おい!救急車を早く!」と叫んだ 榊原は康太から慎一を剥がし支えた 康太は慎一を見た その背に……ナイフが突き刺さり…… 慎一の背中は……赤く染まっていた 「慎一!!何で飛び出すんだよ!」 康太は怒った! 「主を護るのは俺の務め 胸騒ぎが収まらなかったから…… 貴方を探しました……」 慎一は苦しそうにそう答えた 「オレの事なんて庇わなくて良い!」 「嫌です。俺の主は貴方だけ……」 康太は慎一に縋り付き泣いた 場内はざわつき… 警察が駆けつけた 救急隊員もストレッチを持って駆け付けた 慎一に応急処置を施し、運んでゆく 康太は慎一に付いて行こうとした! だが……堂嶋がそれを阻んだ 「着いて行きたい気持ちは解るが お前は警察の事情聴取が待ってる! 息の根を止めだいんだろ?ならば残れ!」 康太は……榊原を見た…… 「康太、慎一は僕が付き添います 君は君のやるべき事を完遂して下さい」 行きたい気持ちは大きい 慎一をもう……傷付けたくはなかった 暴行の限りを尽くされ殺され掛けた慎一を これ以外……傷付けたくはなかった 着いていてやりたい でも出来ぬ気持ちを振り切った 慎一を刺した犯人は現行犯逮捕された 連行される犯人を…… 康太は睨み付けていた 京極瑠璃子……本人だった 捨て身で刺し違える覚悟だったのか…… 助かった康太を見て…… 京極瑠璃子はペッと康太へ向けて唾を吐いた 「お前が何故生きてる! 死ねば良いのに……この悪魔!化け物!」 京極瑠璃子は興奮して……康太へ向けて罵詈雑言吐き捨てた 防犯カメラは頭上にあった 警察は防犯カメラを警備室まで取りに行き チェックをした 防犯カメラには総てが映し出されていた 康太は警察の事情聴取を受けた 弁護士の天宮東青が駆け付けて、事情聴取の場に同席した 天宮は神野の時の事故の資料から、タワーホテルで襲撃された時の状況まで詳しく資料に纏め警察に提供した 「飛鳥井康太は被害者である!」 と、全面に押し出し話をする テレビ局から防犯カメラの映像が届き、天宮は一部始終黙ってそれを見ていた 「刺された方は?」 警察の聴取は総て天宮が答えた 「緑川慎一 飛鳥井康太に仕える執事です」 次元の違う話だった 執事……そんな夢の様な存在が本当にいるのか? 「彼は何故? 飛鳥井康太さんの所へ?」 康太はやっと答えた 「胸騒ぎがしたそうです……」 慎一は収まらない胸騒ぎに康太を探した 遥か昔には力を持った男だ 力はなくとも勘が…そうさせたのか? 主を守ろうと身を呈して盾になった 主だけを庇い……慎一は刺された 康太の事情聴取は終わった 天宮は警察に被害届を出した 「飛鳥井康太は執拗に命を狙われた 被害届を提出します! 京極瑠璃子に対しては殺人未遂で立件をお願い致します! 3度命を狙われた しかも警察も警護に当たってる最中に! これは警察の失態でもある!違いますか?」 天宮の攻防に……警察は立つ瀬がなかった 事情聴取は殆ど天宮が喋り終えた 警察署の外に出ると…… 取材中のレポーターや記者に揉みくちゃにされた マイクが康太に向けられる 康太は前を見据え何も話さなかった カメラはそんな康太を映し出していた 天宮が迎えに来させた車タクシーに乗り込み…… 康太は警察署を後にした 「どちらへ向かいますか?」 天宮が問い掛けても……康太は喋らなかった 「康太、慎一を見舞いますか?」 「………行けば記者も着いて来る……」 慎一を静かに治療させたかった…… 「病院の中までは来られませんよ?」 「………もう、慎一を傷付けたくない……」 天宮は康太を抱き締めた 「大丈夫です!」 