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1♡⑥

 俺の疲れきった体と汚れまくったシーツを綺麗にした聖南に、優しく「葉璃ー」と呼ばれた。  キッチンで水を飲んでた俺は、激しかった余韻でヨタヨタしながら寝室へ向かうと、すぐに腕を取られて抱き締められる。 「水飲んでた?」 「わっ、聖南さん…っ。 はい、聖南さんもどうぞ」 「ん、ありがと」  俺をひょいと抱き上げてベッドに横たえた聖南は、受け取ったペットボトルの水を一気に飲み干した。  そりゃそうだ。  唾液だけじゃ水分補給にならないよ。  六時間は眠れるように調整したからな、って聖南はドヤ顔してたけど、ゴム付けるとか言って付けてなかったから結局シャワーでお尻を洗って、……そこでもう一回した。  お湯にあたりながらってのぼせるから、ベッドでするよりもすごく疲れるんだ。  俺より運動量が多いはずの聖南がピンピンしてるのが、不思議でしょうがない。  これがほぼ毎晩なんて、やっぱり…こんなに毎日エッチしてるカップルってそうそう居ないよね…? 「葉璃、今日は俺が晩メシ作って待ってるからな」 「………? 聖南さん今日早いんですか?」  何より安眠出来るかもしれない聖南の腕枕に落ち着くと、顎を持ち上げられてチュッと唇を啄まれた。  些細な隙も逃さない聖南と目が合って、瞬きを繰り返す。 「そうなんだよ。 午後からHottiの担当と打ち合わせして、事務所寄るだけ。 遅くとも八時までには帰ってんだ」 「そっか……でも無理しなくていいんですよ? 俺があんな事言ったから気にしてるんでしょ?」 「…うん、まぁ。 あとポイント稼ぎ…かな」 「何のポイントですか」 「葉璃ちゃんがオナってるとこ見たいから…痛てっ」  聖南のパジャマである黒のスウェット越しに、二の腕目掛けて猫パンチをお見舞いしてやった。  かれこれ五時間以上前の話を持ち出してくるなんて、信じられない。  いくら頼まれても、謎のポイントが貯まっても、恋人だからって見せられるもんじゃないと散々言ってるのに。 「いーやーでーすー」 「何でだよ、約束したじゃん!」 「じゃあ、……フェラ、させてください」 「はっ? イヤだ!」 「ほらまた……俺にはさせてくれないのに、聖南さんのワガママだけは聞けませんっ」  やたらと俺が口でするのを拒む聖南も、俺と同じく即答だった。  これだけ愛し合う時間がたくさんあっても、俺が聖南のものを咥えた事は片手で足りるほどしかない。  俺が触れようとしたら逃げるし、舐めたいって言ったらキスで誤魔化される。  下手くそだから嫌なんでしょって言っても、そうじゃないと言い張る聖南の言い分は「悪い事させてる気になる」んだって。  …意味分かんない。 「このぉ…! ツンツンしてんのもかわいーじゃねぇか! て事は次はデレがくるんだろ? 仕方ないなぁ、そこまで言うなら…って」 「そんなつもりで言ってないですよ! ツンもデレもありません。 ダメなものはダメっ」 「はるちゃーん……」  ぎゅむっと強く抱かれた俺は、ついうっかり聖南の術中に嵌まらないように、眠気と疲労感を忘れてなきゃいけなくなった。  甘えた声出してうなじを嗅ぐ、…俺をキュンキュンさせるこの作戦が効果的なのを知ってる聖南を見上げて、ムッと膨れる。 「聖南さんの意地悪っ」 「葉璃ちゃんの意地悪!」 「…ぷっ……!」  すかさず被せてきた聖南の真顔が可笑しくて、肩を揺らして笑ってしまった。  笑っているとほっぺたをぷにぷにと摘まれて、二人で潜り込んだ掛け布団の中で「やめて、やめない」の言い合いになる。  俺が音を上げるまで聖南にちょっかいをかけられて、疲れて降参するのはいつも俺だ。  聖南の胸元にぎゅっと顔を押し付けて降参の合図をすると、意地悪にあちこちをぷにぷにしていた手のひらが背中に回って、ゆっくりと宥めるように擦ってくれる。  聖南の香水と、柔軟剤と、アロマランプから香るハーブのいいにおいとに包まれて、瞳を閉じた途端に眠気が襲ってきた。  ───安心するなぁ…聖南相手だとすぐにこうやって甘い空気になるんだもん…。  じゃれ合いで体も温まって、心地良い手のひらの動きにウトウトしかけた俺は、すぐにでも寝付けそうだった。  …それなのに、またしても聖南の呟きに叩き起こされる。 「まぁこれから時間はたっぷりあるからな。 いつかオナってるとこも洗ってるとこも見せてもらお」 「なっ…見せませんってば! 聖南さんの舐めてもいいなら、……ちょっとだけ考えてあげます」 「それすげぇ嫌なんだけど、あ〜…どうしよ。 葉璃が舐めるとか言うから、想像したらまた勃ってきたじゃん…」 「えっ? だ、だめですよ! もう…!」 「分かってるよ」  穏やかだった聖南の手のひらが、パーカーの隙間から直に背中を撫で始めて嫌な予感がした。  今日二人ともが奇跡的に午前フリーだからって、いつもよりたっぷり愛し合ったあとだよっ?  少しは寝かせてくれるんじゃなかったの?  サラサラと背中を撫でる手のひらに気を取られていると、腕枕してくれてた腕もいつの間にか、俺の肩を掴んで逃すまいと押さえ込んでいた。 「いや、分かってないですよねっ? ちょっ…」 「これは葉璃のせいだよ」 「なんで俺のせ…っ、ん、んっ…!」 「今度こそゴムするから。 言わばアンコール」 「聖南さんっっ」 「もうダメって言ってたくせに煽るなんて…困った奥さんだ」 「……………!」  俺のせいにしてニコッと八重歯を見せて笑う聖南に、信じられない…と睨み上げてみても無駄だった。  歳上で、アイドルで、絶倫で、甘え上手で、困った旦那様なのはどっちなの。  頬擦りされて、うっとりする美声で「一回だけしよ」なんて耳元で囁かれたら、……拒める人は居ないよ…?

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