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7♡9
聖南の不機嫌のバロメーターである下唇は健在だ。
今の今までご機嫌な子どもだったのに、今度は大好きな人を取られるかもしれない不安とヤキモチで駄々っ子全開になってる。
ほんとにもう……子どもみたいにコロコロと機嫌が変わるなぁ。 これだから歳の差感じないんだよ。
でも俺は、こんな聖南を見てても不思議と穏やかでいられる。
出会った頃より感情表現が豊かになったと目に見えて分かる内面の変化は、俺との出会いによるものだって自惚れちゃってるところがあるから、どうしても愉悦を覚える。
聖南との関係についてだけは卑屈さを出さなくてよくなった、俺にも聖南と同じ内面の変化があるからだ。
離れたくないっていうのがまず根底にあって、俺がどれだけぐるぐるしちゃって逃げたとしても、聖南なら捕まえてくれるという甘えもやっぱりあったりして。
このヤキモチ焼きの膨れっ面は俺への愛情を余すことなく示していて、場違いにも関わらずキュンキュンしてしまう。
「……俺には見せねぇ顔、いっぱいだった」
「でも、あれはルイさんが……。 はい、あーん」
「あーん」
駄目だ。 ニヤついてしまう。
いちごのヘタを取ってフォークに刺し、聖南の口元まで持っていくと自然と唇を開いてパクついた素直さに、またニヤけた。
聖南がヤキモチ焼いてぐるぐるしてるの、ほんと好きだな。
俺と同じくらい分かりやすい聖南のぐるぐるは、いきなり激しいエッチを仕掛けてくるか、ムッとしながら俺に甘えつつイジイジしてるかの二パターンあるんだけど、どうやら今日は後者みたいだ。
「葉璃達が来る前、俺も頑張って社長に猛抗議したんだぞ。 ヒナタの件もあるんだし、ルイが葉璃の付き人なんて許せるかっつって」
「………………」
思ってた通り、俺達が到着する前から聖南はその事で沸々としてたみたいだ。 あげく、聖南の嫉妬がメラメラになっちゃうような現場を間近で目撃させてしまった。
俺とルイさんのやり取りをすぐそばで見てた恭也もビックリしてたから、メラメラも当然か……。
「ごちそうさん。 葉璃ちゃんありがと」
「いえ、そんな……」
聖南はケーキを平らげると、手を合わせて俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。
そしてマグに残ったコーヒーを飲み干し、仏頂面のままポケットからスマホを取り出す。
2と5のロウソクと空っぽになったお皿を撮影して満足そうに頷いた聖南は、首を傾げていた俺を無言で抱き上げ、ベッドに運搬した。
横たわった俺の唇の端に付いたクリームを舐めた聖南は、上から覆い被さるようにしてまるで甘えるみたいに抱き竦めてきた。
「……葉璃、頼むから目移りするな。 アイツの才能には惚れてもいいけど、俺以上に好きになるなよ」
───え……?
逞しい腕の中から、聖南の揺れる瞳を見詰める。
聖南、……俺とルイさんのやり取り聞いてたよね? 才能に惚れる惚れない以前の話だって、聖南は分かってるもんだと思ってた。
「……ど、どうしてそんな事……」
「葉璃、ルイのダンス見て俺の動きに似てるって言ってたろ。 何回もループして見てたし。 ルイはあぁ見えて歌唱力もあって、今の時代にビブラート使わねぇ歌い方すんだよ。 恭也とは違った声だしな、葉璃の声とうまく調和する軽めの声質だ」
「聖南さん、……それって……」
「ルイはETOILEに入るべきなんだよ。 他の候補者のデモ見ててこんなに遅くなっちまった。 ……ごめんな、自分の誕生日すっかり忘れてた」
なんだ……そうだったんだ……。
てっきりこの時間までレイチェルさんと一緒なのかと思ってた。
美男美女が深夜に、しかも密室で肩を並べてるなんて絶対何かが起こるってネガティブな妄想で泣いてしまいそうだったのに、まさかETOILEに関する仕事をしてたなんて……。
「デモ、見てたんですか? レイチェルさんと一緒じゃ……」
「あぁ、社長と三人でのメシは付き合わされたよ。 でもその後は事務所にこもってた」
「そうなんですね……」
ルイさんと俺の事でぐるぐるしてた聖南と、レイチェルさんと聖南の事でぐるぐるしてた俺。
いつから俺達は似た者同士になったのかな。
間違いなく愛し合っていて、誰にも横槍入れられないくらい想い合ってるのに、二人ともが付き合い始めた頃よりもぐるぐるの頻度が倍増してる気がした。
聖南の瞳がギラついたのを察知して、俺はおとなしくパーカーを脱がされる。
今日はちょっと遅いから、いつもの「二時間」は難しいかもなぁ…なんてドキドキしてると、眼鏡聖南は俺の乳首を食みながら野性的な瞳を寄越した。
「葉璃ちゃん、プレゼント代わりに後ろ舐めさせて」
「えっ、い、イヤっ」
「お願い♡」
「えぇ……違う事にしませんか? あっ、俺が聖南さんのを咥えるのは? がんばってご奉仕します!」
「そ、それはプレゼントじゃねぇ! フェラはしないでよ、頼むから」
「……でも……俺、何もあげられないのに……」
「なんでそんなに俺のを舐めたがるんだよ〜」
「聖南さんこそ、なんでそんなに俺のお尻舐めたがるんですか!」
「美味しいからだ!」
「俺も聖南さんのそれが美味しいからです!」
「……………!!」
俺はお尻を守り、上体を起こした聖南は両手で股間を守っている。
本気で嫌がってるわけじゃないって知ってるんだからね、聖南。
俺が聖南のものを咥えるなんて、悪い事させてる気になるからダメだっていつも言う常套句は俺にはもう通用しない。
綺麗で純粋だった俺は、他でもない聖南の色に染められてしまったんだよ。
「聖南さん、お誕生日おめでとうございます」
「待て、葉璃っ。 待て! 落ち着け! 俺がその顔に弱いの分かっててやってんだろ! ニコーって! かわいーな!」
「聖南さんの……おっきぃ……」
「……葉璃ちゃーん……」
俺の事を強く押し退けきれない聖南は、力無く後ろ手に肘を付いて降参した。
主導権を握ってみたものの、どうやれば「ご奉仕」になるのかを考えてた不甲斐ない俺は……その後の事を実はあんまり覚えてない。
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