「………東青……」 「慎一が気になるなら見舞ってあげて下さい 慎一は君の為にいる存在です……」 天宮は警察から聞いた慎一の運ばれた病院の名前をタクシーに告げた タクシーは病院に向けて走りだした 病院の前には…… マスコミ関係の人間はいなかった また康太達を着けて来るマスコミ関係の人間もいなかった 天宮は康太を促して病院の中に入って行った 待合室に康太を座らせ受け付けに緑川慎一の病室を聞いた 受付の女性は調べて天宮に病室の番号を教え、救急病棟への行き方を教えてくれた 「康太…」 天宮が息を飲む程に…… 康太は儚く見えた 傷付き……それでも立ち上がって吠える…… そんな康太の姿はなかった 年より儚く幼い…… この人は一体どれだけの精神力で自分を奮い立たせているのか…… 天宮は康太を立ち上がらせると 「慎一の所へ行きますよ 私は貴方を慎一の所へお連れしたら帰ります」 やらねばならぬ事が山積していた 康太の歩調に合わせて天宮は歩いた 受け付けに聞いた病室へと向かって歩いてゆく 慎一の病室の前に立つと天宮はノックをした ドアを開けたのは一生だった 天宮は「慎一さんの具合はどうですか?」と尋ね、康太を病室に背を押し入れた 一生は康太に抱き着いた 「………慎一は死んじゃぁいねぇ! 大丈夫だから!そんな顔すんじゃねぇ!」 榊原は一生から康太を奪うと慎一のベッドまで連れて行った 「まだ寝てますが大丈夫です」 と榊原は伝えた 天宮は榊原に 「康太さんを頼めますか?」 と問い掛けた 「はい。大丈夫です 天宮先生、遠くまでご足労でした」 「私は康太の為の弁護士です ですから地球の裏側でも呼ばれれば出向きます ではやる事が山積してますので、この辺で!」 天宮はそう言い帰って行った 榊原は康太を抱き締めた 康太は戸浪の姿を見つけた 「若旦那……済まなかった…」 戸浪は康太の側まで来て抱き締めた 「会社があるので、帰らねばなりません 帰る前に君に逢えて良かった………」 「若旦那…一生達の我が儘を聞いて下さって本当にありがとうございます……」 「私も逢いたかったのです…… 神野達の怪我を見れば…君が心配で…… 暴挙に出ました……田代はそんな私達を連れて乗せてくれました……」 「若旦那、オレ達は明日、飛鳥井と榊原の家族が来るので……ご一緒は出来ません」 戸浪は康太の額の傷に触れた 「こんな怪我をして……」 「弥勒がいればこそ、オレはこの程度で終わりました 弥勒が海岸まで引き伸ばしてくれねば、住宅街に車は激突して撃破でした…… 車がガードレールを突き破る瞬間、外に出てなくば…… 今此処にオレは立っていませんでした」 大破した車がニュースでやっていた その車を見れば……事故の悲惨さが解る 「………康太、帰る前にお食事をしませんか?」 「……慎一が……」 康太がそう言うと一生が 「慎一は俺達が見ている! 若旦那には世話になった 俺等の分も返しておいてくれ!頼むな康太」 と康太の背を押した 榊原は康太を抱き締めると 「では少し頼みますね」 と言い、康太を促し戸浪と病室の外に出た 榊原は康太に 「堂嶋さんが報道規制を引かせました 緑川慎一は未成年です 彼を追うのは許さない……と矢面に立って処理なさってます」 「……横浜に帰る前に御礼に行く」 「ですね。それが良いです。 そして田代は一晩中運転して大阪に一生達を乗せて来てくれたのです」 康太は田代を見た 少し憔悴したその顔に…… 「田代……悪かった……」 と謝った 田代は笑って 「お気になさらずに! 社長は放っておくと勝手に何処かへ行ってしまう様になりましたので、監視していた方が楽なのです」 と康太に負担をかけない様に言葉にした 戸浪と病室の近くのレストランに行きお茶を飲んだ 戸浪は楽しそうに話をしてお茶を終えると田代と共にレストランを後にした 康太はレストランを出ようとして見知った顔に足を止めた レストランで独りでタブレットを見ている人間に康太は近寄った そして席の前に座った タブレットを見ていた人間は急に席に誰かに座られ…… 焦った 相席は嫌だから… 顔を上げ……断ろうとして……唖然とした 「よぉ!