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第1話

 夜は俺たちの世界だ。  俺たちのルールですべてが回る。  黒いコートを身にまとい、ツヤツヤの目で世界を見る。  俺、黒猫。気が付いたらここにいた。あいつも黒猫。いつも一緒にいる。よく似てるのは、多分兄弟だから。母親も父親も覚えてない。ご飯をくれる人はみんな「かわいい双子の黒猫だ」っていう。でも、そこまで似てるとは思えない。  喧嘩っ早い俺と、餌をねだるのがうまいあいつ。  毎日一緒に寝て、起きて、餌を探してる。ナワバリ荒すやつは俺が許さない。  夜になるとあいつは俺の腹に鼻を埋めて寝る。むかしから。そう言うことになってる。  時々、子猫の頃の夢を見るらしい。すぐわかる。そんな時は俺の黒い毛をかき分けて、なにも出ない小さな乳首を一つづつ吸ってる。ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、って規則正しい音がしてる間は、黙って待ってる。俺の方が多分年上だから、がんばんなきゃいけない。ずっとそうしてきたし、これからもそうする。多分、この冬を乗り越えられたらもっと強くなるはずだから、あいつも吸わなくなるかもしれない。でも、そう思うとなぜか寂しくなる。  時々歯を立てられたり、舌でジョリってされるとなんだか落ち着かなくなる。腰の辺りがむずむずしてくるから、少しだけ動く。そうすると、あいつはちょっとだけ目を開けて声を出さずに鳴くんだ。そんなの見たら、もうやりたいようにさせるしかないだろ?  俺達はもうお年頃の猫だ。発情期だって一回迎えた。この辺りは顔のでかいボスねこがいるから、まだ誰にも相手にして貰えない。声変わりすらしてない子猫みたいな声も原因だ。でも、あいつが「その声好き」って言うから、それでいいと思う。  今夜は町の中が変に騒がしい。 「とり!食おう!とり!」 「とり!食おう!とり!」  こうふんした声、もたもたした足取り。こういうときのニンゲンには要注意。ひっくり返ったU字溝の中に隠れて様子を見ていた。  びらびらしたのが目の前を通っていった。動きに反応してつい手を出した俺の首をあいつが噛んだ。 「痛っ!」 「ばか! 捕まるぞ!」 「うん......」  あいつは賢い。ニンゲンのことよく見てる。  うるさいやつらが家の前に立った。いつも餌をくれる女が中から顔を出した。 「とり(Trick)食おう(or)とり(treat)!」  小さいニンゲンが騒ぎ立てる。こういうの、知ってる。餌をねだってるんだ。高いところでピーピー言ってるツバメのヒナと同じだ。  しばらく「とり、食おう、とり」が待っていると、女が何か持ってきた。小さいニンゲンは手で貰って自分で口に入れていた。 「な、あれ見たか!? 食ってたよな!」 「うん、とり(Trick)食おう(or)とり(treat)!、っていってるからとり食ってるな!」  あいつをみると、まん丸の黒い目で、ぴんぴんのヒゲ。きっと俺も同じ顔してる。 「俺もとり、食べたい! ニンゲンに化けてやろうぜ?」

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