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 すぐにでも行動に移さねばならない。そう頭では分かっていたが、睡魔のせいか身体が思うように動かなかった。  光伸は智治の横顔を見つめ、瞬きを繰り返す。白い月明かりに照らされた智治は、美しい日本人形のようだった。血の気のない頬はまるで死人のようにも見える。  突如、辺りが闇に包まれる。月が雲に隠れ、光源を失ったようだ。  まるで何もかもが消え去ってしまったかのようで、光伸は震える手で智治のいる辺りに手を伸ばす。少し冷たく感じたが、何度も触れた智治の身体を間違えるはずもなく、光伸は身体を寄せる。  再び周囲が明るくなると、智治がすぐ目の前で眠っていた。  光伸は掛け蒲団を引き上げ、温めるように智治の身体を腕の中に包み込む。一緒に眠りにつくのは初めてのことだった。母屋に戻らず夜を明かすことは父から禁じられていたからだ。  でも此処から出さえすれば、これからは一緒に寝食を共にすることも叶う。もう二度と、智治に寂しい思いをさせることもなくなるのだ。 「智治、起きたら一緒に此処から出よう。遠い地に行って、二人で力を合わせて幸せに暮らそう。僕はそのためだったら、どんな苦労も厭わない。だから今は少しだけ、僕も寝かせてくれ」  智治の髪を優しく指で梳きながら、光伸はゆったりとした口調で言った。  智治からの返事はない。だが、その口元は僅かに上がっているようにも見える。  光伸は微笑み、愛しい横顔を目に焼き付ける。  そして静かに瞼を閉じた。                                         了

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