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第57話 陰謀 ①
「晟雅、下まで迎えに来い!」
康太は神野に電話を入れた
『解りました!下に着いたら電話を入れます』
神野が電話を切ると榊原がキッチンにやって来た
「康太、お腹一杯食べましたか?」
「おう!食べた」
「さっきは拗ねた顔してたから…
ご機嫌は直りましたか?」
「………伊織……服が擦れる…」
「舐めてあげましょうか?」
康太は真っ赤な顔をした
「伊織、食え!」
「君をですか?」
榊原は笑う
「違っ……飯だよ!」
榊原は食事を始めた
「一生は?どうしたよ?」
「慎一と聡一郎が付き添って病院に連れて行きました」
「二人ががりかよ?」
「……ええ。一生は嫌だと暴れてましたからね…」
食事を終えると榊原は康太にキスして会社へと向かった
康太は電話が鳴り…下へと降りて行った
神野の車はマンション入り口に付けられていた
康太は神野の車の後部座席に乗り込んだ
「晟雅、見積もり持ってきてくれた?」
康太が言うと小鳥遊が書類を渡した
康太はそれに目を通した
「康太、今日は最近出来たお店に連れて行きます」
「静な場所が良いぞ」
「鎌倉沿いにある店です!
とても静かです!」
神野はそう言うと車を走らせた
鎌倉に向けて車を走らせる
車を走らせて暫くすると神野がルームミラーを気にしだした
「どうした?」
康太が問い掛けると
「飛鳥井の家を出た辺りから付けて来てる車がいます」
と神野が答えた
「……え?……付けられてるのか?」
康太は唖然とした顔した
真贋は自分の事が見えない……
まさか……仕掛ける前に……
仕掛けて来れるとは……
康太は唇を噛みしめた
神野がアクセルを踏み込むと…
後ろの車も追うようにアクセルを踏み込んだ
執拗に何処までも追って来る!
神野は脇道に入ろうか思案する
だが猶予はない
車の交通量が減ってくると向こうが仕掛けてきた
車を体当たりしてぶつけて来る
神野は何とか切り抜け逃げ続けた
執拗にぶつけられて来る車にガードレールに寄せ付けられ……
ハンドルの操縦を失った
後は……スピードを上げた車が……
ガードレールを突き破るしかなかった
神野はハンドルを握り締めた
歯を食い縛り……何とか絶えようとしたが……
車は……ガードレールを突き破り……
炎上した
事故を目撃していた人間から警察に事故通報が入り
警察は現場に到着した
燃え盛る炎の勢いに消防車が駆け付け消火活動をする
警察は燃え盛る炎を見て……
「生存は……望めないな… 」
と判断した
それを通りがかりを装って確認に来ていた人間が耳にして、仕事の完遂を告げる為に、電話を入れた
「生存は不可能だそうです」
『ご苦労様
もう電話は掛けて来ないで
事故を誘発したのは貴方達
私は無関係な存在だと忘れないでね』
電話の向こうの女は冷徹に言い放ち…嗤った
いい気味
私に恥をかかした罰よ
苦しめば良いのよ……!
完全なる勝利を手中に収め…嗤った
だが事故のニュースは……何時まで待っても流れなかった
何故?
あの邪魔者はいなくなった筈なのに……
まぁ、毎日事故がある日常で、あの事故だけ特別に扱われる訳ないか……
と気持ちを切り替えた
潰させるか……
潰されるなら……
殺してしまえば良いのよ……
京極瑠璃子はワインを掲げて、美酒に酔いしれた
神野の事故は、事故直後に捜査の規制が掛かった
警察庁の方から直属の人間が出向き処理に当たった
地元の警察は、事故の処理に当たらせなかった
地元の警察官は……生きてはいまいと想っていた
それ程の事故だった
報道規制も引かれた
神野晟雅の事故はニュースでは取り扱わない
との通達がかなり上の方から流れた
車がガードレールを突き破った瞬間
康太はドアを開け
「飛べ!!」と叫んだ
康太が叫ぶと、神野も小鳥遊もドアを開けて飛んだ
瞬間、目の前で車が炎上した
康太と神野達は、道路から見えない様に壁に張り付き隠れた
明らかに神野と小鳥遊は傷を負っていた
言葉もなく踞る二人を見て康太は焦っていた
何とかしなければ‥‥
だが榊原を呼べば‥‥犯人の思惑通りになる
だから報道規制を掛けられる程力を持つ人間を瞬時に浮かべて電話を入れた
「勝也!助けてくれ!殺されるっ」
康太は安曇に電話を入れた
悲鳴にもにた声に安曇は
『康太!今何処にいるのですか?』と叫んでいた
「鎌倉街道を走った先…
車を無理矢理寄せて来てガードレールを突き破った
アイツ等に見付かったら……殺される……」
『解りました!警察を動かします
地元の警察には介入させず君達を保護させます』
「ニュースに流されたら……」
『大丈夫です
報道規制を引かせます!
今行くので待ってなさい』
安曇は電話を切ると敏速に動いた
側にいた堂嶋正義を使い報道規制を引かさせた
堂嶋正義はその手腕を発揮して警察を動かし、報道規制を掛けた
そして康太の事を想うならば一番傍にいて欲しいであろう存在を思い浮かべ、榊原伊織に電話を入れた
『堂嶋正義だ!
康太を迎えに来い
坊主が一番逢いたいのはお前だ!』
「何処に行けば逢えますか?」
『取り敢えず誰にも気付かせずに会社を出て
鎌倉まで出て来い!
多分大船総合病院にいる
怪我人がいるから検査して処置をしてもらねぇとならねぇからな?』
「解りました!
