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第4話 優しい兄
「ううん。そんなことないよ」
「もしかしてカレー焦がしたこと気にしてんのか? あんなのおまえの平常運転だろ。まあ、もうあの鍋は使い物にならないだろうから母さんには怒られるかもしれないけど」
「うん……」
伊央利の言葉にうなずいたとき、パタパタッとテーブルの上に水滴が落ちた。
「……えっ? おい? 大和?」
伊央利が酷く戸惑ったような顔と声でこちらを伺ってくる。
「なに?」
俺の声はなぜか随分鼻声で。
「なに泣いてるんだよ!?」
「えっ? 俺、泣いてなんか……」
しかし手で頬に触れると確かにそこには濡れた感触。
「どうしたんだ? 学校でなにかあったのか? まさか誰かに嫌がらせとかされたんじゃないだろうな」
目の前には怖いくらい真剣な顔をして心配してくれる大好きな兄。
「なにも、ない」
俺自身、なんで自分が泣いているのか、分からないのだ。
「…………」
伊央利はしばらく俺の顔を見つめ考え込んでいたかと思うと、掛け時計に視線を移し、そして立ち上がる。
「出かけるぞ、大和」
俺の濡れた頬を大きな手で拭ってくれたあと、伊央利は突然言い出した。
「え? 出かけるってどこへ?」
きょとんとする俺の手首を伊央利がつかむ。
「スーパー。まだこの時間なら開いてるだろ」
「スーパーって、何しに?」
「何しにって、カレーの材料買いに行くんだよ」
「えっ?」
「さやかには悪いけど、今夜は俺、筑前煮よりカレーの方が食べたい」
俺の手首を握っていない手で頭を撫でてくれ、髪をすくようにしてくれる。
「二人で一緒に作って、食べよう、大和」
「……伊央利……」
目尻から温かな涙が零れたことが、今度ははっきりと分かった。
二人でおしゃべりしながら作ったカレーはとてもおいしくて、伊央利は当然のようにお代わりしていたし、どちらかと言うと食の細い俺も珍しくお代わりをした。
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