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第59話 邀撃 ①

新大阪の駅に到着すると、一人の男が近付いて来た 「飛鳥井康太さんですか?」 男は手の中の康太の写真と見比べていた 「そうだ!」 「堂嶋正義の命を受けお迎えに来ました」 「悪かったな百目鬼 命」 名を呼ぶと百目鬼 命と呼ばれた男は驚いた顔をして康太を見た 「俺の名は堂嶋さんに?」 「違う!オレは人を見れば…総てが…解るんだよ」 その人の名、生い立ち、生き様 それら総てが視えると康太は謂った 百目鬼はこれが飛鳥井の真贋か‥‥と想い自分を建て直した 「堂嶋に一任されております! まずは荷物を持ちます 着いて来て下さい!」 命は榊原の荷物を持つと歩き出した 駅の外の駐車場には車が待っていた 命は後部座席のドアを開くと 「乗って下さい」 と告げた 康太は車に乗り込んだ その横に榊原も乗り込んだ ドアを閉めると命はトランクにスーツケースを乗せてドアを閉じた 運転席には他の男が座っていた 命は助手席に乗り込むと 「何処へ向かえば宜しいですか?」 と尋ねた 康太はそれには応えなかった 「正義がオレに逢わせたい男ってお前達か?」 康太は笑った 「オレは飛鳥井康太、そして横にいるのがオレの伴侶の榊原伊織だ!」 康太は堂々と伴侶と言った 修一は…噂通りの2人を見て言葉をなくした 何だか迫力…… 「命、ホテルに逝く前に、お前んちの珈琲を先に飲ませてくれ」 命は息を飲んだ 飛鳥井家真贋の噂なら、大阪でも知らない奴はいなかった 黄泉の眼を持つ男 それが飛鳥井康太だった 半信半疑だった そんなに何でもかもお見通しの人間なんて…… そう言う思いもあった 康太は榊原の肩に凭れ掛かった 「傷が痛いのですか? ホテルに帰ったら鎮痛剤を飲みますか?」 榊原は心配して話し掛けた 「大丈夫だ伊織」 榊原は康太を抱き締めた 「辛かったら言いなさい」 大切にその腕に康太を抱いた 「ん。伊織……オレはお前がいれば生きて逝ける…」 「僕も君がいれば生きて行けます」 2人は何処から見ても恋人同士だった 修一は百目鬼 命の父のやってる喫茶店まで車を走らせた 喫茶店の前に車を停めると、先に下りて後部座席のドアを開いた 先に榊原が降りて康太が降りるのを待った 修一は皆を下ろすと車を出した 命は喫茶店の中へと連れて行く 百目鬼命の父の秋人は飛鳥井康太の顔を知っていた 唖然となる秋人の前に命は康太と榊原を座らせた そして康太の横に命は座った 「ご注文は?」 秋人は問い掛けた 康太は命に「何がお薦め?」と問い掛けた 命は康太に「カフェモカです」と薦めた 「ならそれで! オレは珈琲は飲めねぇ 紅茶かミルクを頼む」 秋人は注文を受けて珈琲を立てた そして康太には甘過ぎないミルクを差し出した 康太は命の耳元で 「綺麗な恋人だな」と問い掛けた 命は真っ赤な顔になった 「解りました?」 「おう!オレを見る瞳が妬いてる」 秋人は……目の前で仲良く繰り広げられる康太と命に妬いていた 康太は笑っていた 「ところで百目鬼命、おめぇ、飛鳥井建設に何か用か?」 「修一、あ!運転してた奴ですが……」 「藤崎修一」 康太は教えもいないのに名前を言った 「そう!ソイツが工務店をやってるんです で、後ろ盾が欲しいと想ってます」 「大阪支店の飛鳥井に話を通しておいてやる 飛鳥井と提携して仕事をすれば良い」 「良いのですか?」 「お前の人となりを視た 正義の駒なら、今回動いて貰う報酬だ オレは失敗は出来ねぇかんな! 的確に動いて貰う!」 「ええ。そう言い付かってます 今夜のホテルは取ってありますか?」 「ホテルは予約済みだ! でなきゃ大阪に夜に来れる訳ねぇかんな!」 