誰にも気付かれずに行きます!」
榊原は電話を切ると……会社から消えた
行き先も告げず……会社から消えた
康太と神野と小鳥遊は壁にへばりついて隠れていた
康太の額から血が流れていた
神野は車から飛んだ瞬間、爆風に煽られ足から壁に激突し、足を庇う様に倒れていた
小鳥遊は爆風に煽られまともに壁に激突し、腕と胸を押さえていた
3人とも砂と黒煙に真っ黒になっていた
運良く海岸に車が飛ばされたから砂浜に身を寄せれた
これが住宅街なら……家もろとも炎上だ
弥勒が……場所を選んで飛ばしたのだろう…
康太は天を仰ぐと
「弥勒…助かった…」
と呟いた
『康太…無事で良かった…』
弥勒は泣いていた
暫くすると警察が駆け付けて来た
「飛鳥井康太さんですか?」
警察は康太に名を訪ねた
「そうだ…」
「安曇勝也氏から保護の依頼が出ております
今から秘密裏に保護したいと想います!」
警察官は幕を張ると、海岸まで乗り付けた車に康太達を乗せた
地元の警察官は寄せ付けず隠密に処理される
その手際は早かった
康太達は保護されて車に乗せられた
「大船総合病院が近いので、そちらに向かいます!」
警察官に言われ、康太は頷いた
胸ポケットを見る
警察の車の中では電話は出来なかった……
榊原に連絡を取りたい……
康太は両手を握り締めた
大船総合病院到着すると安曇と堂嶋が待ち構えていた
康太は安曇を見ると泣き出した
「…ごめん…勝也……迷惑を掛けた…」
服を血で染め…黒煙で顔を真っ黒にして…康太は詫びた
安曇は康太を抱き締めた
「康太の助けなら何としてでも応えます!」
安曇は、康太の背を撫でた
堂嶋正義は康太に問い掛けた
「坊主、狙われたか?」
康太は堂嶋を見て…悔しそうに唇を噛んだ
「………追い込んでたら…反撃に合った……」
堂嶋は康太の頭を撫でた
「ぼうず、詳しい事は後でだ」
今は暖かい腕が必要だろ?
おめぇが一番逢いたい奴を呼んでおいてやった」
康太は堂嶋の指差す方を見た
「……伊織……」
康太は榊原の胸に飛び込んだ
榊原は康太を強く抱き締めた
「……伊織……伊織……死ぬかと想った…」
康太は榊原に縋り着き泣いた
「……誰が僕の康太を…」
榊原は怒りに震えていた
「坊主、取り敢えず検査して怪我の手当を受けろ」
血塗れの康太の額からは……今も血が流れていた
榊原は康太を連れて病院の人間に案内され検査へ向かった
堂嶋正義は怒っていた
「叔父貴、康太は誰に狙われていたんだ?」
「詳しくは解らない……
仕掛けて動いてるのは知っていた」
「誰に聞けば解る?」
「伴侶だろ?」
「では、聞いてくる」
堂嶋正義は榊原を追って行った
榊原は康太の手を握り締めていた
堂嶋は榊原の肩に手を掛け
「少し話を聞かせろ!」と問い質した
「………はい。康太に付いていたのですが…」
榊原は立ち上がると廊下に出た
「何がお聞きしたいのですか?」
「康太は何故命を狙われた!」
「………11月の頭に……僕はお見合いをさせられました
それが…発端だと想います?」
「………お見合い?
お前は飛鳥井家真贋の伴侶だと公言してるのに?」
「ええ。騙し討ちみたいに席を設けられました
そこで無理矢理お見合いをさせられました」
「康太は知ってるのか?」
「……ええ。偶然、康太は道明寺さんと会食に来たので一部始終見てました」
「お見合い相手は?」
「…… 融和コーポレーション…京極瑠璃子さんです」
「成る程!京極か!
タチ悪い相手に魅入られたな」
「私と結婚しなさい!の一点張りでした…」
「康太は今追い込んでるのか?」
「ええ。株価の暴落を引き起こして弱らせてる最中です」
「なら、その前にトドメを刺しに来たな…」
「飛鳥井家真贋は自分の事は見えません……
康太は何も知らなかった筈だ……」
「飛鳥井康太が大阪に現れる!」
堂嶋は榊原に言った
榊原は「……え?」と訝しんだ
「誠しやかに噂が流れてた
俺は本当に大阪に来る気かと今日にでも連絡を取るつもりだった
今日、坊主は三木と逢うだろ?
その時にでも聞こうと想っていた」
「新婚旅行に行く予定でした
昨日、康太と挙式を挙げました……」
「らしいな。三木が言ってた奴だな
俺も参列したかったがな、予定が入ってた
週末は新婚旅行か?」
「ええ。康太は僕を誰にも渡す気はないと喧嘩を売る気でした」
「解った!結婚祝いに全面協力してやる!」
「………え?……」
「伊織、坊主を守れ!」
「ええ。この命に変えても康太を守ります!」
榊原は堂嶋に総てを話した
康太が検査から出て来ると走って康太を抱き締めた
康太は頭の手当もされていた
康太は榊原を見ると
「神野は?小鳥遊は?」と問い掛けた
そう言えば見当たらない
堂嶋に問い掛けると、安曇に聞きに行った
「叔父貴、神野晟雅とその連れは?」
「………入院せねばならぬ…と言われました
困りました…家族とか呼びに行こうにも知りません」
安曇は困っていた
入院と聞き康太は
「弥勒はオレを飛ばすのに手一杯だった
あの2人はまともに投げ出され…ガードレール下のコンクリートに激突してたからな」
と言葉を濁した
榊原は「此処で入院は困りますね」と呟いた
安曇は「親族を呼べと言われてます」と榊原に伝えた
「神野も小鳥遊も両親も身内もいません
困りましたね…世話を焼くにも此処だと遠すぎる」
「………天涯孤独なんですか?」
安曇は聞いた
「彼等の身内は死に絶えてるんです
康太が神野の総てです
………転院出来ないか聞いてきます
あ!でも生きてたら不味いでしょうか?」
榊原が言うと、堂嶋は
「報道規制を引いた!
事故は表には出ていない…」
と榊原に告げた
「康太、神野と小鳥遊は入院する程の負傷を負っています
どうしますか?
それより君は大丈夫なの?」
「……オレは久遠に縫って貰うから良い…」
応急処置だけして来たと言う
「なら神野と小鳥遊も久遠先生に見せますか?」
「だな。」
「………連れて帰るのは不味いでしょうか?」
榊原は安曇に問い掛けた
すると堂嶋が「交渉して来てやる」と言いナースステーションへ向かった
榊原は真っ黒な康太の顔を拭いた
血糊と煙硝で煤けた康太の顔を優しく拭いた
暫く待ってると堂嶋が神野と小鳥遊を車イスに乗せて連れて来た
「紹介状を貰ってきた
これで向こうの病院に行けるぞ!」
堂嶋は、紹介状を榊原に渡した
「堂嶋さん、勝也さん
康太を護って下さって本当にありがとうございました!」
榊原は2人に深々と頭を下げた
「……横浜の病院に行くんだね?」
安曇は榊原に問い掛けた
「はい。総合病院へ行きます」
「もう大丈夫?」
「ええ。本当にありがとうございました
康太と神野と小鳥遊を連れて病院に行きたいと想います」
「康太、また逢って下さいね」
安曇はそう言い康太を抱き締めた
「……勝也……本当にありがとう
急だったのに……本当に助かった」
「康太、君の助けなら、何を差し置いてもする
今回、君の役に立てて本当に嬉しかったよ」
「……ありがとう…」
康太は涙ぐみお礼を言った
堂嶋も康太を抱き締めた
「大阪に来るなら連絡をくれ!」
「………正義……ありがとう…」
堂嶋は、康太を抱き締め頭を撫でた
「坊主、怪我を早く治せ!」
康太は頷いた
安曇と堂嶋と別れると、榊原は康太を抱き寄せた
そして神野と小鳥遊を迎えに行き、駐車場まで向かい車に乗せた
「神野、我慢できますか?」
榊原は神野に問い掛けた
「大丈夫だ!
