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第19話 狂気

「それが堪らなく、俺をイラつかせやがる……」 指姦されながら──僕は、兄の言葉をどう受け止めていいか解らなかった。 「……」 確かに幼い頃……兄の後ろ姿を追い掛けていた記憶が、断片的に残っている。 今とは違う。 あの頃の兄は、優しかった。 ごく普通の、どこにでもいる兄弟だったと思う。 だけど──兄の中で何かが起きて、何かが壊れて。 僕を虐待する、という道に走った。 そのキッカケは、一体何だったのか。 僕には解らない。 ……解ろうとも思わない。 僕の人生を狂わせた、一人だから。 「……っ、!」 突然、指を全部引き抜かれる。 その痛みに息が止まり、身体がビクンッと震えた。 兄の上体が浮き、僕の鼠径部辺りに当たっていた熱が、名残惜しそうに離れていく。 「……心桜(みお)。俺から目ぇ逸らすなよ」 僕の両膝を持ち上げ、左右に割り開き、兄が下半身を寄せる。 「抵抗もすんな。 ……もう、俺に殴られたくねぇだろ?」 グイッ、と更に持ち上げ、先程まで穿っていた尻の窄まりに、涎を垂らした熱いモノが宛がわれる。 ……いや、だ…… 食われる───!! 恐怖で身体が戦慄き、上擦った呼吸を何度も繰り返す。 非力ながら、本能的に手足を動かして逃れようとした。 「……クソ、」 兄の眼がみるみるつり上がり、血走ったまま鋭く尖っていく。 その眼から逃れ、行き着いた視線の先には──唯一の希望である、デジタル時計。 と、それに気付いた兄が、僕の視線を追って振り返る。 「………何だ。 さっきから気にしてると思ったら……時計か」 そう独りごちた言葉は、妙に落ち着いていた。 午前零時を、とうに過ぎたというのに。 兄が、ゆっくりと向き直り、僕を静かに見下ろす。 「心配すんな。 ……両親(あいつら)なら、帰って来ねぇから」 「………え、」 その表情は、非道く穏やかでありながら……向ける瞳には、どこまでも深く暗く冷たい闇が広がり…… そこに浮かび上がったのは──狂気に満ちた光。 ───ゾクッ、 帰って……来ない…… その言葉の真意が解らず、真っ白になっていく脳内が、大きく歪む。 いつ……どこでそんな連絡が………? ……もしかして最初から…… 僕を騙して、弄んで楽しんで……た……? 絶望の闇──無数の黒い手が背面から襲い、僕の身体を摑んで暗い底に沈めていく。 「………」 目を見開いたまま兄を見上げていれば、妙に熱い視線を絡ませた兄が、腹を空かせて涎を垂らす、自身の熱い肉を握り込む。 「………もう、逃げんなよ」 視界が濁り、怯えただ震える僕の両足を軽々と抱え── 後孔に、それが静かに宛てられた。 †END†

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