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 十五夜に相応しい満月だった。  月の白い光が周囲を照らし、地面の土の色がはっきりと分かる。これならば智治(ともはる)も少しは気が楽だろうと、九条(くじょう) 光伸(みつのぶ)は母屋から土蔵に向かう最中で弟を思う。抱えている(たらい)には湯が張られ、月の形が崩れて映し出されていた。湯が冷めてしまう前にと、光伸はやや足を早める。  智治は今、母屋から離れた小さな土蔵の中にいる。光伸ですら息苦しさを感じるほど、狭く暗い場所だ。そんな場所に智治は一人で寝起きしている。まるで罪人のような扱いに、光伸は強い憤りを感じていた。  土蔵に着くなり光伸は裏手に回る。木で組まれた格子(こうし)に向かって、智治の名を呼ぶ。 「……お兄ちゃん」  恐る恐るといったようなか細い声と共に、不安と安堵を滲ませた顔が現れる。  小さな輪郭に大きな黒い瞳。通った鼻筋の下には小さな赤い唇。長くなってきた黒髪が艷やかに頬に落ち、一瞬女と見紛うような様相であった。白い頬が月明かりによって、発光しているようにすら見える。まるでかぐや姫のようだと、兄である光伸ですらその姿に目を奪われた。 「遅くなってすまない」  気を取り直して、光伸がそう口にする。すぐさま表に回ると南京錠を外し、重たい扉を開く。  中は薄暗く、心もとない蝋燭の光が一角を照らしていた。それでも今日は、格子からの月明かりが差しているだけましであった。 「今日は暑かったからな。汗をかいただろう。今、拭いてやるからね」  格子の傍に盥を置き、光伸は膝をつくなり智治を手招く。  素直に光伸の傍に腰を下ろした智治は帯を解き、肩から簡素な着流しを滑らせる。白い肌が現れ、光伸は思わず息を飲む。だが、すぐさま不埒な考えを捨て去り、光伸は淡々と手ぬぐいで智治の体を拭いていく。

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