伊織…康太に怪我させて…済まなかった…」
「神野は巻き込まれただけです
気になさらなくて良いです!」
小鳥遊は胸を押さえていた
「小鳥遊、あと少し我慢できますか?」
「……大丈夫です
康太の怪我は?」
小鳥遊は自分の事より康太の怪我を気にした
「縫わないと……血が滲んでます…」
「僕達がいたのに……ごめん伊織……」
「小鳥遊…無理して喋らなくても良いです…」
榊原は車を走らせた
途中で久遠医師に連絡を入れた
久遠は『良く怪我する坊主だ!早く連れて来い!』と怒鳴った
総合病院の駐車場へと車を停めると、3人を連れて榊原は病院へと入って行った
久遠医師は榊原を待ち構えていた
足を引き摺る神野と、胸を押さえる小鳥遊をストレッチの上に寝かせた
榊原は転院の紹介状を久遠医師に渡した
「あの2人は検査してからだ
その間に額を縫ってやる
それから一応検査しろ!良いな!」
久遠に言われて康太は頷いた
処置室に連れて行かれ、ガラスが入ってないか検査され縫われた
康太は榊原の腕を握り締めていた
「紹介状を見ると、走ってる車から飛び降りたって?
爆発炎上…肺とか見とくか?
煤を吸ったんだろ?」
康太はコクコク頷いた
「車から飛び降りて、この傷か…
あの2人よりは軽いな」
「弥勒が飛ばしてくれたんだ
その後に爆発があって、ガラスが飛んできた
オレは無傷で車から飛ばされたんだ
その後に爆発があったかんな…怪我したんだ」
弥勒高徳
その悪名高き名を康太は口にした
あまり関わりを持ちたい相手ではない
「ほら縫えた!
風呂は禁止な!シャワーなら軽くな
あ!そうそう、おめぇの番犬、叔父貴の病院で吠えてたぞ」
久遠は楽しそうに言った
「………一生か、どうでした?」
「ポリープ出来てた
後、胃潰瘍だ。入院してると想うぞ!」
「……抜け出しそうだな……」
「……多分な、おめぇの番犬だからな!」
久遠は豪快に笑った
「あの2人の処置をして来る!」
そう言い久遠は出て行った
待合室で待ってると看護婦が康太の検査をすると言いに来た
榊原は検査にも離れずついて行った
神野と小鳥遊は入院になった
神野は足を骨折した
小鳥遊は腕を骨折し、胸を打ち付けたせいで肺水腫になった
検査を終えた康太は瑛太に電話した
「瑛兄?」
『康太!伊織がいません!
後三木が君が捕まらないと慌ててます』
「伊織はオレといる」
『………え?』
「正義が呼び出してくれたんだ」
『………康太、何があったのですか?』
「殺され掛けた……」
『……え?大丈夫なのですか!
どの病院ですか?直ぐに行きます!』
「瑛兄、オレは大丈夫だ
弥勒が護ってくれた……だけど神野と小鳥遊が…
入院になった」
『………!康太、顔を見せて下さい……』
「飛鳥井の家を張られてたら…困る
瑛兄、今は動くのは不味い…」
『………康太……嫌です……』
瑛太は泣き出した……
「瑛兄、慎一はいるか?」
『解りません、私は今会社です』
「瑛兄、一人で逢いに来ると危ないんだよ」
『なら慎一か誰かを捕まえます
何処にいますか?』
「久遠医師の病院だ」
『今行きます!』
瑛太はそう言うと電話を切った
康太は怠そうに榊原に凭れ掛かった
「大丈夫ですか?」
「出血すると怠いんだよ…」
「……康太!本当に生きていてくれて良かったです!」
榊原はそう言い康太を抱き締めた
「……伊織……ゃ……」
「康太?」
「オレに触るな……」
「……何でですか?」
康太は真っ赤な顔をした
「……乳首が……服に擦れるんだよ!」
昨夜散々責めた乳首が……擦れるとヤバい
「……康太…少しなら大丈夫?」
「……あぁ…大丈夫だ…」
「康太、愛してます
君が死んだら僕も逝きます」
「伊織……伊織……」
康太は榊原に縋り着いた
無くしたくないのは……同じだった
暫くすると瑛太が駆け付けて来た
胃潰瘍で入院中の一生も引き連れて……
「………伊織……」
「……言いたい事は解ってます!」
「……胃潰瘍だよな?」
「ええ。入院中の筈です」
「………あれは?」
「………一生ですね!」
瑛太は康太を見つけると……抱き締めた
「……瑛兄……あんで入院中の一生がいんだよ!」
「………飛鳥井に帰ったらいました」
「全員で来たら、バレるじゃねぇか!
あんの為に報道規制引いたのか、意味が無くなる」
「大丈夫です!
安曇さんが飛鳥井の家をパトロール強化してくれました
此処までは警察に護衛されて来ました」
「瑛兄、神野と小鳥遊は入院だ
重症だ…二人は身内はいねぇ…」
「そうでしたね!
なら一生が入院して介護すれば良いです
一石二鳥ですね!」
瑛太はサラッと言った
一生は言葉を失った
「……あ!三木……電話しねぇとな…」
康太はそう言い三木に電話を入れた
「繁雄?」
『康太!君何処にいるのですか!
何故伊織も捕まらない?
