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 大人の余裕というものが皆無となった聖南は、無言でその細い腰を抱いて突き上げた。  洗浄はもちろんシャワーも許さず、帰宅してすぐ葉璃をベッドに押さえ付けた聖南はまさに正気を失っていた。 「……っ……、……っ……」  ───葉璃が泣いている。  かれこれ二時間は休み無く葉璃を貫いているが、その間、聖南が一言たりともものを言わないので「こわい」としきりに泣いている。  こんな事はしたくない、……したくないのに、大事な場面で大人になりきれない聖南の幼心が爆発した。  葉璃にはありったけの愛情を注いで、抱き締めて、頬擦りして、微笑み合っていたいのに。  常日頃から、もしも葉璃が居なくなったらの妄想をして死にたくなる、聖南の葉璃への依存具合は、もはや病的と言っていい。  葉璃がたとえ独りで悩んでぐるぐるしていても、最終的には自分という砦があると聖南はたかを括っていた。  ……居なくなったらの妄想と共に、相反する思いもある。 葉璃のすべてを知り尽くしている、葉璃にはもう聖南しか見えていない、そういう自惚れだ。  たかだかルイと視線を交わし合っただけでヤキモチかと、アキラとケイタは鼻で笑うだろう。  断じて、そうではない。  聖南の知らないところで、よく知りもしない誰かと接触し、あの葉璃が他人に向かって感情を顕にするというのはそれだけ、聖南が我を忘れてしまうほどの一大事なのである。 「…………葉璃、もうちょい足踏ん張って」 「んん……っ、っ……っ……」  二時間ぶりに発した言葉がこれだ。  休憩無しのぶっ通しセックスは久々で、脱力しヘバっている葉璃に四つん這いを強いた聖南は、ぺたんこの腹を持ち上げてグッと性器を孔の中にねじ込んだ。  隙間なく密着した下腹部が、ぐちゅぐちゅっと卑猥な音を立てる。  最奥を突いて数秒は亀頭を迎え入れた襞がぐにぐにと蠢き、その存在を認識するとぎゅっと締め付けてくる内は絶倫を誇る聖南でさえ我慢がきかなくなる。  その性器への刺激で一気に射精へと導かれるが、自身の限界も葉璃の内側もすでに熟知している聖南にとって、時間が許すのならいつまででも葉璃を愛していてやれる。  枕にしがみつき、聖南からの容赦ない挿抜に身を震わせる葉璃は聖南のものだ。  快感にさえ疎かった葉璃の性は、聖南が開発し、拓いた。  聖南の顔が見えないからバックが嫌いだと可愛い事を言う葉璃も、今や長時間に渡るしつこいセックスに我を失う事も少なくない。  最近では初々しく乱れてくれる事も多くなった。  だから、嫌なのだ。  葉璃のすべての最初と最後は、自分でなければいけない。  何もかも、聖南は葉璃についてを知っていなくてはならない。  誰が、聖南がまだ気を許していない相手と関係を深めていいと言った?  なぜそれを隠していた?  葉璃が見詰めていていいのは聖南だけなのに、二人の間に何かがあると匂わせておいて語ってくれないのはフェアじゃない。 「せな、……さんっ……なに……っ? こわ……い、んぁあっ……」 「もうイく。 終わったら話するから今は我慢して」 「あっ……っ……っ、……っっ!」  じわりと振り返ってきた葉璃をギラついた瞳で射抜き、努めて冷静にそう言った。  ラストスパートのために強く腰を掴んだ聖南は、イエロー交じりの茶髪を振り乱して素早く中を抉る。  あまりに激しい挿抜にベッドが波打つように揺れ、動きに合わせてギシギシと軋んだ。  すでに放った精液と、微量とは言えない先走りを溢れさせた先端で最奥を突き、そのまま腰を回してもっと奥へ奥へと挿入っていこうとする。 「あ、っっ……あぁぁっ───!」 「…………ッ……」  あともう少しだけ抜き差しを繰り返そうとしていた聖南の小さな計画は、葉璃の射精によって聖南の性器を絞り上げた事で潰された。  蠢きながら締め上げてくる内襞が、射精すらままならないほど熱く脈打つ。  その瞬間、腰だけでなく聖南の背中から震えた。  正気を失っていた聖南だったが、怒りと嫉妬に任せて思いのままに葉璃を抱くといくらか気が休まってくる。 「はぁっ……はぁ、っ……」  上体をベッドに沈めた葉璃は、女豹のポーズのような格好でなおも聖南を誘惑してくるが、そろそろ本気で嫌われてしまうとようやく頭の中が冷静さを取り戻してきた。  繋がったそこで葉璃の存在を確かめながら、背後から覆い被さって支配欲を満たすが如くうなじを舐める。 「んっ……」  ピクッと体を揺らした葉璃が敏感に反応し、恐る恐るといったように聖南に腕を伸ばしてきた。 「……せなさん、ぐるぐる……してるの……?」  その腕を掴むと、葉璃は力無く聖南を見て可愛く首を傾げ、掠れた声でそう問うた。  聖南がこうなるのは、恥ずかしながら初めてではない。  理由も無く葉璃を押さえつけたりなどしないと、彼はもう分かっているのだ。 「…………あぁ、ぐるぐるしてる」 「体、起こして」 「……ん」  繋がったまま、聖南はタメ口葉璃の腕を取って上体を起こしてやると対面座位の格好で抱き締め合った。  腕の中からじわじわとこちらを向いた葉璃に、怒りの目を向けられてもしょうがないとは思いつつ嫉妬に狂った激情は止められない。  葉璃の最終兵器は、聖南にだけ向いていればいい視線。 この顔も、体も、聖南だけが愛する事を許されている。 「聖南さん、ぐるぐる」 「……揶揄ってんの?」 「聖南さんのぐるぐる、久しぶり」 「……葉璃が悪いんだからな」 「うん、……俺が悪い。 ぐるぐる聖南さん」  我が物顔で私欲と嫉妬心を満たそうとしていたのは、大人げない聖南の方だったはずだ。  本当は聖南だって分かっている。 葉璃は悪くない。  些細な事で我を忘れるほど愛してしまっている聖南が悪いが、葉璃が可愛過ぎるのも存分に悪い。

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