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第2話 夕食

「……チャーハンか」 二階から下りてきた兄が、ダイニングテーブルに並ぶ夕食を見下げながら呟く。 僕が作ったチャーハン。それから、インスタントの中華スープ。 「うん……」 「美味そうだな」 「……」 何となく、気まずい。 ドカッと椅子に座った兄は、何食わぬ顔でスプーンを手に取ると、チャーハンを掬って食べ始める。 いつもと同じ。何ら変わりはない。 「さっき母さんから連絡あったぞ。 ……親父からもな。もう少し遅くなるから、帰りは深夜になるってよ」 「……」 ……え…… その言葉に、一瞬で血の気が引く。 チラリと壁に掛かった時計を見れば、夜の七時を回った所だった。 じゃあ、あと約五時間……このまま兄と一緒なのか…… 「お前、この後出掛ける予定とかあんのか?」 掬ったチャーハンを口に放り込みながら、いつもの表情、いつものトーンで僕に話し掛けてくる。 さっきまで、あんな動画を見て僕をオカズにしていたというのに…… 「……別に……」 「別にって、何処も予定ねぇのか?……真面目だねぇ。 今夜は両親(あいつら)の帰りが遅くなる事ぐれぇ、薄々感じてたんだろ?」 「……」 ……そうだ。 両親は今日、結婚記念日だとか何とか言って、日帰りの温泉旅行に出掛けていった。 でも、夕飯頃には帰ってくるって言ってたから……まさか、こんなに遅くなるなんて、思ってもみなくて…… ああもう。 だったら尚更。何でさっきあんな光景を見ちゃったんだよ…… 「そういう兄貴こそ、どっか出掛けたりしないの?」 「どっか、行って欲しいか?」 「………」 言葉に詰まらせると、兄がニヤリと冷たく笑う。 ……できる事なら、どっか行ってて欲しい。 でもそんな事、口が裂けても言えないけど。 とにかく、今夜一晩だけでも、兄とはこれ以上接触したくない。 関わりたくない。 早くご飯食べて、ツ○ヤにでも行って時間潰してこようかな。 そんな事を考えながら、急いでチャーハンを掻き込む。 「……そういやお前、付き合ってる彼女とは、どうなんだよ」 兄が目を伏せ、チャーハンをスプーンいっぱいに掬う。 噛まずに飲んでるのか……この数分で、皿いっぱいにあったそれが、もう半分まで減っていた。 「……」 ──彼女。 僕が男に抱かれるゲイだって、もう知ってる癖に…… 「浮気されたから、こっちから別れた」 「……浮気……? なんだお前、浮気されたのか……?」 「……うん」 唇をキュッと引き結び、兄から視線を横に逸らす。 すると兄は、スプーンを動かす手を止め、突然吹き出した。 「──ははっ、マジかよ!」 「……」 「ダッセぇな、お前!」

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