何がありました?』
三木は心配していた
康太が捕まらなければ榊原に電話をすれば繋がっていた
その榊原に電話が通じなかった……
「……繁雄、オレは殺され掛けた…」
『……な!!怪我は?何処にいるのですか?』
「オレは弥勒が飛ばしてくれたから軽傷だ
神野と小鳥遊が、入院しねぇとダメだった」
『どの病院ですか?』
「……狙われてるんだ…」
『大丈夫です!』
何処から来るんだ……その自信は……
「総合病院だ。ヒッソリと来いよ」
『ええ。タクシーで行きます』
康太は電話を切るとため息をついた
「オレの話は聞きゃしねぇし……」
「心配なんですよ…」
康太は怒って一生に向き直った
「一生!てめぇ!勝手な事をするなら知らねぇかんな!」
康太は怒った
「……康太、こんな怪我しやがって……」
「オレに触るな」
「あんでだよ!」
「砂と黒煙でオレは汚い…」
よく見れば康太の顔は拭いたけど黒かった
服や首には血糊が乾いていた
一生は康太を抱き締めた
「……きゃっ……」
康太の声は裏返った
榊原は慌てて康太を奪い返した
「今日の康太に触るのは禁止です」
「あんでだよ!」
一生は怒った
榊原は一生の耳元でヒソヒソ、ゴニョゴニョ話した
一生は顔を赤らめた……
「……旦那……」
「……何も言わないで下さい…」
「……濃いわ……」
「自覚はあります」
一生は肩を竦めた
「君、胃潰瘍なんですって?
ストレスとは無縁な君が?
何を悩んでますか?」
榊原は一生の頬に手を当てた
「………心配するな…旦那…」
榊原は一生の頭を殴った
「なら康太の心配をしてはいけませんよ」
「……え?……
……それは無理だ!」
一生は噛み付いた
「なら僕達も無理でしょ?
一生が心配なんですからね!」
「………旦那……悪かった…」
「胃潰瘍の原因は?」
「俺、高熱出しただろ?
解熱鎮痛薬が原因の「NSAIDs潰瘍」だって
解熱鎮痛薬の副作用で胃粘膜に異常が起こったり
胃酸が胃壁を荒らして潰瘍を生じるものなんだって
最近食べた後吐き気に襲われてた……」
「そう言う時は言いなさい
早期なら入院になる前になんとかなるでしょ?」
「………解った…」
「君は入院してなさい
神野と小鳥遊を見張ってなさい」
「解った…」
一生は諦めた
久遠医師が神野と小鳥遊の処置をして入院させると一生の所に来た
「おい!坊主!
お前入院させられてたよな?」
一生の首根っこを摘まみ上げ久遠は言う
榊原はニッコリ笑って
「神野達は個室ですか?」と問い掛けた
「本人が個室を所望だ」
「なら一生もそこに突っ込んでおいて下さい」
「それ良いな……と言いたいが病室にはもうベッド入れるスペースねぇぞ」
「なら小さな個室に入れといて下さい」
「解った!その代わり脱走しようもんなら二度と診ねぇからな!
俺は命を粗末にする奴が大嫌いなんだ!」
「一生も解ってます!
自分の体躯がここぞと言う時に動けなくて困るんですから!」
「潰瘍の状態は酷くはねぇ!
2、3日入院して確実に直せ!良いな!」
久遠に言われ一生は頷いた
「なら処置して入院だ」
久遠は一生を引っ張って行った
神野と小鳥遊、そして一生を入院させた
一生には聡一郎が付き添った
神野と小鳥遊には慎一が付き添った
康太と榊原と瑛太は一旦飛鳥井の家に帰って行った
地下駐車場へと車を停めて家に帰るまで、瑛太と榊原は康太を護った
そして飛鳥井の家に帰って来ると……
家族が出迎えた
榊原が何も告げずに消える事は、康太に何かあったから……
榊原の両親も来ていた
ガチャッと言う玄関を開ける音に家族は飛び出した
「……康太……」
清四郎は康太の名を呼んだ
康太は榊原と瑛太が隠していた
その隙間から康太が顔を出すと、家族は唖然となった
………康太の服は血で染まり、額には包帯が巻かれていた
「……康太……何があったのですか?」
真矢が叫んだ
瑛太が応接室のドアを開けると、榊原が康太を抱き上げ応接室へと入って行った
応接室には悲愴な顔をした源右衛門が座っていた
榊原は康太を膝の上に乗せて座ると
「康太は殺され掛かったのです」
と告げた
家族は言葉を失った
「僕は堂嶋さんから連絡を貰い……会社から消えました
康太は弥勒が護って軽傷ですみました
神野と小鳥遊が……かなり重くて入院となりました」
清四郎は「……何故康太は狙われたの?」と問い掛けた
「………僕がお見合いをしたのが発端です
康太は……相手を追い込んでます……
僕を奪う奴は許さない……と報復の最中でした…」
榊原伊織を誰にも渡す気は無いから……
絶対のモノに仕上げる為に、康太は報復をする事を選んだ
「…………僕は康太だけのモノです!」
榊原はそう言い康太を抱き締めた
康太は口を開いた
「御心配掛けました
弥勒はオレを無傷で飛ばしてくれた
だけど爆発炎上した車のガラスがオレの額を切った
それがなくばオレは無傷でした
爆発炎上する車の中から神野と小鳥遊を吹き飛ばしオレを護った
神野と小鳥遊は爆風に煽られ壁に叩き付けられ骨折しました
当分は入院です」
「………額を縫ったの?」
清四郎は康太に問い掛けた
「ええ。」
その時榊原の携帯が胸ポケットで鳴り響いた
電話に出ると三木だった
『伊織!病院に行ったら帰った後だなんて酷すぎませんか?』
電話に出るなり叫んでいた
「三木……すみません
今何処ですか?」
『飛鳥井のマンションの下!』
「では迎えに行きます」
榊原は電話を切って三木を迎えに行こうとした
すると瑛太が立ち上がった
「伊織は康太を抱き締めてやってて下さい」
と言い三木を迎えに行った
「伊織、オレの顔、汚かった…」
「………拭いたんですけどね…」
黒煙は油が交じっていて……拭くだけでは落ちなかった
「寝る前に軽く洗ってあげます」
康太は頷いた
「伊織には綺麗なオレを触って欲しい…」
汚れた自分じゃキスは出来ない
「どんな君でも僕は大丈夫です」
榊原はそう言い康太に口吻した
康太は榊原の腕の中で幸せそうに笑った
そこに三木がやって来た
康太を見るなり……ソファーの前に崩れ落ちた
康太の足に顔を埋めた
康太の指が三木の頭を撫でた
「………康太……」
「繁雄、心配かけた……」
「……君をこんな目に遭わせたのは誰ですか?」
三木は怒りに震えていた
「繁雄、仇は取る
ただで済ますかよ!
神野と小鳥遊が入院した」
「………君は神野と小鳥遊といたの?」
「そうだ。CMの詳細を詰める予定だった
その後におめぇと逢う予定だった
家を出てから付けられてたみてぇだ
鎌倉に入ったら仕掛けられて……カーチェイスを繰り広げ……ガードレールを突き破って、車は爆発炎上した」
「………卑劣極まわりない輩ですね!」
「そのうち見付かるだろ?」
「犯人は君を狙ったのですか?」
「だろ?神野と小鳥遊が命を狙われる様な奴に見えるか?」
「………ですね!
