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「もう来るんじゃないぞ」 あれから十年後。 刑務所から出ると、町には冬が訪れていた。 白い雪がパラパラと空から降り注ぎ、地面は真っ白な雪に覆われている。 足も手も顔も、全部が凍るように冷たい。 「……まずは、あそこに」 刑務所から出たばかりだったが。重たい足取りで、僕は双葉が眠っている場所まで向かった。 どうやらこの時期のおかげで、墓参りに来ている人はほとんどいない。 「よかった。あの二人も来てないな」 黒崎双葉。そう書かれている墓石の前には両親の姿はない。 僕はそのままゆっくりと墓石の前にしゃがみ込み、手を合わせた。 「双葉。許してほしいなんて言わない。ただどうしても謝りたかったんだ。ごめん……ごめんな……」 冷えた頬を、ほのかに温かい水滴が流れていく。 きっと僕が間違えなければ、双葉は死なずに済んだはずだろう。 きっと幸せに生きていただろう。 許されるなんて思っていない。 許されようとも思っていない。 ただ、この罪だけはどうしても償いたい。 「じゃあな双葉……今までずっとお兄ちゃんの側にいてくれて有難う」 合わせていた両手を離して、ゆっくりと立ち上がる。 「行ってくるよ」 そして僕は再び、重たい足を動かした。 「はぁ……はぁ……」 ざくざくと雪を踏みながら、町を離れ。山手の方へと足を進める。 一時間ほど歩くと、あのホテルの看板が目に入った。 あの日、僕と尾白が番になった場所だ。 「まだ、あったんだな」 十年という月日がたっても、取り壊されることなくそのままの状態で未だ廃墟となっていたラブホテル。 キープアウトのテープを無視して中へ入ると、やはり中は前よりボロボロになっていた。 けど、あの部屋だけは覚えている。 多分、どれだけボロボロになっていようと。僕には見つけられる自信があった。 「あ、あった……ここだ」 あの日、尾白了史と番になった場所。 そして、全てを知った場所。 そんな特別な部屋だけは、何故だが不気味なほど綺麗に保たれていた。 一つ増えていた汚れと言ったら、黒ずんだ血の跡くらいだ。 「尾白さん……僕、罪を償いましたよ」 あの日、二人で抱き合って眠ったベットにそっと指を触れる。 「でもきっと、それでも誰も僕を許してはくれないと思います」 柔らかなベットを触れたその指で、冷たくなったガラスの破片を拾い上げる。 「でも、尾白さんは違うんですよね?貴方だけは僕を……許してくれるんですよね?」 血の付いたガラスの破片。 あの日。鋭く尖った先端を喉元に当てて、尾白さんは僕にこう言っていた。 『もしもお前が、自分の中で罪を償い終わったと思ったらーー俺の元へ来い。俺だけはお前の全てを許してやるよ』 冷たい先端を喉元に当てる。 「ねぇ尾白さん。僕はもう貴方に会いに行っても……いいですか?」 確かに僕の行いは、ずっと間違いしかなかったかもしれない。 けど、それでも。 僕達が互いに怨んで、憎んで、そして愛し合ったことだけは、きっと間違いじゃなかったと……僕はそう思う。 「愛してます。僕だけのΩ様」

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