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第3話 やきもち

「伊央利、今日、俺が晩ごはんの当番だから先に帰るね」  放課後、窓際の席で何人かのクラスメートたちと談笑している伊央利の元へ行き、そう告げる。 「ああ。分かった。……今夜はまともに食えるもの作ってくれよ、大和」 「分かってるよっ」  前回も前々回の当番のときも、見事に鍋を焦がした俺に伊央利が皮肉っぽく笑ってみせるのに、少し頬を膨らませて応じる。  ……いやいや。こんなところで伊央利と言い合っている場合ではない。  今朝の下着を洗っとかなければ。  それにしても二人きりで生活をし始めてからまだ一か月も経っていないというのに、こんな状態で、大丈夫なんだろうか。  どちらかと言うと表情を隠すのが上手な伊央利と違って、俺はすぐに顔に出てしまうから、心配の種は尽きない。  家に帰って洗濯をし、淫らな証拠を隠滅してから、スーパーに出かける。  俺の料理のレパートリーは少なく、カレー、チキンライス、ハンバーグこの三つくらいだ。  それをも失敗するんだから、俺って本当にどうしようもないなー。  少々落ち込みながらスーパーの袋を抱え、家へ帰ってくると、鍵が開いていた。  どうやら伊央利が帰っているようだ。好きになってはいけない相手だと分かっていても、やはり伊央利がいてくれるとうれしい。 「ただいまー」  俺は弾んだ声で家の中へと声を掛けた。  しかし、次の瞬間には俺の気持ちは急降下してしまう。  その理由は玄関に脱いであったハイヒールの存在に気づいたのと、リビングから楽し気に笑う声が聞こえてきたからだ。 「あ、おかえりなさい、大和くん」 「……いらっしゃい、さやかさん」 「大和、さやかが筑前煮作って来てくれたぞ」 「……ありがとうございます」 「ううん。たくさん作ったからお裾分け。それより大和くんは今夜なに作る予定なの?」  淡いピンクのリップを塗った唇が楽し気に聞いて来る。 「カレー、です」 「今日は焦がすなよ、大和」  伊央利がからかうように口を挟んで来る。  さやかが来ると伊央利の機嫌がいいような気がするのは俺の気の所為なのだろうか。 「あたし、手伝おうか? 大和くん」 「いえ」  短く、でもきっぱりと拒絶の意を示す。  俺は彼女……さやかが苦手だった。  さやかは母方の従姉妹で俺たちと同い年だ。我が家から電車で二駅のところに住んでいて、しょっちゅうこんなふうに夕食の差し入れをしてくれる。  いわゆるボンキュッボンのスタイルな美女だ。  俺が彼女を苦手な理由は言わずもがなだろう。  そう、早い話がやきもち。  伊央利とさやかが一緒にいるのが嫌なのだ。  美男美女の二人はそこにいるだけで絵になり、俺はなんだか疎外感を覚えてしまう。  それに普段は女の人に対してクールな伊央利がさやかに対しては親しく接するのも面白くない。  そりゃ従姉妹なんだから当然なのかもしれないけど嫌なものは嫌だ。  さやかに夕食の支度を手伝ってもらうのも抵抗があるが、かといってリビングで伊央利とさやかを二人きりにしておきたくもないので、俺はリビングとダイニングキッチンを仕切る扉を全開にした。  しかし、今度は二人が何を話しているのかが気になり、なかなか料理に集中できず、結局俺は、この夜も盛大に鍋を焦がし、かろうじて炊いてあったご飯とさやかが持ってきた筑前煮だけをおかずに夕食を食べることになってしまった。  夕食前にさやかは帰っていき、俺たちは順番にお風呂に入ったあと、向かい合って夕食を取る。  ダイニングには俺が焦がしたカレーの匂いがまだ充満していて、惨めな気持ちになってしまう。それに比べてさやかが持ってきた筑前煮は完璧な出来栄えで、惨めさが増す。 「大和? どうした? 食欲ないのか?」  なんだか落ち込んでしまって一口が重い俺の様子を見て、伊央利が心配そうに聞いてくれる。

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