幸哉!」 人懐っこい顔の康太が笑って座っていた 幸哉は言葉もなく康太の顔を見ていた そして……その瞳から……涙を流した 康太は横の席に座り幸哉を抱き締めた 「泣くな……」 「君が心配で……近くまで来ちゃった……」 「オレは大丈夫だ!」 「怪我したんでしょ?」 「オレは超合金で出来てっからよぉ!大丈夫だ」 康太はそう言い幸哉の髪を優しく撫でた 唖然として立っていた榊原は…… 康太の前の席に座った 榊原は康太が抱き締めてる少女の様な子を見ていた 白い肌に、目が大きく、唇はプクッと綺麗に艶めき 何処のアイドルよりも美人だった 「……正義さんは教えてくれないから……」 幸哉は泣いた 「泣くな……腫れた目で返せねぇだろ?」 幸哉はうん……と頷いて、目を擦った 康太はハンカチを取り出すと幸哉の涙を拭った 「送ってくわ!」 「良いよ……独りで帰れる……」 「独りで帰せねぇよ! 明日、遊園地に連れて行ってやろうか?」 「……え?……忙しいんでしょ?」 「幸哉に使う時間はあるからよぉ!心配するな」 幸哉は嬉しそうに笑った そして榊原に気付き、康太を見た 「オレの愛して止まねぇ伴侶の榊原伊織だ」 その瞳に気付き、康太は幸哉に榊原を紹介した 榊原は優しい笑みを浮かべ 「榊原伊織です」 と挨拶した 「……やっと紹介して貰えた……」 幸哉は呟いた 「おう!近いうちに紹介するつもりだった 幸哉に伊織を見て貰いたかったからな」 「うん。素敵な人だね! 康太は幸せだね」 「おう!オレ程に幸せな奴はいねぇぜ!」 康太はそう言い幸哉の頭を撫でた 幸哉は笑顔で榊原に 「堂嶋幸哉です!」と挨拶した 榊原は康太を見た 「正義の弟だ……」 榊原は似ても似つかぬ兄弟だと思った そして堂嶋正義の大切な存在は少年だと……の台詞を思い出した 「ねぇ、慎一君は大丈夫なの?」 「見舞いに行くか?」 「…………良いの?」 「良いに決まってる!」 康太が立ち上がると榊原は幸哉のレシートを持って精算に行った そして病院へ行き慎一の病室に向かった 病室のドアをノックすると一生がドアを開けた 一生は康太の腕の中の少年に目を向けた 「慎一の意識は?」 「戻った…その子は?」 「伊織に聞け」 康太はスタスタ病室に入って行った そしてベッドの横に幸哉を立たせた 榊原は一生の耳に「正義さんの弟さんです」と伝えた 「……幸哉?」 「知ってるのですか?」 「康太が瑛太さんと大阪に行った時に知り合った子がいると聞いた……」 「そうですか。」 榊原と一生は慎一のベッドの前にいる康太を見た 幸哉は慎一の姿を見ると泣いていた 慎一は困った顔をして……幸哉を撫でた 「俺は主を残して死にはしません ですから泣き止んで……下さい」 「慎一君が死んだらどうしょうって思った…」 「………俺は超合金で出来てるので死にません…」 慎一がそう言うと幸哉は、唖然とした顔をして慎一を見て、爆笑した 康太はバツの悪い顔をした 「………オレも超合金で出来てるって言ったんだよ…」 とボソッと康太は呟いた 慎一は肩を竦め……痛みに顔を歪め 「……主に似るのです」 と言った 聡一郎は康太に 「何方なのですか? 僕達に教えて戴けませんか?」 と問い掛けた 幸哉はキチンと姿勢を正すと 「堂嶋幸哉です お見知りおきを!」 と自己紹介した 聡一郎はニコッと笑って 「四宮聡一郎です! 宜しくお願い致しますね!」 