「康太さんは今お幾つですか?」 目の前の飛鳥井康太は高校生よりも幼く見えた 「幾つに見えるよ?」 康太はそう言い榊原を見た 榊原は康太を抱き寄せると額にキスを落とした 「高校生……?」 「お前は今18だろ? オレと伊織は19だ……」 「…嘘……」 康太は高校生位で、榊原はもっと上に見えた ビシッとスーツに身を包み……かなりの貫禄だった 「伊織は、飛鳥井建設の副社長をしている」 「大学生で?」 「そうだ!」 命は2人は別の世界の生き物に見えた 康太は唇の端を吊り上げ皮肉に嗤う その瞳は……果てを視て……嗤う 康太は胸ポケットから携帯を取り出した そして掛かって来た電話に出た その仕草は電話が解っていて取り出した……みたいだった 底知れぬ恐ろしさを醸し出していた 噂以上かも知れない 額には包帯が巻かれていた 痛々しいのに……痛々しいさを感じさせない さっきまで笑ってた顔は子供みたいなのに…… 次の瞬間には……背筋も凍る顔をしていた…… 「トドメを刺す!助かる道はねぇ!」 『御意! 総べては貴方の想いのままに』 康太は電話を切ると胸ポケットにしまった そして秋人にニコッと笑うと 「とても美味しかったです」 と礼を述へた 榊原も秋人に賛辞を述べた 「とても美味しかったです 新婚旅行で訪れる時は寄らさせて頂きます」 と告げた 命は「新婚旅行?」と言葉を濁した まさか………不倫なのか?? 「僕は康太と結婚式を挙げたのです 両家の両親達と新婚旅行に繰り出す予定なのです」 と至極幸せそうに答えた 命も秋人も返答に困った 2人は男同士だったから…… 康太はクスッと笑った 「オレ等は男同士だが、結婚式を挙げました 両家の両親や兄弟、親しい友人に祝って貰ったのです 後は新婚旅行です それまでに邪魔者は片付けないとね」 榊原は冷徹に笑みを漏らした 「新婚旅行は誰にも邪魔させません 皆で帰りに寄らさせて頂きます!」 秋人はニコッと笑って 「お待ちしております」 と答えた 「命、工務店を建て直したいなら後ろ盾だけじゃ駄目だぜ! 経営戦略なくして会社の明日はねぇぜ!」 康太がそう言うと胸ポケットの携帯がブーブー響いた 康太はため息を着くと電話に出た 「一生、良い子にしろてろよ!」 『おめぇ大阪に行ったんだってな!』 「誰に聞いたよ?」 『若旦那が見舞ってくれたんだよ! んで、若旦那が大阪に連れて行ってやると言ったからこれから行く!』 「来るな一生…」 『聞かねぇからな!』 「危ねぇんだよ!」 『お前は殺され掛けたじゃねぇかよ!』 「………ホテルに行ったら伊織と犯るかんな!」 『犯ってれば良い! 別に何時もの事じゃねぇかよ!』 一歩も引く気はない気迫に満ちてた 「一生!来てもお前と逢ってる暇はねぇぞ!」 『傍にいてぇんだよ! お前の傍じゃなきゃ意味がねぇだよ!』 一歩も引かない一生に康太は百目鬼に声を掛けた 「………命、おめぇ、コイツ等を連れて来てくれねぇか? 電話番号を教える 暇なら経営戦略を叩き込んで貰うと良い 聡一郎はPCを、一生は戦略を、なんなら伊織に経営者のノウハウでも聞くか?」 「良いんですか?」 「おう!コイツ等を連れて来てくれるなら…」 「解りました。連れに行きます!」 康太はコースターに一生の電話番号を書いて命に渡した 「一生」 『あんだよ?』 「迎えを出す!百目鬼命と言う子がおめぇに電話を入れる 彼に連れて来て貰ってくれ! お世話になるだからな!失礼のない様にな」 『解った!絶対に失礼な事なんかしねぇ!』 「なら連れて来て貰え! んで、そのお礼に経営の戦略のノウハウを叩き込んでくれ 戦略は経営だけに非ず! 総てに通じる手腕になる!頼むな」 『おう!お世話になるんだからお返しする!』 「なら来い!」 