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第2話 城主とのお目通り(2)
だから自分が秋充の元に戻らなくても彼にとっては、失敗したんだなと想像するだけで大した問題ではないだろう。
「……日高玄九朗、か……」
男の自分を嫁にすると言う領主に興味が湧いてくる緋月。
「それにしても……女の着物というのは、すこぶる動きにくいな」
長い裾を踏みつけそうになりながら、緋月は匠佑に連れられて大広間へと向かった。
◆ ◆ ◆
大広間の絢爛豪華な天井桟敷絵と襖絵に圧倒されそうになる緋月。
その部屋の両脇にズラリと並んでいる幕臣たち。
そして、最奥に座 しているのは領主の日高玄九朗。
「……!?」
彼の顔を見た途端、緋月は心の臓が口から飛び出すのではと思うほど驚いた。
「お前……っ!!」
「待っていたぞ」
にっこり笑って軽く右手を挙げているのは、地下牢にて緋月を辱しめた男だった。
「おまっ、お前が日高玄九朗だったのかーー!?」
緋月の叫び声が城内に響き渡る。
◆ ◆ ◆
部屋に入った時は驚きのあまり素を出して言葉遣いにまで気を回すことが出来なかったけど、仮にも領主の嫁になるかもしれない娘を演じる緋月。
武家の姫らしい楚楚 とした態度を心がけつつ、密かに周囲に目を配っている。
「それにしても、緋月様と玄九朗様がすでに知り合いだったとは……」
にこやかにそう言うのは、人の良さを絵に描いたような家老 の日高 主税 。玄九朗の叔父に当たる人物だ。
正体が忍びだとは言えない緋月は、匠佑の遠縁にあたる姫で先日、匠佑の屋敷に遊びに来た折に町に出てならず者に絡まれていたところを、お忍びで視察をしていた玄九朗に助けられたということになっている。
明らかに作り話と判るそれを主税は信じて疑わない。そして、ほとんどの家臣も彼と同じ状態にある。
約二名──老中 の高之瀬 景也 と若家老 の穂波 嗣興 を除いては。
(うーん……。あの二人、俺のこと警戒してるな。……やっぱり部屋に入った時の、第一声がまずかったな)
心の中で溜め息を吐く緋月。
でも、あれは匠佑にも落ち度があったと思う、と言い訳がましく考える。
玄九朗が地下牢で緋月に対して行ったことを、彼が知らないはずはないのだ。自分を手込めにした男が玄九朗だと事前に教えていてくれれば。あんな失態を演じることもなかった。
(あー……、早く部屋に下がりたい……)
景也と嗣興の疑惑の視線を受けながら、緋月は時間の過ぎるのをひたすら待っていた。
◆ ◆ ◆
最初に目覚めた部屋に、匠佑と共に再び戻って来た緋月。どうやらこの部屋が今後、自室となるようだ。
匠佑が去り、一人になった緋月は
(……疲れた……)
女物の着物を着ているにもかかわらず、大の字で部屋の真ん中に寝転び深い溜め息を零 す。
(まさか、あいつが日高玄九朗だったなんて……)
「ただの助平で意地悪な拷問吏 かと思っていたのに」
「玖狼 の格好の時は粋で男前な拷問吏なんだよ」
そんな声と共に、スッと襖が開いて玄九朗が姿を見せた。
慌てて跳ね起きる緋月。
「……っ、何しに来たんだよ!?」
「何しにって、そりゃあ……嫁となる女のところに夜、出向いてすることと言ったら一つしかないだろう?」
あからさまに言う玄九朗。
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