と幸哉を抱き締めた 幸哉はポッと顔を赤らめた 隼人も幸哉の前に立ち 「一条隼人です! ヨロシクなのだ!」 と幸哉の手を取り口吻を落とした 「……テレビで見ています! 今期のドラマ…毎週見ています!」 幸哉は興奮して隼人に話した 「僕は康太の友達にやっと紹介して貰いました 皆さん、お嫌でなかったら…仲良くして下さい」 幸哉はペコッと皆にお辞儀をした 聡一郎は「僕のPCのアドレスです!」と幸哉に渡した 「何時でもメールして来て下さいね PCの事なら僕に聞いて下さい!」 一生も幸哉の前に立つと 「緑川一生です 俺は戦略を立てるのが好きです 小難しい話をしたいならLINEでもTwitterでも 好きなので連絡して下さい」 と名刺を幸哉に渡した 「………何か嬉しい……」 幸哉はそう言い泣いた 「サインが欲しい奴がいたなら言ってくれ オレ様が捕まえて貰って来てやる!」 隼人も幸哉にアドレスが書かれた名刺を渡した 「僕、隼人君のファンなんだ」 「ならサインでも写真でも好きな奴をやるのだ!」 隼人は嬉しそうだった 「幸哉、送って行く」 康太がそう言うと 幸哉は悲しそうな顔をした 「まだ良いでしょ?」 「何も言わずに出て来たんだろ? 心配かけるな」 「………家に滅多と帰って来ないんだよ兄さんは…」 「今は大阪にいる! 気になるに決まってるだろ?」 「……もう少し……お話ししたい……」 「ならもう少しな」 「………ありがとう…」 「明日、遊びに連れて行ってやる 正義にちゃんと言って出て来るんだぞ」 幸哉は頷いた 幸哉は誰かと話すのに飢えているみたいに楽しそうに話をした 康太はそれを見つめてため息を着いた 「どうしました?康太」 榊原が心配して康太に問い掛ける 「大丈夫だ伊織 幸哉を送りとどけねぇといけねぇかんな」 「解りました。 下のタクシー乗り場で拾えば良いですよね?」 「おう!構わねぇ…」 「今夜…飛鳥井の家族と榊原の家族が大阪に向けてやって来ます」 「………早くねぇか?」 「慎一の事件が流れたので電話をして来ました」 「………そうか。」 康太は黙った また家族に心配させた それが苦しくて堪らなかった 榊原は康太を抱き締めた 「………君を心配してるんです…… 許してあげて下さい……」 「………伊織……解ってる…」 幸哉は心配そうに康太を見ていた 康太は笑って幸哉の頭を撫でた 幸哉は康太にこうやって頭を撫でて貰うのが好きだった 「幸哉、明日呼びに行く! 待ってろ!」 「うん……でも無理しないでね」 「正義に聞かなかったか? 近いうちに遊びに連れて行くって?」 「………聞いたよ……」 「なら心配すんな! 送って行くからな!」 幸哉は頷いた 名残惜しそうに幸哉は立った 康太は幸哉と手を繋ぎ、病室を落とした タクシー乗り場まで行き、タクシーに乗り込む そして、堂嶋正義の家の近くまで向かいタクシーを降りた そこからかなり歩き、デカいマンションの下まで送って行った 幸哉をマンションまで送って行くとマンションから飛び出た兵藤とぶつかった 康太は弾かれて……尻餅をつきそうになった その前に榊原が支えた 「あんだよ!おめぇはよぉ!」 康太は噛み付いた 兵藤は唖然として康太を見ていた 「幸哉がいなかったから…探しに出る所だった」 「オレを弾き飛ばしてかよ!」 康太は拗ねた 兵藤は康太を抱き締めた 「拗ねるな……それが俺の仕事だ」 「確かに幸哉は渡したからな!」 「寄って行かねぇのかよ?」 「慎一が入院してんだよ! 側に着いててやりてぇかんな!」 「………そうか。」 「ならな、貴史!」 