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1♡⑤※

 分かった分かった、ってそんな口振りだったから信じたのに、聖南は俺の唇を食みながら麗しい表情をして腰を進めてくる。  窮屈な内が聖南でいっぱいに満たされて、脳がピリピリ痺れてぼーっとした。  痛みも恐れも不安もない。  あったかくて気持ちいい波が、繋がったそこからじわじわと全身に広がる。 「んんん……っ! ぅぅっ……せな、さん……っ」 「葉璃、もっと舌出して」 「んむ……っ、むっ……っ! んん……」  言われた通り口を開いて聖南を待つと、すかさず絡み付いてくる。湿った甘やかな舌に性器がずくずくと疼いた。  意識も呼吸も乱れてる俺に向かって、髪をかき上げたギラついた獣が口付けの最中にも関わらず薄っすらと微笑んだ。  唾液の交換は聖南をひどく安心させる効果があって、飲み下すごとに機嫌が直ってくのが分かった。 「……許さねぇからな、俺の事手放したら」 「……っ! ……っん、んっ……んんっ……!」 「葉璃だから好きなんだ。葉璃じゃねぇとダメなんだ」 「むっ、ん、……んっ、ん、っ、……っ」 「葉璃は俺のために生きろ。何も考えなくていい。いい加減自覚しろよ、日向聖南に愛されてるんだって事」  言いながら慈しむようにほっぺたに触れられた手のひらが、汗でしっとりしていた。  ゆっくり動くなんて聖南には物足りないはずなのに、俺がいいよって言うまで我慢してる歳上の恋人はほんとに……可愛い。  前科のあり過ぎる俺が、すぐにフラフラとどこかへ行ってしまう不安にぐるぐるしちゃう聖南を見上げると、愛しい視線とぶつかって心が弾んだ。  聖南の言う通り、俺達の間に性別の壁なんてあって無いようなものだけど、聖南に迷惑だけは掛けたくない。  俺が不安を感じる暇もないくらい、朝晩を共にし始めてからの聖南は以前にも増して愛情表現が濃くなった。  それだけに俺は聖南の重荷になりたくなくて、聖南がいつまでも愛してくれるという甘えに浸り過ぎないように、本当の意味でぐるぐるしてる事は言わないようにしていた。  だから今日の失言は絶対にあってはダメだったんだ……こうなるから。  背中をぎゅっと抱き締めると、背骨が折れてしまいそうなほど強くかき抱かれて、悲しくもないのに涙が出そうになった。  俺は一度も返した事のない「愛してる」。  愛してる。  こんなにも、愛してる。  聖南が居ないと生きる意味なんてないんだ。  考えたくないもしもが起きたら、大好きな人も、指標も、目標も、すべて見失ってしまうから、俺はもはや言われるまでもなく聖南に生かされてると思う。  それなのに言えない、意気地無しな俺──。 「…………葉璃ちゃん、……」  ゆるゆると抜き差しを繰り返す、俺を求めてやまない聖南のものがはち切れそうに昂っている。  強い光を放つ美しい眼差しが、俺の視界の先で揺れた。  おでこにチュッとキスを落として頬擦りする、大きな肉食動物のスキンシップは……そろそろ我慢できないと甘えて催促してる証。  不機嫌だった感情も流してしまえるくらい、すんなりと欲に負けた聖南の分かりやすい懇願は、ドクドクと落ち着かない俺の心臓を鷲掴んだ。 「……も、もう……動いて、……いいよ」 「待ってました」 「ぅあっ、……っ……やぁぁっ……待っ……お腹、くるし……い……っ」 「待ったナシ。昼まで寝かせてやっから」 「んん……っ、んっ……ぁあっ……!」  広い背中に回していた腕が解ける。  体を二つ折りにされるかと思った。  両脚を持って高々と抱え上げられて、聖南はググッと腰を俺の下半身に押し付けて襞を擦る。何度も、何度も。  恥部が痛みを伴わないように、さりげなくローションを足す手付きが妖しくてエッチで、もっと恋人をよく見てたいのに瞳が開けられない。  シーツを握りながら、真っ暗闇で突き動かされる激しい熱情に耐えた。  擦られる度に漏れ出る、俺の恥ずかしい声に満足そうにやらしく笑う聖南の顔が浮かぶ。  同時にテレビの中で歌って踊るキラキラした聖南がよぎって、薄っすらと瞳を開けると、抱え上げた俺の太ももにキスマークを付けている聖南が見えた。  高い鼻先が腿の内側をくすぐって、絶え間ない愛の波に揺れつつ心を燃やす。 「葉璃……どこにも行くなよ、……俺のそばに居て。頼むから、俺を不安にさせるな」 「……っ……、あぁっ……ごめ、ごめんね……、ごめんなさい……せな、さん……っ」 「葉璃は誰のもん?」 「せなさん……! せ、な……せなさんの……!」 「忘れるなよ」 「あっ、……っ……やっ、……せな、さっ……も、だめ……っ、んんっっ……」 「……葉璃……」  揺れる体が、甘過ぎるキスが、押し寄せる波と悦楽による痺れが、室内に響くベッドの軋む音が、夢のようにめくるめく。  毎晩囁かれる言葉の数々が、耳から脳に伝わって震えるほど歓喜した。  染み渡っていく聖南からの愛情に、極々感動してたちまち酔いそうだった。

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