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第5話 優しい声と……
それぞれの部屋に引き上げたあとも、俺の気持ちは幸せで満ち溢れていた。
永遠の片思いをしている俺をかわいそうに思って、神様がご褒美をくださったのかなー。
机に頬杖をついてぼんやりとそんなことを考えていると、ドアがノックされ、伊央利の声が聞こえた。
「大和、起きてるか?」
俺ははじかれたように顔を上げ、応対する。
「あっ、うん。起きてるー」
慌ててドアを開けると、黒のパジャマ姿の兄が立っている。
「確か、W大の問題集と参考書、おまえの部屋にあったよな。ちょっと貸してくれないか」
そう言った伊央利は綺麗に片付いている俺の机の上を見て、呆れたような声を出す。
「こら。大和。おまえ、勉強追い込み掛けなきゃならないときだろ。なにサボってんだよ」
「あ」
「あ、じゃない。おまえ、今の成績だとW大は危ないんだからな。分かってんのか? 俺と一緒の大学行くんだろ?」
「うん……」
そうなのだ。俺は伊央利と同じW大を志望している。
そして伊央利の方は余裕で合格圏内なのだが、俺の方はギリギリのライン上なのである。
「あーもう仕方ないな。確かおまえ数学が弱かったよな。問題集出して。教えてやるから」
「えっ……あっ、うん」
それから二時間みっちり数学の勉強をさせられて、気づけば俺は眠ってしまったようだ。
ふわっと体が宙に浮くような感覚を夢うつつで感じる。
眠りたいと訴えるまぶたを無理やりこじ開けたのと、体が柔らかい何かに横たえられたのが同時だった。
すぐ目の前に伊央利の端整な顔があり、横たえられたのはベッドで。
半分寝ほけているのと、大好きな人の優しいまなざしがすぐ傍にある安心感に、俺の顔はふにゃんとだらしなく緩む。
「お疲れ様、大和。よくがんばったな」
子守歌のような優しい声音で囁かれ、とうとうまぶたが音を上げ閉じていく。
そこに押し当てられる少しひんやりとした柔らかな何か。
それは何度も何度もまぶたに押し当てられ、やがてかすめるように唇に触れたかと思うと、耳元で伊央利の声がした。
「おやすみ」
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