康太は片手をあげると兵藤に背を向けた そして榊原と共に……歩いて行った 兵藤は康太を何も言わずに見送った そして断ち切る様に幸哉をマンションの中へ入れた 「正義さんがお部屋でお待ちです」 「………珍しいね……」 「今夜はこちらで過ごされるとの事です ですから俺は慎一の見舞いに行きます」 幸哉は何も言わずに…マンションの部屋へと戻って行った 幸哉をマンションの部屋に連れて行くと 堂嶋正義はソファーに疲れた顔で座っていた 兵藤は堂嶋に幸哉を渡すと 「今夜は慎一の病室で泊まります」 と礼をして部屋を出て行った 幸哉は中々……ソファーには座らなかった 堂嶋は幸哉の手を掴んで……引き寄せた 「何処へ行っていたんだ?」 「いちいち貴方に言わないと駄目ですか?」 幸哉は何時になく反抗的だった 「心配するだろ?」 「………帰って来ないのに? 」 「………幸哉……」 「僕は……貴方の愛人ですか? 気が向けば帰って来て抱いてゆく…愛人ですか?」 「………愛人ならお手当分の仕事はするだろ?」 幸哉は傷付いた瞳をした その時堂嶋の胸ポケットの携帯がけたたましく鳴り響いた 堂嶋は携帯に出た 『正義、恋人は日頃から水を与える様に愛を注がねぇとな、いけねぇんだぜ!』 「………今、痛烈に感じていた所だ…」 『だろ?幸哉は淋しかったんだよ 会話にも飢えていた……そこで独りでお前を待たせるのは酷だな… オレの仲間と常に連絡を取れる環境にした 明日は遊びに連れて行ってやる だから、おめぇは不安がらねぇように抱いてやれ』 「………不安がらせてるのは解っていた ……寂しがらせてるのも知っていた」 『おめぇは不器用な男だからな! 幸哉に変われ!』 堂嶋は幸哉に携帯を渡した 『幸哉か?素直になれよ 意地を張っても……後悔しか残らねぇぞ』 「………康太君……だって……」 『明日死んでも悔いなんか遺さねぇ様にな 愛し抜くかねぇと……なくしちまうぜ!』 「………康太君……解ってるんだ……」 『解ってるなら、その口からは愛を紡ぎ出せ 待ってて来ねぇ男ならお前が摑まえに行けば良いんだよ! 違うかよ!待ってるだけなんて焦れってぇぜ!』 「……うん…うん……康太君そうする…」 『なら大丈夫! なくさねぇようにな抱き締めて愛して貰え!』 「うん……」 『幸哉』 「なに?康太君?」 『………お前が正義を食べ尽くしても良いんだぞ』 「……え?」 『くれねぇならな、食えば良いんだよ オレはそうしてるぜ! 食い尽くすまで離さねぇ! 正義が困る程に……迫ってやれ』 「解った!頑張ってみる!」 電話を切った幸哉の瞳は光り輝いていた 堂嶋は背中に……冷たーい冷や汗が流れて行くのを感じた 「……ゆ……幸哉……」 「何?正義さん」 サクサク服を脱いで行く 康太に焚きつけられたのは一目瞭然だった 幸哉は康太を心酔していた 初めて出会った日から…… 幸哉の命を救った………その日から… 飛鳥井康太は……格別の人だった 電話を切った康太は笑っていた 「どうしたんですか?」 「……正義は大変だよな」 康太は笑った 「焚きつけたのは君でしょ?」 「放っておく正義が悪い」 「………康太、僕も君を抱きたいです……」 康太は、榊原を見た 「……伊織……オレも欲しい……」 「………ホテルに入りますか?」 ラブホテル街だった 何でこんなに歩けど歩けど…ラブホテルがあるのか? と思う程に…… 榊原は康太の手を引っ張った 「………伊織……男同士だぜ?」 「犯るのに男も女も構いません」 榊原の目が据わっていた ズンズン引っ張られ…ラブホテルに入ってゆく 榊原は部屋の写真を貼ってある前に立つと、適当に綺麗な部屋のボタンを押した そしてドアが開くとその中に入って行った ドアの突き当たりにはエレベーターがあり、それに乗り込んだ エレベーターを下りると、そこは部屋があった 部屋のドアを開けて部屋に入ると 部屋のど真ん中にドデカイ……ベッドがあった 「初めてだなぁこんな部屋」 康太はドデカイベッドに乗って、 ポヨンポヨン飛んでいた 榊原は康太をベッドに押し倒した 体躯を合わせると…熱い榊原の股間が康太に密着した 「……伊織…スゴくない?」 