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第58話 陰謀②

榊原は「この後は何処へ行く予定なんですか?」と問い掛けた 「父ちゃんや瑛兄の部屋に行くんだよ!」 と答えた その時、康太の胸ポケットが震えた 康太は携帯を取り出すと出た 「先日は本当に有難う御座いました」 と康太は挨拶をした 『お時間が在りましたら、お食事でもしませんか?』 戸浪海里からだった 「え?‥‥今日ですか?‥‥‥」 康太は言葉を濁した 「若旦那……」 『何かあったのですか?』 戸浪が心配して声を掛ける 康太は……頭にこんな包帯を巻いて……戸浪に逢いたくはなかった…… 「若旦那……また今度に……」 『………康太、私からの誘いは断りませんでしたよね? なら何故?私は何かしましたか?』 戸浪は食い付いて来た 困った顔の康太から携帯を取り上げると榊原が出た 「若旦那、お電話変わりました」 『伊織、私は康太に嫌われたのでしょうか?』 心配そうな声に…榊原は総て話す事にした 人気のない場所に移り 「若旦那、康太は今怪我をしているのです」 と伝えた 『………怪我?』 結婚式の日 康太は世界で一番幸せそうに笑っていた なのに………怪我をしたと言うのか? 何があったんだ? 戸浪は『総て話して貰えませんか?』と榊原に頼んだ 「康太は殺されかけたのです……」 と、神野の車が大破した経緯を話した 戸浪は絶句した 『…………今夜……伺っても宜しいですか?』 「飛鳥井は狙われてます 近寄らない方が賢明だと思います」 『今夜伺います! 仕事が手に着かない……では』 戸浪は電話を切った 榊原は、ため息を着いた 食堂に戻ると康太の胸ポケットに携帯を戻した 「今夜おみえになるみたいですよ?」 「………来るなとは言えねぇかんな… さてと清四郎さん行くとしますか! 伊織、職場に戻れ」 「解りました! 帰りは僕の所に寄って下さいね!」 「寄るに決まってる 清四郎さん達に伊織の仕事ぶりを見せてぇかんな!」 「では、誰よりも男前に仕事をして見せます!」 榊原はそう言い副社長室に戻った 康太が立ち上がると 「真贋!お食事は終わったのですか?」 と声がかかる 「おう!此処の食堂は美味しいとアピールしてたんだよ!」 康太はそう言い片手を上げた 「真贋!午後も頑張ります!」 「おう!気張ってくれ!またな!」 食堂を後にして康太は非常階段の扉を開けて階段を上り始めた そして役員の部屋のある階に出ると、非常扉を開けて室内に戻った 会長室のドアをノックすると清隆が姿を現した 飛鳥井の家で見る穏やかな風貌ではなかった スーツに身を包み、戦士然とした姿に清四郎は言葉を失った 「康太、どうしました?」 清隆は康太達を会長室に招き入れた 康太はソファーに座ると 「清四郎さん達に会社を案内してたんだよ 清四郎さん達は飛鳥井の家は知ってるけど会社は知らねぇかんな!」 清隆は清四郎達をソファーに座らせ秘書にお茶を運ばせた 「この後、瑛兄の所に行って、伊織の仕事ぶりを見せるんだ!」 康太はニコッと笑って言った 清隆は「アレを見せるのですか……」と零した 容赦のない社長に副社長…… 飛鳥井の鬼……見せるのは忍びなかった… 「働いてる所を見せときてぇんだよ!」 康太はそう言った 清隆の所で出されたお茶を飲み終えると康太は立ち上がった 社長室のドアをノックすると佐伯がドアを開けた 社長室の中の瑛太は静かに怒っていた 「納期を遅らせるなら寝なくて良いです 貴方達は己の仕事に責任を感じていないのですか? 感じているならば泣き言はお止めなさい!」 と容赦のない声で告げる 「副社長を現場に差し向けます!」 瑛太が告げると 『……え!それは……』と焦った声がした 「私が出向きますか? 副社長が出向きますか? どちらを選ぶますか?」 どちらも………嫌だろう 何てったって……鬼だから…… 『………ふっ……副社長で……』 「では副社長が行くまで待ってなさい!」 瑛太はそう言い電話を切った そして笑顔で康太に向き直る 「康太、寝ていなくて大丈夫なのですか?」 膝の上に乗せて甘やかす その顔は何時もの瑛太だった 「佐伯、伊織の所に電話入れる様に言っておきなさい!」 「承知しました」 佐伯は秘書として毅然とした顔をしていた 「瑛兄、清四郎さん達を案内してんだよ」 「そうですか! 今は忙しいので構えなくて済みません」 「構いませんよ」 清四郎は瑛太に気にしなくて良いと言った 瑛太の部屋を後にすると榊原の部屋のドアをノックした すると榊原は誰かと電話しながらドアを開けた 「納期に遅れれば違約金を払わねばならない! 