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第1話【僕の独白】

 自己の証明は、自分以外の誰かがいないとままならない。  けれど、自分以外の誰かが存在する事で、証明出来なくなる場合もある。  だからといって、一人きりでは証明出来ないという事も、揺るぎ無い事実。  ……『難しくてよく分からない』って? もしかして……哲学的な話だとでも思ったのかい?  大丈夫、そんな事はないさ。  深く考えないで。  難しい話じゃないんだから。  至ってシンプルで、単純明快な話さ。  考えてもごらん? 少なくとも、身近な人類で僕は分かっているんだ。  そして、僕が分かっているんだから、僕だって分かっている話。だから、僕の自己満足でも、妄言なんかでもない。  この世界で二人が分かっている。だから、きっと分かる筈だよ。  ……『理解出来ない』って? …………そう。残念だよ。本当に……とても、とても。  ……あぁ、ごめんね。もう、行かなくちゃ。  『どこに行くの?』って……不思議な事を訊くんだね。  今さっき、僕を『理解出来ない』と思ったくせに、僕を理解しようとするんだ? ……あぁ、怒っているわけじゃないさ。意地悪を言ってごめんね。  いいよ、教えてあげる。  僕は今から、僕の部屋に行くんだ。  僕はね、お寝坊さんだから。僕が起こしてあげないと、僕はいつまでも毛布に包まっているんだ。  じゃあ、そろそろ行くね。話を聴いてくれて、ありがとう。見ず知らずの誰かにこんな話をしてしまうなんて……僕はなんて、矮小で度し難い人間なんだろう。  ――とでも、言ったら許されるのかな? ……なんてね、ふふ。冗談さ。  あぁ……もしかしたらこれこそが、僕なのかな。  いもしない誰かに声を掛けている妄想……なんて、馬鹿らしいんだろう。  それとも、僕がそうしているのを真似ている僕なのかもしれない。  そう言えば……僕はお寝坊さんなのに、僕はお寝坊さんじゃないらしい。それは、僕がお兄ちゃんだからかな?  …………違う。僕は、弟? いや、違う、違う。僕がお兄ちゃんで、僕は弟だ。  あぁ、あぁ……ッ! 違う、違うよ、違う……逆、逆だ……ッ! 僕が弟で、僕はお兄ちゃんなんだッ! ……あ、あれ、あれ? 違う? それが違う? 僕がお兄ちゃんで、僕は弟……それが逆なら、じゃあ、じゃあ……どっちが、どっちが僕……?  ……あぁ、ごめん、ごめんね。駄目だよね、分かっているさ。  ヤッパリ……僕が僕だって、僕だけじゃ分からないみたいだ。  仕方ない、仕方ないよ。  ――だってこれは……僕と、僕だけど僕じゃない僕の【存在証明】なんだから。

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