「何日君に触れないと想ってるんですか?」 ズボンの上から擦ると……歓喜して堅さを増す 「……伊織……食べたい……」 「僕も君が食べたいです 服を脱いで下さい」 榊原は待てないとばかりに立ち上がると服を脱ぎだした 康太も服を脱いだ 服を脱ぐ時間すら惜しい…… 総て服を脱ぎ捨てると康太を上に乗せた 「お尻をこっちに向けて下さい」 榊原の顔に向けて跨がりお尻を突き付ける すると榊原の舌が康太のお尻の穴を舐めた 指と舌で康太の硬く閉じた蕾を解す 康太は榊原の凶暴に硬く立ち上がった性器を舐めた 口に咥えるのが無理な程に……嵩を増し……太くなっていた ペロペロと亀頭の部分を舐める 亀頭の割れ目に舌を挿れて啜る 亀頭の割れ目は赤く……先走りで濡れていた 開いた口からは……止め処なく液を流していた 肉棒に沿って舐めると榊原は震えた エラのイボイボを舌で逆なでしながら舐めあげると 榊原は更に硬く……嵩を増した 「ドコにかけて欲しいですか?」 「口に……オレの口に出してぇ……」 榊原は康太の口に向けて精液を飛ばした 康太はそれを口で受け止めた ドロッと康太の口からは嚥下しきれなかった精液が流れた その顔は……淫靡だった 榊原は康太を上に乗せた 「康太、久しぶりなので手加減出来ません……」 康太は榊原を体内に受け入れ… 手加減なんてしてくれた事ねぇじゃんか……と思った 「伊織……手加減したら息の根止めるぜ!」 と笑った 康太しか吐かない台詞だった 榊原は康太を突き上げた 激しく突き上げ、繋がったままベッドに押し倒した 足を抱え、激しく康太の中を抽挿する 「……あぁっ……激しいってば……んっ…はぁはぁ…」 激しく体内を擦られ、康太の意識は朦朧となる 榊原が弾け飛ぶ瞬間……最大限に傘が開き…… 康太の良い部分を擦りあげた 「……ゃ!……イクぅ……イッちゃう…ぁぁん…」 康太は狂った様に喘いだ 声が掠れる程叫び……喘いだ 榊原が何度も復活し、康太を犯し続けた 康太は途中で意識を失った 榊原は康太を強く……強く抱き締めた そして康太の中から抜くと、精液を掻き出し お尻の穴を舐めた ペロペロと労る様に舐めた その感触に康太は目を醒ました 「……伊織……」 「無理させましたか?」 「……大丈夫だ それより……病院に行かねぇと…心配するだろ?」 「………ですね。支度をしますか?」 「………ん。まだ少し伊織とくっついてる」 そう言い康太は榊原に腕を伸ばした 榊原は康太を胸に抱き締めてた 「君を抱きたくて…止まりませんでした……」 「……ん。オレも伊織が欲しくて止まらなかった 奥を掻いて貰わねぇと熱が引かねぇよ……」 「康太、愛してます」 「オレも愛してる」 互いを抱き締め、互いの温もりを感じていた 絶対の存在 絶対の相手だった 「起きますか?」 「おう!」 榊原はバスルームに康太を抱き上げて連れて行くと 中も外も綺麗に洗った シャワーで流しバスルームから出ると体躯を拭いた 康太の支度をして、榊原は自分の支度もする 康太がまた榊原のネクタイを締めてあげると 榊原は嬉しそうな顔をした 身支度を整え、康太に手を差し出すと 康太はその手を取った 部屋を出て精算をする 顔が見えない様になってて康太は安心した 支払いを済ませ外に出る 何でもない風に歩いて大通りに出た そして走ってきたタクシーを停めて乗り込んだ 行き先を告げ、康太は黙った 榊原は前を見て何も言わなかった 車は告げられた病院まで走り、病院の正面玄関へ停まった 榊原は料金を支払い外に出ると兵藤が笑って立っていた 「俺より先に出て行って何処で寄り道してたよ?」 