自覚があれば避けれた仕事なのではないですか?」 榊原は容赦のない言葉を繰り出す 「これより、そちらに向かいます!」 榊原はそう言い電話を切った 「僕は出掛けねばならなくなりました!」 残念そうに言った 「大丈夫だ伊織! オレ等は着いて行く!」 康太はニカッと笑った 「……行きますか?一緒に?」 「おう!オレが行った方が効果あると想う!」 飛鳥井康太のもたらす効果は絶大だった 「ならば行きますか!」 榊原は康太を促した 副社長室のドアを開け 「父さん達もどうぞ!」 と声を掛けた 地下駐車場まで下りて行き、榊原のベンツに乗り込む 後部座席に清四郎と真矢と笙が乗り込んだ 清四郎は榊原が車を変えたのを知らなかった 「伊織、何時ベンツに変えたのですか?」 「最近です。妻が買ってくれたのです!」 と榊原は嬉しそうに答えた 「………康太が?」 「ええ。康太が僕の為だけに買ってくれました 僕はアウディでも良かったのですが、康太は自分で選んだのに乗せたかったみたいです」 「康太が選んだの?」 「そうです。 一緒にショールームに出向き色と形を決めて買いました」 「愛されてますね伊織は」 清四郎は嬉しそうに笑った 真矢も「康太の愛ですね」と呟いた 康太は 「イオリーブラウンが連覇を飾った時に伊織にプレゼントしました アウディでも良かったが、オレは伊織をベンツに乗せたかった 伊織はセダンが良いというかんな! ショールームまで見に行って決めたんです」 と嬉しそうに笑った 榊原の車は現場の前に停めた 車から降りると、榊原は現場にスタスタ歩いて行った 康太は清四郎達とその後ろを目立たない様に着いて行った 榊原は監督を呼び出し、説明を受けていた その顔は険しく甘さはない 誰よりも威厳を持って接していた どんな事を言われようとも揺るぎない自信が榊原をブレさせない 「何故!この様な遅延を生じる事態になったのか言いなさい!」 榊原の声が響き渡る その姿は……康太を膝の上に乗せている榊原ではなかった 企業に生きる男の顔をしていた 「下請け業者が……飛鳥井の仕事は受けなくなったのです……」 監督は人材不足は否めない現状を伝えた 「横槍が入ったか……どうしたものかな?」 康太は独り言ちた 多分京極からの横槍 飛鳥井の受けに着くなら援助はしない! そんな脅しに屈指たモノ達が現場から離れた 康太は宮瀬建設に電話を入れた 「ご無沙汰しております 飛鳥井康太です」 電話に出たのは宮瀨那智だった 『康太さん!本当に康太さんですか?』 那智は当然の康太の電話に嬉しそうだった 「そうだ?オレしかいねぇだろ?」 『…………失礼。御用件は何でしょうか?』 「下請けを貸してくれませんか?」 『………下請け……ですか?』 「ええ。横槍が入って……飛鳥井は下請けから総スッカン食らわせられてます……」 『やはりあの噂は本当なのですか?』 「噂?……それはオレは知りません」 『飛鳥井建設の下請けを受けるな……と下請け業者が脅されている……と。 なんでも飛鳥井建設は真贋も亡くなった…… 下請けを続ける方が損失が出る……とも噂になってます 私も連絡を取ろうと思ってた所です!』 「………飛鳥井家真贋を亡き者にしようと……昨日も殺され掛けました……」 『……!!大丈夫なのですか!』 「あぁ。オレは大丈夫だ! それより下請け業者を貸し出してくれねぇか?」 『良いです!貸し出します! 今日から行かせますか?』 「頼めるか?」 『貴方の頼みなら、どんな事を差し置いても聞きます 近いうちに……元気な顔を見せて下さい…』 「おう!近いうちに時間を作って礼に伺います!」 『ではランチでもしましょう! お待ちしてます! 下請け業者はどの現場に出せば良いか地図を送って下さい』 「………世話を掛けるな……」 『私達が困難に落ちたら助けて下さいね! 持ちつ持たれつ、助け合う所は助け合って行きましょう! それが明日の日本の経済の活性化になります!』 「なら地図を送るな」 康太はそう言い電話を切った 現場監督の所に行くと 「宮瀬建設から下請け業者を回して貰う それで乗り切ってくれねぇか?」 「……真贋……」 「………妨害工作の余波が下請け業者にまで出てるとなると、余裕はかましてられねぇな!」 榊原は康太を見た 「京極からの横槍の余波が来てんだよ」 「そうですか。手を打たないとダメですね」 康太は力哉に電話を入れた 「力哉、宮瀨那智に唐沢の現場の地図をFAXで送っといてくれ!」 『解りました!直ぐに送ります!』 力哉は康太からの連絡を受け直ぐに動き出した 「伊織、オレは会社に帰る!」 