『絶対に行く!』 一生はそう言い電話を切った 「命君、頼めるかな?」 「解りました。連れに行きます!」 「オレは駅前のホテルに泊まってる 何かあったら電話を一生に入れさせてくれ」 康太は立ち上がると榊原に手を伸ばした 榊原はその手を取って、掌に口吻を落とした 榊原は珈琲代を支払うと店を出た 2人を見送り………秋人は命に声を掛けた 「さっきの男の子……飛鳥井康太……だよね?」 絶対に忘れられない瞳をしていた テレビの向こう側なのに……その瞳を見るのが…… 怖かった…… 「そう。自己紹介してないのに名前を言い当てられた……すげぇな…噂以上かもな」 「隣にいた子が伴侶の榊原って子?」 「詳しいな秋人……」 珍しかった 秋人は芸能ニュースとか興味なさそうだったから…… 「テレビを見たら……あの瞳の色が綺麗で見てしもたんや 伴侶のスキャンダルを捏造して出される前に記者会見を開いた……あの時見たんや 男同士なのに臆する事なく、あの子は自分の相手を伴侶だと宣言してた 凄いなって想ってた……何かね……負けるな……って想ったんや 目の前で見ても凄いわ…… 榊原って子は絶対に恋人から眼を離さない… 絶対的な存在だなんやな……あの2人は…」 「秋人…」 「なんや?」 「妬いたんか?俺が康太さんと話してる時…」 秋人は顔を赤らめた…… 「………知らん……」 「可愛いな秋人は!」 命は秋人に口吻した 「……可愛くない……」 「俺は秋人の方が可愛い あの人が恋人なら……命は幾つあっても足らんよな……」 頭の怪我は真新しかった ほんの何ヶ月前かは暴漢に押し込まれ半死の重症と報道があった ………彼が恋人なら…… 逝かせたくなくて……閉じ込める 何処にも出したくなくて…… 自分なら閉じ込めるしかない… 息の根を止めて 自分だけの存在にする 「秋人、ちょっくら行ってくるわ」 「気を付けて行くんやで」 「当たり前やん 秋人を淋しがらせる事なんてせぇへん」 「…………絶対やで…」 命は秋人に接吻した 名残惜しそうに離すと、店を出て行った 秋人の店を出た康太達は、大通りまで出て来ていた 「伊織、散歩がてらホテルまで行くか?」 康太は楽しそうに言った 「僕は道はサッパリですよ?」 「任せとけ!」 「康太は大阪は詳しいの?」 「瑛兄が良く来るからな 出張に着いて来て遊んでたかんな そのうち伊織も出張に出ねぇとな…」 「………出張……やっぱりあるんですよね?」 「あるだろ? 父ちゃんや瑛兄は各支社に回るかんな そのうち伊織も回らねぇとダメかもな」 「………覚悟しときます……」 康太は笑って榊原の手を握った 「伊織、闘いの火蓋は切って落とされた!」 「ええ。解ってます! 何があっても僕は康太を離しません」 「オレも離さねぇ! 取り敢えずホテルに行ってからだな」 「ええ。お連れします!」 追い詰めて…… 相手の息の根を止めるまで追い詰める 今度の闘いは情け容赦ない闘いだった 情けを掛ければ……次の瞬間には喉元を切り裂かれる 気を抜けば背後から斬り付けられる 気の抜けない闘いの火蓋は切って落とされた 康太と榊原は駅前の大きなタワーホテルに予約を入れておいた フロントに到着を告げると、キーを渡してくれた 案内されホテルの部屋に向かう 「このお部屋です」 ベルボーイは頭を下げて帰って行った 榊原はドアを開け康太を部屋の中に招き入れた 部屋に入ると榊原は康太を抱き締めた 「伊織、バーに行く このスーツで大丈夫か?」 「大丈夫です」 榊原は康太にネクタイを直した 逐一入って来る堂嶋正義からの情報に康太は目を光らせた 「伊織、何とこのホテルのバーに標的は来てるぜ!」 康太は榊原に携帯を見せた 榊原も身なりを整えると 「では行きましょうか!」 