確実に君を亡き者にしようと暗躍した!」
「…三木、今夜は泊まって行け
オレは疲れた…眠い…
伊織に綺麗に洗って貰ったら寝る」
「お邪魔でないなら……」
「………三木、心配掛けて悪かった……
清四郎さん、真矢さん心配かけました
母ちゃん、父ちゃん、じぃちゃん、話は明日で良いかな?
出来るなら三木に何か食わしてやってくれ」
康太が言うと瑛太が
「康太は?何か食べませんか?」
「………食ってる最中に寝るかもな…」
「良いです。食べなさい」
瑛太はそう言うとデリバリーを注文し始めた
デリバリーが届くと榊原は康太が食べれる様に支度をした
悠太が顔を出して康太に玉露を入れて持って来た
康太は疲れたのか、あまり食べなかった
食事を終え玉露を飲むと、応接室を後にした
榊原は康太を寝室に連れて行った
寝室のドアを開け、康太を下ろす
榊原は康太の包帯に触れた
「外しますよ?」
「……伊織…ごめん…」
「………何で謝るんですか?
君は視えてなかったんでしょ?」
「……鎌倉に差し掛かる頃、神野が飛鳥井から着けて来る車があると言った……オレは何も視えてなかった」
「なら謝らなくて良いです
君はちゃんと約束を守ってくれてます
何処か行くなら連絡をくれてる
今回は不意打ちです……君は何も悪くなんかない」
康太は榊原に縋り着いた
榊原は康太を抱き締めた
そっと、体躯を離し、額の包帯を取る
「シャワーなら大丈夫?」
「ん。シャワーなら良いって言ってた」
「…じゃぁ軽く洗います」
榊原は康太を安心させる為に優しく抱き締めた
「血の臭いは……好きじゃねぇ…
こんなに汚れてたら…伊織に触っても貰えねぇ」
「僕はどんな君でも触りますよ」
榊原は康太の服に手を掛けた
ボタンを外して脱がしてゆく
Yシャツをはだけると……
紅く勃ち上がった乳首があった
そっと触れると康太は身を震わせた
「ずっと立ってたの?」
尖った乳首に触れると……
「……ゃ……伊織……ダメぇ……ぁん…」
ガクッと康太の膝が崩れた
素早く康太を抱き抱え、ベッドに座らせた
「ごめんね…」
「今日は一日中辛かった……
服が擦れると声が出そうになった…」
「体躯を洗います
そしたら寝ましょう」
榊原は康太の服を脱がすと、自分の服も脱ぎ浴室に向かった
手早く康太を洗う
乳首に触れずに、洗って流す
そしてバスタオルで拭いた
「もう臭いませんか?」
「ん。大丈夫だ」
髪を乾かし、ベッドに滑り込む
榊原は康太を腕に抱き締め眠りに落ちた
康太も榊原に抱き締められ……眠りに落ちた
朝、目覚めると康太は榊原の腕の中で眠っていた
榊原の胸に顔を埋めて……眠っていた
榊原は愛しい康太を抱き締めた
愛してる
本当なら怪我などさせたくない
こんな事はまだあるだろう……
飛鳥井家真贋で在り続ける以上
こんな事は……まだある
榊原は神経質になりすぎて康太を追い詰めたくはなかった
だが、一緒にいれば……と言う想いも大きい
四六時中……いるのは無理だった
生きて行く上で……康太を監禁しない限り
有り得ない話だった
康太は榊原が閉じ込めれば……
黙って閉じ込められるだろう……
だが、それは康太の本意ではない
榊原は康太の本意ではない事はしたくはなかった…
乗り越えられない壁はない
絶対の愛と
絶対の信頼
お互いが必要だと言う想いがあれば……
乗り越えられない壁ではない
康太を信じて……
送り出す
それが飛鳥井家真贋の伴侶の務め
康太の背を押す
立ち止まらない様に……
それば自分の役目
榊原は康太の唇に口吻を落とした
「未来永劫…愛してます…」
言葉にして……言葉に口吻を贈った
康太は目を醒まし、嬉しそうに笑った
「俺も愛してる
未来永劫、お前だけを愛してる」
榊原は康太を抱き締めた
「……今日は?乳首はどうですか?」
康太は顔を赤くした
「昨日よりは良い…」
「ごめんね…頑張って吸い過ぎました」
「………伊織にされて嫌な事なんて一つもねぇよ!
オレは伊織に愛される自分でいてぇんだ!」
「愛してますよ奥さん
僕も君に愛される自分でいたい!
ですから君を閉じ込める事なく送り出してます
死する時は共に……君と僕は離れられないのです
ですから僕は君を送り出します
君は何処へ行ってても僕の腕の中に還れば良い!」
榊原は康太を抱き締めた
その時榊原の熱い滾りが触れた
「……伊織……熱い……」
「………君に触れれば僕は何時も熱いです
でも今日は無理はさせません
傷が開いたら新婚旅行に行けませんよ?奥さん」
「………新婚旅行
お前と結婚して初めての旅だな」
「ええ。皆で行きましょうね」
「……普通…余分なもんが引っ付いた嫁は敬遠されるのにな……」
余分なもんなら沢山着いている自覚はあった
康太は苦笑した
「僕は君の総てを受け入れられるのです
ですから余分なモノだなんて想いません」
「………青龍で良かった
青龍を選んで本当に良かった…」
康太は榊原に抱き着いた
「僕も炎帝で良かったです
炎帝にずっと恋して実って本当に良かったです」
互いに叶わぬ恋をしていた
擦れ違いの時代……
「起きますか?奥さん
昨日はあまり食べてませんでしたね
今日はモリモリ食べなさい!」
榊原はそう言い康太の唇に口吻を落とした
二人で浴室で軽く洗って、支度をする
血で汚れた康太のスーツはゴミ箱に捨てた
真新しい糊の効いた服を着せた
榊原も着替えるとキッチンへと康太を連れて行った
キッチンには全員揃っていた
飛鳥井の家族に清四郎と真矢……そしていつ来たのか…笙もいた
そして三木が食卓に座っていた
康太は三木を抱き締めた
「眠れたのかよ?」
「………いいえ。情報収集しておりました」
「寝ろよ!体躯を壊したらどうするんだよ!」
康太は怒った
ただでさえ忙しい国会議員なのに……
「大丈夫です!私は柔ではありません
叩き上げられ君が作った議員です!」
「メシ食え!」
「はい!食べます!
