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第2話 コンプレックスと胸の痛みと
制服に着替え、髪を軽く整えると、俺はダイニングへ降りて行く。
父親の半年間の転勤に母親もついて行ってるため、今現在、津城(つしろ)家は俺と伊央利の二人暮らしだ。
「伊央利って、ほんと料理上手だね」
夏の終わりの朝の陽がたっぷりと差し込むダイニングのテーブルの上にはキツネ色に焼けたトーストと半熟卵のベーコンエッグ、色とりどりの野菜、フルーツがたくさん入ったヨーグルトまで用意されている。
これが俺だとトーストとベーコンエッグは焦げが目立ち、サラダやヨーグルトまで用意する余裕などない。
両親のいない間、家事は二人で当番制にしているのだが、なんでも器用にこなす伊央利と違って、俺は本当に不器用だ。
「こんなの料理のうちに入らないだろ。俺からしてみればトーストを焦がすおまえの方がある意味器用だと思うけど」
からかわれて、少しムッとするが、図星なのだから反論しようがない。
伊央利作のおいしい朝ごはんを平らげ、二人そろって家を出た。
俺と伊央利は生まれ落ちたときからずっと一緒に育ってきた。
今も同じ高校に通い、クラスも同じ。来年受験する大学も同じところを目指している。
……とはいえ。
百八十センチを余裕で超えている伊央利のスラリとした長身と端整な顔立ちを盗み見ながら思う。
二卵性とはいえ一応は双子。
なのに俺と伊央利はいつからこんなに差がついてしまったのか。
幼稚園の頃は身長も体付きも二人とも小さめで変わらなかったし、顔立ちもよく似ていると言われたっけ。
変わってきたのは小学生の高学年の頃くらいからだっただろうか。
当時バスケ部だった伊央利は身長が一気に伸び、あっという間に俺よりも十センチ以上高くなってしまった。
顔立ちも中学生になる頃、伊央利はぐんと大人っぽくなった。その頃には既に今の美貌の面影は形成されていて、クールでセクシーで垢抜けたイケメンとして、名をはしていた。
そして今。その大人びた端整な美貌は完璧なものになり、道行く女性たちは皆振り返って行く。
それに比べて俺は、身長は百六十七で止まってしまい、顔立ちも中学の頃からほとんど変わっていないと言われる始末だ。
「はあ……」
「何溜息なんかついてんだよ、大和」
切れ長の目がこちらを見おろし、小さく笑う。
そんな何気ない微笑みでさえ、伊央利が浮かべるとかっこよくて、色気に満ちている。
俺は今朝方見た淫らな夢を思い出した。
俺があんな夢見て、あんなふうに……しちゃってるなんて伊央利が知ったら、完全に軽蔑されて、兄弟の縁も切られちゃうんだろうな……。
そんなふうに考えると、心の奥がすごく痛くて、不安に苛まれるけど。
決して叶わない思いなのは充分分かっているから。
今この瞬間、伊央利の隣りにいれることを感謝しなきゃね。
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