「送って行きます」 「生易しい事をやってる暇じゃねぇ! 反撃に出る!息の根を止めてやる! 伊織、オレは今夜大阪に飛ぶ」 「解りました。僕もご一緒します!」 榊原は康太を助手席に乗せると、後部座席に清四郎達を乗せた 康太は胸ポケットから電話を取り出した 「正義、オレは今夜大阪の地に降り立つ!」 『来るか坊主! 待っててやる! 動ける駒を用意しておいてやろう!』 「急で悪かったな」 『来ると想っていた お前が死んだ噂が流れている 記者会見の席でも用意しておこうか?』 「あぁ!記者会見を開く! 完全に息の根を止めてやる! 甘い事なんてやってる時間はねぇかんな!」 『逢わせたい駒が飛鳥井建設とお知り合いになりたがっていた 使える奴だ!今夜逢わせてやる!』 「ありがとう正義」 『京極は俺も目の上のタンコブなんだよ 潰してくれるなら、そんな嬉しい事はねぇな! 結婚祝いだ坊主!そう言ったろ?』 康太は電話を切ると、携帯を握り締めた! クソッ! 許しておくものか! 康太は燃えていた 怒りでメラメラ燃えていた 飛鳥井建設に戻り社長室のドアを叩くと 康太は部屋の中に何も言わず入った ソファーに座り足を組むと康太は瑛太を見た 「瑛太は飛鳥井康太が死んだ……との噂は耳に入ってるか?」 瑛太は驚愕の瞳で康太を見た 「誰が!その様な噂を?……」 「オレを殺そうとした奴だろ?」 「動かれますか?」 「おう!オレはこれより大阪の地に降り立つ! 向こうで記者会見を開く! 堂嶋正義の全面協力を得てオレはトドメを刺しに行く! でねぇと現場にも影響が出始めてる 続けば明日の飛鳥井は青息吐息となる」 「手配を致します!」 瑛太は康太に深々と頭を下げた 「週末には我等も大阪に行きます!」 「それまでには片付けておかねぇとな!」 瑛太は姿勢を正すと佐伯に 「大阪までのチケットを!」 と命令した 「瑛兄、チケットはオレ一枚だ!」 「……伊織は?」 「置いて行く!」 「………納得はしませんよ?」 「………そこなんだよな?」 康太は困った顔をした 榊原は康太を膝の上に乗せて 「義兄さん、僕の分も取って下さい!」 と告げた 瑛太は「でしよ?」と言い佐伯にチケットを2枚取らせた 「伊織、家に帰り荷物をまとてくれ!」 「解りました!義兄さん後でチケットを取りに来ます」 榊原は康太を立たせると、自分も立ち上がった 康太は清四郎達に詫びを入れた 「会社の存続に関わるのでオレ等は大阪に降り立ちます 笙、結婚式には出られそうもない……すまねぇ」 「康太!気にしなくて良いです! 康太が落ち着くまで式は延期します 明日、断りに行きます!」 「清四郎さん真矢さん、済みません」 「気にしなくて良い……」 清四郎は康太を抱き締めた 真矢も康太を抱き締め 「予定通り大阪には行きます…」 「ええ。それまでに片付けられる様に頑張ります!」 康太は断ち切る様に……背を向けた そして榊原と共に……社長室を後にした 榊原と康太は飛鳥井の家に帰り荷造りをした コロコロと引っ張れるスーツケースを出して荷物を詰め込んだ 康太にスーツを入れたボストンバッグを持たせて 支度をすると榊原は戸浪に電話を入れた 「若旦那、今夜の約束はキャンセルさせて戴けませんか?」 『…伊織?何がありました?』 「飛鳥井のピンチです! このまま妨害が続くなら飛鳥井建設は相当なダメージを受けます そうならない為に大阪に行かねばなりません! 今夜は飛鳥井に来られも……不在です 一生達は今入院してます……飛鳥井は応答出来る存在は今おりません」 『一生が入院ですか?』 「ええ。胃潰瘍です 神野と小鳥遊も今入院してます 康太と共に車に乗っていたのです…」 『………一度話がしたいのですが…… 無理そうですね……』 「若旦那、本当にすみません…」 『解りました!何かあったら言って下さい…』 戸浪と電話を切ると、榊原は康太を促して部屋を出た 社長室まで向かいチケットを貰い受けると部屋を出た 社長室にはもう清四郎達はいなかった 悪い事をした思いに囚われる それを振り切る様に…… 榊原はタクシーを呼んだ タクシーで新横浜まで向かい新大阪まで出向く事にした タクシーに乗り込み、新横浜までと告げるとタクシーは目的地へ向けて走り出した 新横浜の正面玄関入り口でタクシーが停まると榊原は料金を支払らいタクシーから下りた 新幹線の乗車券の番号を見ながら席を探す 席を見付けると康太を座らせ榊原は荷物を荷台に乗せて座った 康太は目を瞑っていた

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