ですから君は今日は大人しくしてなさい」
「今日は伊織に病院に乗せてって貰い消毒したら、神野と小鳥遊の様子を見て、一生に着いてる」
「では用がありましたら病院に訪ねます」
「おう!見舞ってやってくれ!
神野も小鳥遊も身内はいねぇ天涯孤独だ
ついでに一生もな身内は慎一のみだ
見舞ってやってくれ!喜ぶと想う」
「解りました!時間を作って見舞います」
三木は食事を終えると康太を抱き締め、タクシーを呼び帰って行った
康太は食事を終えると応接室へと移った
榊原は支度に行き、康太は怠そうにソファーに寝ていた
清四郎は康太に声を掛けた
「……康太、大丈夫ですか?
伊織は大人しく寝ましたか?」
「清四郎さん大丈夫だ
伊織は大人しく寝た
かなり出血したからな怠いんだ…」
「病院には私がお連れしましょうか?」
「清四郎さん仕事は?」
「来月から撮影が入ります
すると時間は中々取れません
今は休みです。妻も撮影を終えて休みです。」
「本当に悪かった……
休日を潰したな…」
「構いませんよ
私達は今晩も飛鳥井に泊まります
笙は私達が避けてるのかと思って来たのです
避けたりしないのに…バカですね」
清四郎の痛烈な一言に笙は……
「……父さん!」と止めた
康太は笑っていた
榊原が支度をして応接室に顔を出すと康太を抱き上げた
想わず清四郎が
「伊織、会社は?」
と問い掛けた
「康太を消毒に連れて行きます
父さん、源右衛門を点滴に連れて行ってくれませんか?
僕は康太を総合病院へ連れて行かねばなりません」
「良いですよ」
「………伊織、今日はじぃちゃんは外には出ねぇ…」
「………そうなんですか?
なれば静かに過ごさせねばなりませんね?」
「………還ったら源右衛門と話す」
「ええ。そうなさい。
僕は病院から帰ったら仕事に向かいます」
慌ただしく応接室を出て行こうとする榊原に、清四郎は
「私達も病院に行って構いませんか?」
と問い掛けた
「ええ。構いません
ついでに一生達を見舞ってやって下さい
兄さんは妻に着いてないで良いのですか?」
榊原が問い掛けると笙はふて腐れた顔をした
「………その妻な……会社に出勤してる!
昨日はお腹の子がいるから無理したらダメだと言うのに聞きゃぁしません
サクサク荷物を片付けて、僕に掃除しろと言うのです!
僕は掃除しましたよ!
そしたらサクサク寝て、今朝は出勤しました
下にいるんじゃないですか?
僕は休暇を取ったと言うのに……触らせてもくれません……」
笙の言い分に真矢は大爆笑した
清四郎は笙を窘めた
「お腹に子がいる時位…妻を触らずに過ごしなさい」
………と。
「……父さん、それは無理です!
今夜は頑張ります!」
と燃えていた
榊原は笙に
「新婚旅行まで我慢しなさい…」
と苦言を呈した
康太は笑って
「結婚式まで伊織は禁欲してくれた
誰よりストイックに新郎だった!」
とうっとりと話した
「………何か腹立つし……」
笙はボヤいた
「兄さん、土曜日は結婚式でしょ?
聡一郎が押さえてくれてます
ドレスを合わせに行かないとダメですよ?
康太のを着ますか?」
「奥さんに似合うのを着せたい…
だからドレスを買いに行きます」
「なら新婚旅行までは禁欲でいないとダメですよ
頑張って下さいね」
榊原は笑った
そして康太を抱き上げまま応接室を出て玄関に向かった
清四郎と真矢も榊原の後について行く
笙は慌てて両親の後を追った
病院に行き、診察の予約を入れる
診察時間が来たのを教えてくれる、呼び出しシステムの機会を持って病棟へ面会の手続きをした
病棟へ行くと、康太は神野達の病室から先に見舞った
神野達の病室には一生がいて、せっせと世話を焼いていた
「一生!てめぇ寝てなくて良いのかよ?」
康太が言うと一生は笑った
「神野が骨折してるのに事務所に帰ると駄々っ子でさ、小鳥遊が助けを求めに来たんだよ」
一生が言うと康太は神野を見た
神野は恐怖で顔を引き攣らせた
「晟雅、そんなに働きたいか?」
「………違います……でも事務所が気になります」
「真野がいれば、お前より役に立つ」
一蹴され神野は撃沈した
「晟雅、大人しく寝てろ!」
「………嫌です!君の役に立ちたいのに……」
「今回はオレが巻き込んだ……
入院費はオレが払う!」
康太の言葉に小鳥遊は慌てた
「康太!それは嫌です!
僕達は支払えるだけの稼ぎはあります!
康太がくれたのです!
自分達で支払えます!それは止めて下さい
そんな事されたら今すぐ退院します!」
「解った……支払いは止めるけど世話は焼く
本当に完治するまで寝てろ!」
「………解りました!
今は体躯を治します!」
と小鳥遊は答えた
「晟雅もだぞ!」
康太が言うと小鳥遊は笑顔で
「無理矢理退院しようものなら康太に見捨てられますよ!と言ってやります!
だから大丈夫だと想います!」
と答えた
「それより康太!
一生も病人の癖に無理してます!」
と小鳥遊は矛先を一生に向けた
「……おっ……俺は大丈夫だ!」
一生は言ったが榊原に捕獲されベッドに連れられて行った
「慎一、起きて来たら蹴り飛ばせ」
康太が言うと慎一は肩を竦めた
「蹴り飛ばして聞く相手ならね……」
「聞かねぇのかよ?」
「一生は頑固者です
一筋縄では行きません」
「…………一生だからな」
康太は笑った
「慎一、無理しない程度にな」
「解ってます」
康太の呼び出しベルが鳴り響き、榊原が康太を促し病室を後にした
診察室の前に行き順番を待つ
呼ばれて診察室に行くと久遠は疲れた顔して康太を待っていた
「……疲れてねぇ?久遠先生…」
想わず零した言葉だった
「オペが立て込んだらこんなもんだろ?
此処は救命救急センターだからな重篤な患者が運び込まれて来る
救命医なら仕方ねぇ定めだ」
久遠はそう言い康太の頭を消毒した
「フロントガラスで切ったからな心配してたけど大丈夫そうだな
検査の結果も問題ない!
