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教えてない。 こんな事やそんな事は教えてない。
喉ギリギリまで呑み込んだ性器の裏筋を、れろれろと舐め上げつつ唇で吸い上げるなんて事は教えていないのだ。
まだまだ拙いものの、前回よりも舌使いが格段にうまくなっている。
ただでさえ聖南のものは葉璃の口には大き過ぎるため、あまり奥まで入れると嘔吐反射が出るだろうからやめろと言ったのだが、葉璃は涙目になりながら首を振った。
我が分身を愛おしげに握り、さも美味しそうに咥えて、なかなか離れようとしない恋人が望んでもいないのに何分も股に居る。
諦めた聖南は眉を顰めてベッドに両手を付き、天井を仰いだ。
咥えたまま頭を動かさないでくれ。 可愛い歯先がちょくちょくあたって刺激が増えてしまう。
四つん這いになって聖南のものをしゃぶる葉璃のパーカーからは、白くて華奢なお御足が覗いていてやたらと興奮した。
時折聖南が喉を鳴らすと、そこが性感帯だと察知した葉璃の執拗な舌攻撃が始まる。
それほど夢中にならなくていいと内心では思っていたが、快感と罪悪感がせめぎ合っていてどうしたらいいのか分からない。
見下ろせば、眼福で肉感的な光景。
一番の性感帯には「ご奉仕します」とやたら張り切る、健気で可愛い恋人兼、未来の妻。
最高の誕生日ではないかと誰しもが羨む状況だろう。
しかしながら、聖南は素直に快楽に身を任せられない。
だがこれほど上達した技巧を味わうと、またしても架空の対者にヤキモチを焼いてしまう。 葉璃の頑張りが、嫉妬狂いな聖南の心を甘やかに焦がしてゆく。
「う、っ、ちょっ……やば、っ……葉璃っ」
ぴちゃぴちゃと軽い粘膜音を立てて、ぎこちない舌と唇がこれでもかと聖南を追い立てる。
竿を伝う自身の唾液を舐め取ろうと、いたいけな葉璃から一気に裏筋を刺激された時には早くも波に攫われていた。
葉璃の利き手で素早く扱かれ、つるんとした先端をペロペロと舐めては吸われ、それを飽きる事なく五分以上もされ続けてはたまらなかった。
「葉璃、っ……離せ……!」
聖南は葉璃のおでこを押し、射精しそうだと訴える。
しかし葉璃は、扱く手を止めないばかりかまたもパクッと亀頭を含んだ。
温かい口腔内に収まり、聖南の先走りから何から全てを絞ろうとするように強く吸われては、一溜まりもなかった。
「───放せっつの! あ、葉璃ちゃん! 飲むなよ、飲むなよっ?」
聖南は慌てて葉璃の口から性器を引き抜くと、両手で受け皿を作り、いつかのデジャヴだと苦笑しながら葉璃の顔の前に持っていく。
「……んくっ……」
「ま、また飲んだのか……?」
あるのか無いのか分からない喉仏をまじまじと見詰め、葉璃が口元を手の甲で拭う様に見惚れる。
快楽に流されていったはずの罪悪感が、じわじわと頭をもたげた。
「飲みました。 やっぱ美味しいものではないですね……。 でも、好きです。 聖南さんの、好き……」
「…………葉璃ちゃん、エロ過ぎ」
「んんっ」
精液を飲んで恍惚とした表情を浮かべるなど、反則中の反則である。
ぺろ、と舌先を見せる欲情した葉璃の瞳は、彼を溺愛する聖南には目の毒だった。
「舌出して」
「……っ、んんむーっ!」
わずかに開いた唇に噛み付くと、自身が放ったものの味が濃く香る。
いつもの如く、聖南は唾液を飲ませた。
そんなものを飲ませてごめん、と心の中でたっぷりと謝りながら、本日一発目で多かったはずの精液達を中和するべく葉璃の口内を弄った。
自身の精液の味など知りたくもなかったが、ご奉仕されてしまったので文句も言えない。
未だ納得は出来ないけれど、気持ち良かったのだ。 ……かなり。
「眼鏡外してい?」
「あ……っだめ……っ、だめっ」
黒色のパーカーと下着を脱がせ、全裸の葉璃をふわっと抱き締めた聖南は眼鏡に指を掛ける。
今度は聖南が、これでもかと葉璃を愛さなくてはいけないので正直言って眼鏡は邪魔だ。
けれど、キスでトロトロになったはずの葉璃の動きは早かった。
外さないでと瞳で訴え、聖南の腕にしがみつく葉璃の必死な様に苦笑が漏れた。
「そんな眼鏡かけてるの好き?」
「すき……!」
「眼鏡が好きなのか、俺が好きなのか分かんねぇよ」
「……っっ……んっ……」
「どっち? どっちが好きなの? 葉璃ちゃん」
ちゅ、ちゅ、と顔の向きを変えながらキスを落とすと、恍惚としたまま葉璃の唇が動く。
「せなさん……んっ……せなさん好き……」
「俺も葉璃のこと好きだよ。 愛してる。 愛してる」
「んっ……」
「愛してるから、舐めさせて」
「んんっっ!?」
「今日は葉璃の望み叶えてやったんだから、俺のも叶えてくれるよな?」
「ま、待っ……それはちょっと……っ」
「だめ?」
「……っ……!」
この時、ギラついた聖南の願いが一つ増えた。
葉璃と一生一緒にいられますように。
後ろを好きなだけ舐めさせてもらえますように。
眼鏡姿の聖南をこよなく愛してくれている葉璃に、小首を傾げて至近距離から見詰めてみる。
「葉璃……」
「……っっ……!」
「好きだよ、葉璃」
「…………っっ!」
葉璃の瞳が♡マークなうちに、姑息な手段を使い猛プッシュしてやった。
舐められるよりも舐めたい。
施すよりも施してやりたい。
聖南は元来のマメさと尽くしたがりな性分で、葉璃にだけ見せる甘えもワガママも本人は熟知していた。
「…………少しだけ、ですよ……?」
伏し目がちに俯いた可愛い恋人から、念願の答えが聞けた。
お仕置きでも怒りに任せてでもなく、葉璃の承諾の下で出来るとは素晴らしい誕生日だ。
「うんうん、少しだけな? ここもイジってやりてぇから前から舐めてい? あとヘソも好きだけ舐めたいんだけどいいよな?」
「なっ……そんなの聞かないでください!」
「ふっふっふっふっ……」
見事に浮かれた聖南の瞳は、葉璃が見た中で一番ギラついていると言っても過言ではなかった。
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