「ちょっとな伊織が不足してたからなチャージしてた」 「………傷は大丈夫なのかよ?」 「見た目ほど酷くはない」 「そうか。それより慎一が退院すると言ってるぞ」 「………嘘だろ?慎一が?」 仲間の中で一番の常識人……なのに? 「一生が怒って泣いてる 行ってやれよ」 「おう!行ってやる お前の方はどうよ?」 「2月のお前の誕生日に飛鳥井の家族へ返しに行ってくれるそうだ」 「半分切ったな!」 「おう!後半分だ 堂嶋正義の駒よりは使えると褒められた」 「そうか。その程度の賛辞じゃ……たいしたことねぇな」 形無しだった 「もっと使える男になる予定だ!」 兵藤は笑った 康太は兵藤の背中に手をやり 「今夜は帰らなくても良いんだろ? 帰ったら最中だろうしな!」 「俺はあの家では暮らしてねぇけどな 一応………今夜は病室で過ごすと言ってきた」 「なら食料は必要だな」 康太は呟いた 「聡一郎が食料を調達に行ってる 俺は聡一郎が帰って来るのを待って荷物を持つつもりだ」 それで外にいたのか……と康太は納得した 兵藤は康太に 「お前、命狙われてたんだってな……」 「あぁ…殺されかけた…」 「少しは大人しくしてろ!」 「それは聞けねぇ話だわ」 「………それがおめぇだから仕方がねぇか…」 「だろ?」 康太は笑った 「オレは慎一を見て来るわ 一人で大丈夫かよ?」 「誰に言ってんだよ!」 康太は兵藤の肩を叩いて病室へと向かった 榊原は康太と共に向かう 病室のドアをノックすると一生がドアを開けた 「外で貴史に逢った 慎一が駄々っ子だって?」 一生は康太の顔を見ると 「おう!明日の朝退院するってよ 言っても聞きゃぁしねぇからな…」 と告げた 慎一との攻防戦に疲れた顔をしていた 「それはおめぇも変わらねぇだろ? 胃潰瘍はどうしたよ?」 やはり言われてバツの悪い顔をした 「……退院しても良いって言われた」 「本当かよ?」 康太が聞くと慎一が 「一生は聞きませんから久遠先生が薬を飲むなら…と妥協してくれてのです」 と暴露した 怒った顔をした康太に 「……お前が心配だったんだ!」 と叫んだ 「なら良い子にしてろよ! 絶対に無理すんな解ったな!」 一生は頷いた 康太は慎一の横に座った 「退院なんてしていいのかよ?」 「この前の傷よりは軽い こんな傷で寝ている方が悪化します」 何という持論…… 康太は目眩がした 「無理させてぇ訳じゃねぇ…」 「解っています! 無理などしません! 俺の生き甲斐は主がいてこそ 俺から生き甲斐を取らないで下さい」 「横浜に帰って消毒には行けよ!」 「解っています」 康太は慎一を抱き締めた 「後数センチズレてば心臓が一突きで即死だったみたいです 刃渡り30㎝の刺身包丁でした でも俺は死んだりしません! 主を残して死ねません! 伊織に変わって主を見張ってねばなりません!」 榊原は苦笑した 慎一が元気そうで安心した 聡一郎が大量に食料を調達して帰って来た 榊原は手助けして兵藤の荷物を持った 聡一郎は「康太、お腹空いてませんか?」と尋ねた 「めちゃくそ空いてる…」 と訴えると聡一郎はお弁当を康太に渡した 一生は全員に弁当を渡した 康太のプリンは冷蔵庫に片づけた ガツガツ弁当を平らげる 相当お腹が空いてたのを伺えれた 榊原も「まともな食事に有りつけました…」と喜んだ 一生は「若旦那と食事しなかったのかよ?」と問い掛けた 「お茶して来ました そして若旦那達は帰って行きました」 「………大阪に来てから……食ってねぇのかよ?」 「ええ。