消毒だけだからな飛鳥井の病院でも構わない
連絡はしといた!」
「なら今度からは向こうに行く事にする」
「おう!精算して帰って良いぞ」
久遠はカルテを記入して忙しいそうにそう言った
康太は一生の病室に顔を出して釘を刺して
榊原と共に飛鳥井へ帰って来た
康太は寝室を開けて貰い、寝る事にした
榊原は康太に口吻を落として、会社に降りて行った
怠い康太は直ぐに眠りに落ちた
清四郎達は源右衛門の部屋のドアをノックした
だが、ドアは開かなかった
応接室へ行き、そこで過ごす
静まり返った飛鳥井は驚異だった
飛鳥井の家は何時も誰かいて
笑って出迎えてくれた
ワイワイ笑い声が絶えない
お酒の好きな家族だった
それも康太が元気でいればこそ……だった
清四郎と真矢は何度も寝室を覗いた
建て壊す前に榊原達の為に買った家具が、そこに在った
大事に磨き上げられた家具を見て真矢は胸が熱くなった
康太は寝ていた
こうして見ると康太は小さい
今の小学生は発達してるから……交じれば解らない……
それ位、康太は痩せて小さかった
こんなに小さいのに……
康太の背負う明日は誰よりも過酷で……厳しい
真矢は康太を撫でた
清四郎は反対側で康太を撫でた
何時しか眠くなり……
康太と共に眠りに落ちて行った……
少し遅い昼を康太と一緒に取ろうかと……
榊原が寝室に顔を出すと………
父と母が康太を護るように寝ていた
榊原は苦笑した
撫でているうちに眠りに落ちたのだろう……
「……父さん……父さん…」
榊原は父を揺すった
清四郎は寝惚け眼で榊原を見た
「伊織……もう仕事が終わったのですか?」
「終わってません
康太にお昼を食べさせようと帰って来たのです」
榊原がそう言うと清四郎は飛び起きた
「………知らないうちに寝てしまいました」
「疲れてたんですよ…
すいません…御心配ばかりかけます」
「康太のα波にやられたんですよ」
清四郎は笑って妻を起こした
「……あなた……何ですか?」
寝惚けて清四郎に言う
「康太にお昼を食べさせないと、伊織は会社に帰れませんよ」
「……あら、寝てしまっていました……」
「康太と仲良く寝ておられました」
榊原は笑顔でそう答えた
「康太、康太、起きなさい……」
榊原に起こされる……
「………朝?」
「違いますよ。
お昼を食べますよ」
榊原はそう言い康太を抱き上げた
「昼?」
「そうです!
病院から帰って寝てたんですよ君は」
「……怠かった…」
「寝かせてあげたいけどお薬を飲まないとダメでしょ?」
「……ん…腹減った……」
「沢山食べなさい」
榊原はそう言い応接室へと康太を連れて来た
笙に事前にデリバリを頼んでおいたのだ
榊原の直ぐ後に瑛太が清隆とやって来た
玲香も駆け付け、源右衛門を呼んだ
だが出ようとしない源右衛門に康太は
「じぃちゃんメシ食ったら話がある
だからメシを食いに出て来やがれ!」
と言うと源右衛門はドアを開けた
「………康太……」
「メシを食え!朝も食ってねぇだろ?
んなん続けたら、そのうち呆け老人だぜ!」
源右衛門はフルフル首をふった
「嫌なら食って体力を維持しねぇとな
曾孫も帰るのに気弱でどうするよ!」
「………康太…悪かった…」
康太は源右衛門を掴むと応接室まで連れて行った
そして家族で遅い昼食を取った
瑛太は笙に
「佐伯との新婚生活はどうですか?」と尋ねた
笙は苦笑した
「………甘くはないです……
妻は会社にいませんでしたか?」
「…………いましたね……
仕事を溜めるんじゃねぇ!と鬼と化してました…」
笙はため息をついた
「………瑛兄さん…腹には僕の子がいます
無茶しない様に見張ってて下さい…」
「………それは伊織に言いなさい」
と瑛太は逃げの姿勢だった
「………義兄さん…何故僕にフリますか?」
「………私は適してない」
「………僕もフェミニストではありません
フェミニストは康太です」
瑛太と榊原はガツガツ必死に食べてる康太を見た
「…………笙、妻の管理は自分でしなさい」
瑛太は諦めて笙に言った
榊原も「僕も康太で手一杯です」と兄に伝えた
「目を離すと怪我して帰って来る……
兄さん……僕の康太に比べたら佐伯は少女の様に素直でしょ?」
笙は……言葉をなくした
康太はじーっと見られて……沢庵を咥えたまま榊原を見た
「……あんだよ?」
「愛してますよ奥さん!
世界で一番愛してます!」
榊原が言うと、康太は頬を染めた
「……今言うなよ……」
「僕の愛は溢れっぱなしですからね
何時でも君に伝えたいのですよ!」
「………伊織……」
康太は困った顔をした
榊原は康太を撫でた
「沢山食べなさい」
康太は、おう!とガツガツと食べるのを再開した
榊原は康太の前に野菜ジュースを置いた
「……あんだよ?これは」
「血が沢山出たでしょ?
だから野菜ジュースを飲みなさい」
康太は野菜ジュースが嫌いだった
「………要らない……」
そもそも野菜はそんなに好きじゃない
なのに何時も榊原が食べさせるから……食べてる
餌付けされれば食べる
だが……自分から食べたいモノじゃなかった
中々飲まない康太を掴んで膝の上に乗せると
榊原は野菜ジュースを口に含み、接吻した
無理矢理口の中に……流れ来る野菜ジュースを執拗な接吻で誤魔化し飲ませる
ゴックン……と嚥下するまで口腔を犯され……
康太は野菜ジュースを飲んだ
野菜ジュースがなくなるまで続けられ、榊原は康太の口に薬を放り込んだ
そして用意しておいた水を口に含むと、ゴックン薬を飲まさせた
康太は榊原の胸に顔を埋め
「……うえっ…」
と言っていた
笙は、一生が口にする『濃いなぁ…』と言う台詞を思い出し……濃いわ……この弟
当たり前の様な顔をしてやるからタチが悪い
「康太、源右衛門の話が終わったら、大人しく部屋にいなさい」
「………今日は何処にも行かねぇよ!」
「なら良いです!
僕は会社に行きます
淋しかったら膝の上に来なさい」
「おう!」
榊原は康太に執拗な接吻をすると会社へも向かった
清隆や瑛太、玲香もそれを見届けて、会社へ向かった
応接室のソファーに座ると康太は源右衛門に話しかけた
その横には真矢も清四郎も笙もいた
「じぃちゃん、昨夜は電話したのかよ?」
源右衛門は苦悩に満ちた顔を康太に向けた
「………あぁ、電話を入れた……」
「そしたら、もう家に火を付けた後だと言われたか?」
「………そうだ……」
「あの家の近くなら坂の下総合病院が近い
見舞いに行って来いよ!じぃちゃん」
「…………え?生きておるのか?」
「人は迷いがある
最後の瞬間……人は迷う
そんな時に……声を聞いたなら……
この世に留まりたいと……想いは未練になる
じぃちゃんの声を聞いて……寒山義継はこの世に想いを結んだ
じぃちゃんが引き留めたんだ!
