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第10話 不可解な弟 Side.Iori
***
ここ最近、大和はずっと俺のことを避けている。
避けられる理由が分からず、問いただそうとしても取り付く島もない態度を取られるだけだ。
そんな不可解で、不安な日々を過ごしていたある日の放課後、俺と大和は担任に呼び出された。
がらんとした教室に俺と大和が並んで座り、向かいに担任が座っている。
腕を組んだ担任はなにやら難しい顔をしていて、楽しい話ではなさそうだ。
「津城兄、おまえは知ってるのか?」
担任は俺たちのことを津城兄、津城弟と呼ぶ。
「なにをですか?」
俺がきょとんと首を傾げると、担任は大和の方へとしゃくれた顎を向ける。
「おまえの弟はW大受験を止めて、ワンランク下の大学を受けるって言ってるぞ」
「なっ……?」
寝耳に水の話に俺は驚愕する。
「そうだろ? 津城弟」
担任が大和に確認する。
「はい……俺の実力ではやっぱりW大は無理だって思うから」
「大和! おまえ、なに言ってるんだよ? どうして急にそんな……」
戸惑う俺に、担任もまた困惑顔で大和に向かって言葉を投げかける。
「津城弟、おまえはこの前の抜き打ちテストの結果も良かったし、確実に実力がついてきてるから、このままがんばれば、W大も充分合格圏内だぞ?」
「いいえ。もうW大は受験しません」
「大和、おまえ一体どういう気だ?」
「伊央利には関係ないだろ」
「関係ないことないだろ!」
「関係ないったら、ない!」
「はいはい。そこまで。兄弟げんかは家でやってくれ。先生は暇じゃないんでね。……津城弟、まだ時間があるからちゃんと考えなさい。分かったな」
担任はそう言うと俺たちを教室から追い出した。
これ以上ないくらいどんよりと気まずい空気をまとい、俺たちは自宅へと帰って来た。
自室へ逃げ込もうとする大和の華奢な手首をつかんで、リビングのソファへ座らせ、俺は彼の前に立ちふさがる。
「一体どういうことか、話してもらおうか、大和。なんで急にW大の受験を止めるなんて言い出したんだ?」
「だから、それは俺の実力じゃ無理だから」
「大学のことだけじゃない。おまえ、最近俺のこと避けまくってるだろ?」
「それは……」
「俺、おまえに何かしたか? 避けられるようなこと」
そう言葉を放った途端、今までうつむき気味だった大和が顔を上げ、強いまなざしで俺のことをにらんで来た。
大和は普段は儚げで中性的な美少年だが、感情が昂ると、その大きくて綺麗な瞳に負けん気の強さが現れる。
「伊央利が言ったんじゃないか……!」
「だから何を?」
「…………」
大和は答えず、ポロリと大粒の涙を零した。
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