11 / 18
第10話 記憶(9)
退屈な入学式が終わりをつげ、各教室への移動が始まった。
「・・・レイ。」
ぽつり。優しい笑顔をした天使が、頭の中に浮かぶ。
「それって恋人?」
呟きを耳に入れた男・・・小泉が、笑顔で話しかけてきた。
「お前には関係ないだろ。」
素っ気なく、適当に返事をする。
「好きなんでしょ?式中、ずっと何かに集中してたよね。」
意識をレイに向けていたのがばれていたようだ。心の読めない不気味な笑みを貼り付けたまま、小泉は語り続ける。
「それって今君が呟いてたレイってひとにだよね。早くしないと、誰かに盗られちゃうよ?綺麗な人だね。」
「・・・」
どうやらレイを視認したらしい。俺が意識を向けていた相手の位置を特定してそのうえ視認するなんていう芸当、普通はできないはず。まさか、レイの追手(魔界の奴らが俺を捨てたのだから、追ってくる理由がない)・・・いや、断定するにはまだ早い。天使や悪魔の中には人間としての顔を持っている輩もいると聞く(レイからの情報だ)。
「・・・それで?お前が俺に接触する理由はなんだ。」
式中にも似たことを訊いたが、もう一度尋ねる。
「言ったでしょ。首席様と仲良くしておこうと思ってって。そのほうが、僕も動きやすいし。」
「動きやすい・・・?」
不穏な気配を漂わせるその言葉に顔をしかめる。
「あーごめん。失言だったかも。いやまあその通りなんだけどね。危害を加えるつもりはないっていうのは伝えておこうかな。」
危害・・・?なぜ一般の人間がそんな言葉を使う?そもそもこいつは人間か?追手ではないにしても使う言葉が不自然すぎる。おかしい。言い回しも引っかかる。
「お前、本当に人間か?」
「人間」に使うにはあまりにも不自然な言葉をかけてみる。いや一般の人間が使うにしても不自然なのだが。これはカマかけだ。相手の表情を、筋肉の動きを、汗の量を、心拍数を視て、正否を確認する。結果は・・・
「・・・違うよ。僕は人間だ。」
こいつは、人間じゃない。悪魔か天使かまでは判別できないがこいつは、
(小泉は、人外・・・異形の類だ。)
ともだちにシェアしよう!