じぃちゃんは会いに行く義務がある」
「………康太……」
源右衛門は俯いて……涙した
その時、慎一が病院から戻って顔を出した
「お呼びですか?康太」
康太は慎一に紙を渡した
「此処に源右衛門をお連れしてくれ!」
慎一は紙を胸ポケットにしまうと源右衛門に
「行きましょう!」と声を掛けた
源右衛門は慎一と共に、応接室を出て行った
康太は清四郎と真矢と笙に
「今日はあなた方に飛鳥井の会社を案内します」
と言い立ち上がった
康太の頭には白い包帯が巻かれていた
その姿は痛々しかった
だが誰よりも凛と前を見据えて、大きく見えた
寝ていた時の儚さはない
清四郎は立ち上がると妻に手を差し出した
「真矢、良い機会ですので見学しましょうか?」
真矢は夫の手を取り
「ええ。飛鳥井の会社を見学するのは初めてですね」
と、感嘆した
笙も立ち上がり着いて行く気は満々だった
康太はまず、5階に向かった
エレベーターを降りると厳重なセキュリティがあった
康太は網膜セキュリティを通した
するとゲートは開いた
「早く入って下さい
でないともう入れません」
康太に言われゲートを潜った
ゲートを入ると、それぞれの部署がワンフロアーに間仕切りもなく在った
それぞれが忙しく動いていた
入り口の所に受付嬢がいた
受付嬢は立ち上がって康太に頭を下げた
「今日は伴侶の家族をご案内してる」
「解りました!バッヂは付けて構いませんか?」
「おう!付けてくれ」
康太が言うと案内バッヂを清四郎達の胸に付けた
「では、ごゆるりと内覧なさって下さい」
受付嬢3人は康太達を見送って深々と頭を下げた
「5・6階には飛鳥井の中枢を置いてある」
康太はそう言い案内パネルを指さした
『経理、人事、総務、監査 施工 建築 』
奥から陣内が出て来て、康太を抱き締めた
「……想わぬ所に康太がいた」
陣内は嬉しそうにそう言った
「白馬はどうよ?」
「順調ですよ?変わった事はありません」
康太は「そうか。今後も気に掛けてくれ」と言い陣内の胸をポンっと叩いて離れた
奥へ行くと蒼太が指揮を執っていた
「蒼兄、どうよ?」
蒼太は康太を抱き締めた
「………君……怪我をしたの?」
白い包帯を指でなぞり……蒼太は問い掛けた
「気にするな!
ならな、今日は案内してるんだ」
康太の言葉に後ろの清四郎達に気付いた
蒼太は清四郎達に深々と頭を下げた
部署は活気に満ちていた
「真贋!視察ですか?」
と社員が気軽に声を掛けて来る
現場に顔を出していなければ出来ない信頼と絆だった
「伴侶のご家族を案内してる」
康太が言うと社員は清四郎達に深々と頭を下げた
迎えられて行く
清四郎は統制の取れた会社と言うモノを知った
外から帰って来た栗田が康太を見つけ
飛び付いた
「貴方!また怪我をしたのですか!」
栗田は叫んだ
「一夫……気にするな…」
「します!この後、聞かせて下さい!」
「………飛鳥井の家に来い」
「解りました!後で電話を入れます!」
栗田は康太を持ち上げ
「その前に顔を見せて下さい!」と言った
「………オレの顔なんて見ても嬉しくないぞ……」
「貴方がランドセル背負ってた時から、主の成長をこうして見守って来ませんでしたか?」
「一夫、伴侶の家族を案内中だ」
栗田は康太を下ろした
「そうでしたか!
なら図面はどうやって引かれて形を成し遂げるかお見せ致します。どうぞ!此方へ!」
栗田は姿勢を正すと清四郎達を案内した
図面を引く机が並ぶ
その中に城田と恵太がいた
城田は立ち上がると康太に深々と頭を下げた
「………貴方……怪我なさってるのですか?」
城田が康太の包帯を……そっとなぞった
「敵なら多いかんな!」
康太は笑った
恵太は心配そうに康太を見ていた
栗田は清四郎達に製図のノウハウを詳しく教えた
そしてリアルタイムに引かれている図面を目にした
笙は感嘆した
緻密な何ミリ単位の誤差も許されない世界を目の当たりにした
清四郎は栗田に
「貴重なお時間を有難う御座いました」
と礼を述べた
社内が康太がいると活気づく
気を引き締め、遣り甲斐のある仕事を自信を持ってやる
その気迫が見えていた
「飛鳥井が誇る精鋭達だ!
明日の飛鳥井は社員が創る!」
康太は胸を張って凛として言った
5・6階の案内を終えると7・8階に向かった
7・8階は会議室が幾つかと、職員の食堂があった
康太は食券を買うと
「おばちゃん!元気か!」
と声を掛けた
「康太ちゃん!久し振りだね」
食堂のおばちゃん達は嬉しそうに康太に声を掛けた
康太は食券を置くと席に座った
「康太ちゃん、出来たわよ」
と声が掛かると受け取りに行った
清四郎達の前に親子丼を並べた
そして味噌汁と漬物を取りに行く
おばちゃんは「これは康太ちゃんのよ」と山盛り沢庵をくれた
清四郎達はお昼は食べて来たのに……
と親子丼を見ていた
「食ってみろよ
清四郎さんや真矢さんは懐かしいと想うかもな」
康太はそう言い親子丼を食べ始めた
そこに榊原が現れた
「城田が康太が来たと教えてくれました」
と言い康太の横に座った
「………君、お昼、足りませんでしたか?」
想わず榊原が言う
「違ぇよ!清四郎さん達にこの食堂の親子丼を食べさせたかったんだよ!」
と榊原に訴えた
清四郎は親子丼を口にした
すると懐かしい味が口に広がった
「……康太……」
「懐かしい味だろ?」
「ええ……お袋の味です……」
昔……母が作ってくれた親子丼の味だった
「うちの社員は此処の食いもんが好きなんだ
安くて懐かしいと評判だ
清四郎さん達にも食わせてやりたかったんだ」
清四郎と真矢は出された親子丼を総て食べた
榊原は康太の口を綺麗に拭いた
ともだちにシェアしよう!