大阪に入ってから……何時狙われるか解りませんでしたからね…… 食事もエッチも皆無でした」 どれだけ過酷な時間を送ってきたのか……… 一生達は言葉をなくした 「電話……切れた時……あにしてたんだよ?」 「非常階段を上ってました 職員通路から抜け出て非常階段で屋上まで上がりました そして事件の後警察が捜査に当たる時、保護して貰い別のホテルに移ったのですが…… ドアの外には常時警察が立っていました 落ち着かないし、エッチ所じゃ有りませんでした」 「…………あんで……そんな危険な地に……」 「飛鳥井建設は下請から総スッカン食わされました 飛鳥井家真贋の死亡説まで出されて下請を奪われた 実際、建設中の工事の遅延が出てました 手を打たねば飛鳥井建設は、確実に信用の失態をする 後がない状態でした 康太も命を狙われ付け狙われていた 家族が巻き込まれるのは避けたかった 子供を戻すと決めた今、飛鳥井の家を巻き込む事だけはしたくなかったのです」 だからわざわざ……敵の中に入って行かなくても…… 康太は慎一の横にいた 慎一は康太を見て幸せそうに笑っていた 康太は立ち上がり榊原の膝の上に座ると 「大阪で少し仕事する」 と言った 「何するんです?」 「融和コーポレーションを買い叩く」 「要らないでしょ?」 「買っておいて損はねぇ」 「なら買っておきますか。」 「そう。父ちゃんと瑛兄が来るならな買い付けて貰って横浜に帰るとする!」 「新婚旅行ですね。」 「おう!間に合ったな」 「愛してますよ奥さん」 「オレも愛してんぜ伊織」 二人はチューとキスをした 兵藤が「……砂糖とシロップをぶっ掛けた甘さだ」とボヤいた 一生は「絶えろ貴史…」とエールを送った そして胸ポケットから携帯を取り出すと写真のホルダーから写真を取り出し兵藤に見せた 「何?」 「………見れば解る……」 兵藤は一生の携帯を持ち写真を見た 携帯の画面一杯に幸せそうな花嫁が映っていた 「…………康太?」 「そうだ!式を挙げたんだよ 見てみろよ……」 兵藤は一生の携帯の写真を捲って見た 榊原と康太の幸せな新郎新婦の写真もあった 「甘い筈だわ」 兵藤はそう言い携帯を一生に返した 「だろ?」 一生は携帯を胸ポケットに片づけ笑った 榊原の膝の上で甘えていた康太が欠伸をすると 「疲れてますか?」 と慎一は尋ねた 「おう!昨夜は眠れなかったしな 伊織不足でチャージしてきたら疲れた」 康太が言うと慎一はベッドから降りた 眠そうな康太をベッドの中に入れ寝かせた そして自分はソファーに座っていた どっちが病人だか解らない…… 一生が榊原に…… 「……おい……」 「………解ってます……」 「………退院する気満々やん…」 「………ですね。」 と二人して愚痴っていた 兵藤は慎一に 「傷は大丈夫なのかよ?」 と問い質した 「ええ。康太の心臓を狙ってたので高さが違ったのが幸いしてました…」 「あんまし無理するなよ 康太は気にするからな……」 「解ってます。無理はしません 離れてる方が気になって……悪化します ですので傷の為には退院した方が良いのです」 「どう言う持論よ……それは」 兵藤は笑った 久し振りの時間だった 大阪に出て来て堂嶋正義の側で仕えて日々勉強して来た 毎日必死で過ごした こんなに必死で生きて来たのは初めてかも知れない 必死に忘れようとした だが……こうして康太の顔を見てしまえば……無理だった 消灯時間になっても…… 夜更けまで……話しに花を咲かせ過ごした 大声を出せないから…… 控え目に笑った そして兵藤は眠りに落ちた 康太は兵藤の髪を撫でてやった 夜が明けるまで…… 暫しの戦士の休息 ………………眠れ

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