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 他アーティストの楽曲をカバーするのは初めてではない。  だがしかし、視聴者からのリクエスト第一位だったその楽曲のアーティストというのが、まだメンバー全員が未成年という五人組男性アイドルグループで、初々しい彼らの代表曲と言ってよいものなのだ。  洗練されたキャッチャーなメロディーといい、歌詞といい、振付けといい、なかなかに可愛らしい。  完全なる別ジャンルではないものの、どちらかというとETOILEに向いたそれが何故か、視聴者が選ぶCROWNにカバーしてもらいたい楽曲一位だった。  三年前に発売され、ランキングにもトップテン内にしばらく常駐していたその曲はもちろん聖南達もよく知っていて、本人らとも面識がある。  聖南とケイタは難無くそのアイドルらしさを表現出来るが、アキラは若干の照れを見せながらマイクスタンドを握っていた。  揃いの淡いクリーム色のスーツが、より「らしさ」を際立てている。  僅かな練習期間にも関わらず、完璧にコピー出来たのではと自負する聖南はカメラ目線で手銃を決めながら葉璃を思った。  今前室で、恭也と共に聖南の勇姿が映るモニターを眺めてくれているだろうか。  頑張ると言った葉璃はまだ、聖南の背中を追いたいと思ってくれているだろうか。  生放送でCROWNとETOILEの出演が被る事自体が久しぶりだったので、Lilyの件はともかく、内心では聖南もアキラとはまた別の照れくささがあった。 『切り替え、切り替え……っと』  三人揃って斜め上を向いてポーズを決め、フリーズする事五秒。  続いて流れ始めた二曲目はCROWNの持ち歌だ。  去年の冬、ツアー中にはすでに書き始めていたCROWN初のミディアムバラード。 これは年明け、ケイタが主演を張った連続ドラマの主題歌である。  ケイタ扮する青年が聴覚障害を持つ女性に恋をし、最後までその青年目線で描かれた切ないラブストーリーは、業界のみならず視聴者からも未だ根強く続編を待つ声が上がるほど、素晴らしい作品だった。  いつものCROWNの雰囲気を脱し、重たい題材を扱うラブストーリーに見合ったものを創造するのはかなり難易度が高かったけれど、脚本を読むとすぐにメロディーが降りてきた。  ドラマ自体は悲しいストーリーではないので重くなり過ぎないようミディアムバラードに仕上げ、主役であるケイタのソロパートを増やし、サビの振付けはケイタに頼んですべて歌詞に沿った手話にしてもらった。  そのためマイクスタンドによる歌唱となったわけだが、今日に限っては楽曲の温度差が否めない。  異なる趣きの二曲を披露し終えた三人は、メロディーが鳴り止んで再び五秒、その場で前を見据えた。  司会者から『CROWNの皆さん、ありがとうございました!』と声が掛かってからようやく、聖南の顔に笑顔が戻る。  エンディング前のCM中に、その日出演したアーティストがずらりとスタジオに勢揃いした。  台本通りであれば、聖南はこのエンディングでも司会者から短いトークを振られる。 『あっ……葉璃っ♡』  CROWNの隣にやって来た恭也と葉璃、……特に葉璃は華やかな赤いスーツ姿でいつものガチガチに戻っていて、恭也の背中に隠れるようにして立っていた。 『今回この番組では二度目の先輩後輩共演でしたが、セナさん、いかがでしたか?』 「いいっすよね。 絶妙な緊張感で」 「セナ緊張するのか?」 「いや俺じゃなくてETOILEの二人が」 「だよね。 恭也は緊張分かりにくいけど」 「緊張、してますよ……」 「ハル君はどう? 緊張した?」  笑いながら二人を見ると、まずい事にケイタが話を膨らませてしまった。  まさかエンディングで矛先が向くとは思っていなかったらしく、苦笑する恭也の背後でピクッと肩を揺らした葉璃は、「気配消してたのに……」と表情で語り頬を引き攣らせる。 「は、はい……」 「本番中のハルの通常がこれなんだから分かるだろ。 わざわざ振るな、ケイタ」 「ケイタお前……大塚随一の耳垂れうさぎをこれ以上プルプルさせたら許さねぇぞ」 「そんなつもりないよー! セナもアキラも目が怖いんだけど!」 『楽しいトークの途中ですがお別れの時間となってしまいました! ご出演頂きましたアーティストの皆さん、番組をご覧くださった視聴者の皆さん、ありがとうございましたー!来週は通常通りの放送となりまーす!』  聖南や葉璃を抜いていたカメラが、横並びになった九組のアーティスト達を次々と映す。  最後に司会者と、その隣に居た聖南が抜かれると、聖南はすかさずカメラ目線で視聴者に向けてキメ顔をして見せた。  悲しいかな、カメラを向けられるとついついやってしまう。  聖南達三人は恭也と葉璃を連れ、共演したアーティストと司会者、スタッフ等とそれぞれ挨拶交わしてからスタジオを後にした。  特にLilyの面々には意味深な笑顔を送っておいた聖南は、いつからこんなに他人を許せなくなったのかと考えたが、すぐにその答えは見付かる。 「変なとこで終わっちまったからラジオで諸々説明しないとだぞ、セナ」 「覚えてたらするわ」 「セナが忘れてても俺が覚えてる」  今日も例外なく髪を巻かれている葉璃の隣を陣取り、楽屋までの廊下を歩いているとアキラから背中を小突かれた。  彼の映画の主題歌なので気になるのかもしれないが、面白いと言ったバンド形態での新曲なら早々にイメージは湧いている。  心配するな、とアキラを振り返り、ケイタも交えて二言三言会話をした。 「あっ? あっ? 葉璃どこ行ったっ?」  前を向いてすぐ、隣の気配が無い事に気が付く。 長身を活かしてキョロキョロと辺りを見回すが、ほんの数十秒の間で忽然と葉璃の姿が消えた。 「え、今の今までセナの隣居たじゃん」 「……恭也、何してるんだ?」  アキラとケイタも首を傾げながら辺りを見回すと、会話に夢中だった三人の後方で、恭也が楽屋を指差して立ち止まっていた。 「葉璃なら、この楽屋、入りましたよ」

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