と、手を差し出した 康太はその手を取り笑った 例え……この地で散ろうとも…… 我 人生に一片の悔いは遺さず そう言える人生だと想う 必死に倍速で生きて来た その時必死に精一杯、生きて来た この日が命日になろうとも 「悔いなんか遺すかよ!」 康太は呟いた 榊原にエスコートされて康太はホテルのバーへと入って行く 大阪界隈で見慣れない顔触れに、客はざわめいた 優雅にラウンジを歩いて行く 堂々と歩を進める榊原の姿に……女性客は釘付けになっていた その中に一人 驚愕の瞳で康太を見る輩がいるのを知っていて…… 敢えて康太はバーに出向いた 京極瑠璃子は………飛鳥井康太の姿を……唖然として見ていた 康太は唇の端を吊り上げ皮肉に嗤っていた 席に着き榊原はカクテルを注文した 康太には康太にはトロピカルカクテルを注文した 京極瑠璃子が……榊原に近寄ろうとした瞬間 堂嶋正義がバーに現れた 堂嶋は的確に榊原の方に歩を進め、康太に頭を下げた 「良くお見えになられました!」 「招いてくれてありがとう!」 康太は堂嶋に挨拶をした 「何処に泊まっておいでですか?」 「タワーホテルの705号室」 康太は答えた 「彼処は見晴らしが凄いのです 大阪を堪能して下さい」 堂嶋はそう言い横目で京極瑠璃子を確かめた 「何処かに電話を入れた」 堂嶋は小声で康太に知らせた 「尻尾出すかな?」 「出すだろ? 浅はかな女だ 坊主、お前を襲った犯人は捕まった 口を割るのも時間の問題だろう」 「寒山洋介?」 「そうだ。借金のカタに犯罪に手を染めた… 憐れな奴だな……素直に自供してるらしいぜ」 「息の根を止めてやる! オレを殺そうとするなら…… この世の中から抹殺してやる!」 「明日は記者会見だ! ならな!気を抜くなよ!」 「大丈夫だ!」 「では、大阪の夜を堪能なさって下さい」 堂嶋は康太に別れを告げてバーを後にした 康太と榊原も精算をしてバーを後にした 怒りの炎に身を燃やし、京極瑠璃子は次には息の根を止めてやる!と瞳を輝かした 許すモノですか! 絶対に許さない! 私のモノにならないなら……壊すだけよ 康太と榊原はバーを出るとホテルの職員に職員用の通路に案内されて早足で非常階段へと出た そして非常階段を上がって行く 一生達は田代が運転する車で大阪に到着していた 一生は百目鬼命から大阪に着いたら連絡をしてくれと、連絡を貰っていた 「大阪に着いた」 『では迎えに行きます』 命はそう言った 命に連絡を入れた後に、一生は康太に電話を掛けた 「……っ…はぁ……はぁ……」 荒い息遣いが聞こえた 一生は最中かと……躊躇した 「一生!来るな! 今は来るな!はぁ…はぁ…」 康太が喋ると榊原が 「電話してる暇なんか有りません!」 と電話を切った 電話は…………そこで途絶えた その後……何度電話を掛けても…… 繋がる事はなかった 「………あにがあったんだよ!」 一生は叫んだ 戸浪は榊原に電話を入れた だが、電話は繋がらなかった 戸浪は安曇に連絡を入れた 「安曇さん……康太の連絡が途絶えました…」 戸浪は安曇に訴えて 『戸浪君、康太は今は構わないでくれないか? 近くに行くのは辞めてやってくれ その為に康太は大阪の地に降り立ったんだ』 「………安曇さん……康太は大丈夫ですか?」 『………信じてやってくれ!』 