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第11話 本当の気持ち Side.Iori

「大和?」  俺は大和と同じ目線の高さに体を折ると、涙に濡れる弟の頬へそっと手で触れた。  途端にその手は思い切り振り払われてしまう。 「迷惑だと思ってるくせに優しくするなよ!」 「迷惑?」  とうとう感情を爆発させた大和が俺に向かって叫んだ。 「俺、聞いてたんだから。伊央利がさやかさんに話してたこと」 「は?」 「大通りのハンバーガー屋さんで、伊央利、言ったよね。俺なんかいなければ良かったって……伊央利はずっと俺が邪魔だったんだ」  一瞬、大和が何を言ってるのか分からなかったが、すぐに思い当たる。  あのときファストフード店で言った言葉。 『俺はあいつがいなければ良かったのにって思う』 「違う、大和。あれはそういう意味で言ったんじゃない」 「もういい! 俺、部屋に行くから」  聞く耳を持たずソファから立ち上がろうとする大和の薄い肩を押さえつけ、至近距離で大きな澄んだ瞳を見つめた。 「大和、俺は」 「…………」  唇を噛みしめて顔をそむけてしまう大和の耳元へ、心の奥深くに隠し通してきた思いを告げる。 「もうずっとずっと前から大和のこと弟としてなんか見ていない」 「え?」  大和が零れそうに目を見開き、こちらを見た。 「でも、俺の気持ちは許されないものだから。おまえのこと忘れようと色んな女性と付き合ってみたけど、ダメだった。誰もおまえの存在には敵わなくて」  だから、あの言葉の本当の意味は、 「大和のこと決して手に入らないなら、双子の兄弟になんて生まれて来たくなかった」 「伊央……」 「弟なんか、最初からいない方が良かったって……投げやりになったんだ」  そういうことで。 「伊央利……」  大和が信じられないとばかりに涙で潤んだ目を瞬かせる。  誰もが惹きつけられる綺麗な瞳に問う。 「こんな思いを抱く俺を、やっぱり大和は気持ち悪いって思うか?」  いくら外見が似ていなくても、俺と大和は同じ両親から生まれた双子の兄弟。  俺の生々しい気持ちを聞き、大和は引いてしまったかもしれない。  思いを告ってしまったことをほんの少しだけ後悔する。  だが次の瞬間、大和の細い体が俺の胸に飛び込んで来た。 「大和……?」 「そんなことない……そんなこと、ないっ」  泣きじゃくりながら同じ言葉を紡ぎ続け、俺の背中に縋りつく華奢な腕が小さく震えている。  奥手な弟の、それが返事だと理解し、強く抱きしめ返した。  泣きぬれた目は真っ赤で、長い耳をつけたら、まんまうさぎさんだよな……なんてことを幸せで満ち溢れた心の端っこで思いながら、俺は大和の唇にふわりとキスをした。  柔らかな唇の感触を知るのは初めてではなくて、大和が眠っているときに何度か我慢できずに奪ってしまったことがあるという真実は、今はまだ内緒だ。  啄むようなキスを受け止める弟は頬を赤く染めながら小さく震え続けている。  大和の全てを手に入れたい欲望はもう少し我慢を強いて。  誰にも言えない関係は、まだ始まったばかりだから。

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