安曇はそう言い電話を切った 戸浪は一生達に…… 「様子を見ましょう……」 と告げた 一生達は言葉をなくした 両手を握り締め…… 祈る 神様…… この世に神様がいるなら…… 康太と伊織を助けてくれ…… 頼むから…… お願いだから…… 俺等から康太を奪わないでくれ…… 一生は祈った 慎一も祈った 手が白くなるまで祈って…… 神に願った 聡一郎はPCを駆使して何かを掴もうとした 隼人は泣いていた 戸浪は静かに……瞳を閉じた 頼むから……… そんな想いで一杯だった 戸浪は取り敢えず今夜は泊まりましょう と言い大阪で一番大きいタワーホテルへと向かわせた ホテルの駐車場に車を停め、ホテルに向かう …………するとホテルの入り口は鑑識のテープが張ってあり……立ち入り禁止になっていた 戸浪は……胸騒ぎを覚えて…… ホテルへと行こうと車を降りた すると百目鬼命が戸浪の腕を掴んだ 「行くな!行けば総てが台無しになる!」 命は何かを知っていて戸浪を止めた 命に何かを聞こうとしたら次の瞬間 命は何も告げず走って消えた 戸浪は……車に乗り込み…… 動けずにいた 田代は「取り敢えず他のホテルへ泊まりましょう」と言い車を出した 他のホテルへ向かい、宿泊する 部屋は一つ…… 各々部屋を取っても寝れそうもないから…… 部屋に行き……言葉もなく床に崩れ落ちた 康太…… 何処にいるんですか! 戸浪は床を殴りつけた 床を殴った手が真っ赤になった 人も……床も、戸浪は殴った事なんかなかった 一生は真っ赤になった戸浪の手を握り締めた 「若旦那……」 「……一生……許して下さい……大阪まで来てはいけなかったのかも知れません……」 一生は戸浪を抱き締めた 「若旦那!自分を責めないで下さい! 俺が康太の側に行きたいと言ったからだ…… 謝るのは俺の方だ…… 若旦那……辛い想いをさせて本当にすまねぇ…」 「一生……君の所為じゃありません 私も康太の怪我が……心配でした 康太に出逢う前は、私にはこんな感情はありませんでした…… 私は人を寄せ付けず、人を駒もしか想ってなかった…… 兄弟の力哉にしても父親が責任を押しつけたと…… 迷惑に想ってました…… そうして……生きて来たのに…… 今は前の自分には戻れません 私は力哉が可愛い 父が遺してくれた……私の兄妹だ……と思える 社員にしても働いてくれてるから、今の戸浪があるのだと想える この意識改革は総て飛鳥井康太が作ったモノだ 私は飛鳥井康太に変えられた…… そんな私が彼をなくしたら…… 考えるだけで……怖かった 一生……私は怖かったのです 康太をなくしたくないと…想ってしまったのです」 だから大阪まで来る暴挙に出た その時、ドアがノックされた 一生はドアを開けると、そこには……… 安西力哉が立っていた 一生は唖然として力哉を見た 力哉は唖然としている一生を押し退け部屋に入った そして戸浪の前に立つと、深々と頭を下げた 「飛鳥井康太の秘書の安西力哉です」 力哉は今更ながらに戸浪に自己紹介をした 戸浪は……訳が解らなかった 「康太に仰せ付かりまして、今、僕は貴方達の前に立っています!」 戸浪は「……康太に?」と訝しんだ 「僕は今、飛鳥井康太の秘書の……と言いませんでしたか?」 敢えて康太の秘書の……と言ったのは、そんな訳があったのか…… 力哉は姿勢を正すと 「康太から預かっております!」 胸ポケットから封筒を取り出すと、戸浪に渡した 戸浪は封を切ると中の手紙を取り出し読み始めた そして力哉の顔を見た 「………これを康太が?」 「ええ。大阪に立つ前に僕に託して行きました 午後11時、此処のホテルで待ってて、この部屋に訪ねて渡してくれ……と言われました」 戸浪は手紙を一生に渡した 一生は手紙を受け取ると聡一郎と隼人と慎一で見た 『この手紙を見ていると言う事は、若旦那達は大阪の地に来たのですね オレは仕掛けの追い込みで姿は現せません ですが大丈夫!心配しないで下さい 明日で総てがカタが着きます! 明日、少しでしたらお逢い出来ます ABCテレビの控え室に力哉に連れて来て貰って下さい 記者会見後に時間を作ります 若旦那、本当にありがとうございます 一生達を気遣って大阪の地まで連れて来て下さって本当にありがとう御座いました _____________飛鳥井康太 』 一生は手紙を見て泣いていた 康太の字だった 殴り書きしたような康太の字だったから…… 一生は手紙を胸に抱き締め……泣いた 力哉は一生に「病状は?安定しているのですか?」と問い掛けた 「久遠先生に退院しても良いと言われた」 「そうですか。無理は禁物ですよ 君が無理をすれば康太は自分を責めます 康太を苦しめたくないなら、御自分の健康管理は欠かさないで下さい!」 とヒシャッと言い放った 一生は力哉に向き直ると 「肝に銘じておきます!」と返した 「では、僕はこれで! 明日、時間が来ましたら迎えに来ます」 力哉は背を向け出て行こうとした 戸浪は「力哉、何処に泊まるのですか?」と問い掛けた 「今日は眠ってられません 記者会見の準備を緻密に進めねばなりません」 戸浪は力哉に 「記者会見を開くなら…… 私も同席したい……」と訴えた 大阪にいるのだ 同じ場所にいるのなら力になれる筈だ‥‥ そう想い口にした 「駄目です!相手は京極瑠璃子です! 若旦那に目をつけられたらどうするのですか? 彼女の狙いが若旦那に向くのは康太は許さない 今回彼女に康太は殺され掛けました タワーホテルに行かれたのでしょ? 規制が引かれてませんでしたか?」 「………ええ。規制が引かれてました……」 「京極瑠璃子の手のモノが康太の部屋に押し入り 火炎瓶で火を付けたのです 現行犯で逮捕されました でも、京極瑠璃子の息の根を止めるまでは気が抜けません ですから近付けたくはないのです 明日、記者会見を開いたら公に京極瑠璃子は動けなくなります それまでは康太に近寄るのは禁止です 執拗に狙われ命を脅かされます! 今回の康太のように……なりたくなくば、待ってて下さい!」 戸浪は……何も言えなかった だが「康太は無事なのですか?」と問い掛けた 「あれ以上……傷付かないで欲しい…… 一生に聞いたら額を縫ったんだって? スーツが血で染まっていた……と聞いた」 「僕は今、康太とは直接連絡は取れません」 「………え?」 「僕は康太に命令され、此処にいます そして使命を受けて記者会見の場を設定する その為だけに、この地に下りました! 康太は記者会見を開く! そう言いました。 僕はその場を設定する 康太の命令です!僕は完遂します ですので明日まで僕も……無事は解りません」 力哉は康太の使命を完遂する為だけに踏ん張っていた 「兄さん、飛鳥井康太は言った事は成し遂げます それを信じて……明日を待って下さい」 「解りました! 明日、君が迎えに来てくれるのを待つよ」 「ありがとうございます」 「力哉……御飯は食べてるの?」 戸浪に聞かれ……力哉は困った顔をした 「御飯だけ食べて行きなさい 私達も何も食べてない……食べます 食道楽の大阪です。食べに行きませんか? それからでも遅くはないでしょ?」 「………はい。兄さん……」 戸浪は力哉を抱き締めた 「痩せたら康太の秘書は出来なくなりますよ」 「………それは嫌です!」 生きる場をなくす 手を差し伸べてくれたのは…… 飛鳥井康太……唯……一人 明日死のうと……死刑の執行を待っていた それを断ち切ってくれたのは……康太だから 康太の為に生きる 力哉の覚悟だった 「なら行きましょうか!」 戸浪は一生達や田代と共に、食事に出掛けた ………連絡が入らない 京極瑠璃子は携帯を床に叩き付けた 壊れた残骸が飛び散り…… 無残に破壊された携帯が床に投げ出されていた 気に食わない! 何なのよ!あの化け物! 飛鳥井建設を手に入れようと思った 不景気という言葉を知らないかの様に上昇し続ける企業は魅力的だった 飛鳥井建設を手に入れれば、真贋だとか何だとか言うのも付いて来る 要らないけど…… 欲しいと言うなら売り飛ばせば良い 飛鳥井建設を調べて行くと榊原伊織 見目の良い男がヒットした 父親も母親も兄も俳優と言うだけあって、かなりのイケメンだった 興味が湧いた 連れて歩くなら……やはりこの程度の男じゃなきゃ 京極瑠璃子は榊原伊織を手にしょうと思った 私を見れば、惚れない男はない そう思っていたのに……ホモだなんて……! 今日、バーにいた榊原伊織に客は惚れ惚れとしていた 皆が榊原を見る 羨望の眼差しで見る 欲しい…… 男より女の方が良いのよ… と教えれば良い 骨抜きにさせれば……靡かない男はない それには、やはり邪魔! 飛鳥井康太! 本当に邪魔! 株価を操縦しやがって! 京極を追い詰めようとしやがった! 株価は低迷… このままでは……殆どの会社を手渡さねばならなくなる 最悪…倒産 させるか! 真贋とか言う、飛鳥井康太を潰せば良い アイツを潰さねば…… 京極瑠璃子は復讐の焔に身を焼き尽くしていた ホテルの部屋に押し入ってトドメを刺せなかったみたいね ならば……… 何としてでもトドメを刺してやる! でなければ溜飲は下がらぬ!! 刻々と時間が過ぎる 京極瑠璃子はイライラと独り言を言っていた この世で自由にならぬ男などいない 金持ちの家に産まれ 何不自由なく育ち 我が儘放題許された存在だった その生き方が…… 君臨する悲しき女王を生み出した 榊原と康太は堂嶋正義が用意したホテルに身を隠していた 命の車に置いたままにしておいた荷物は運び込まれていた スーツケースとスーツを入れたボストンバッグがソファーに置かれていた 「康太、シャワーでも入りますか?」 汗だくで走って非常階段を上がった そして身を隠していた 堂嶋正義が手配してくれた警察が来ると同時に、保護に当たらせた 連れ出して貰いホテルを変わった ドアの外には警官が見張りの為に立っていた 落ち着かない現状があった 「だな。汗だくだ」 康太の服を脱がし、自分の服も脱ぐと慌ただしくシャワーを浴びた 髪を乾かし、バスローブに着替えて一息ついた 堂嶋から差し入れが入り、警官が部屋まで運んで来た 完全防備で守られ、明日の記者会見を迎えるつもりだった 連絡は一切禁止だった 榊原は康太を、抱き締めた 「愛してます 君だけを愛してます」 榊原は康太の旋毛に口吻を落とした 「オレも愛してる! 明日死のうともオレは屈指ねぇ!」 榊原は康太の顎を上げ、接吻した 「逝く時は一緒です! 何処までも一緒です!」 康太は榊原を抱き締めた シングルの狭いベッドに体躯を横たえた 眠れない……夜を過ごす 眠れないけど息を潜めて過ごす 朝が来ないんじゃないかって…… 程に長い夜を過ごした 榊原は白々と明るくなった外に目を向けた 「康太、夜が明けました……」 康太を抱き締めた榊原が言葉にした 夜明け…… 榊原はカーテンを開け窓を開けた 外の外気を肺一杯に吸い込んだ 康太を腕に抱き榊原は朝陽を見ていた 「康太、戦いの朝ですね」 「おう!闘いの朝だな! 悔いなんか遺さねぇ程にオレは生きた」 「ええ。僕も悔いなんか遺してません」 「伊織、支度をしてくれよ」 「ええ。支度をします」 「記者会見はお前も出ろ」 榊原は康太の顔を見た 「………本気で言ってますか?」 「おう!本気だ!」 榊原は康太を抱き締め……息を吐き出した 「解りました。出ます」 飛鳥井康太の伴侶として生きている 恥はしない…… 胸を張って…… 今日を生きている 榊原は姿勢を正すと康太の手を取った 「未来永劫 君だけを愛してます」 そう言い手の甲に口吻を落とした こんな恥ずかしくなる行為が似合う男……

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