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… … …
「……どうしたの、ハル君」
明日の生放送特番のリハーサルのため、CROWNの入り時間に合わせてやって来た葉璃は聖南の姿を見るなりぷっと頬を膨らませた。
それは見事に、いつも以上に膨らんでいる。
ここにはすでに慣れ親しんだCROWNの三人しか居ないため、聖南は「おいで」と両腕を広げるも空振りに終わった。
朝から葉璃はこんな調子なので、聖南は驚くでもなく怒るでもなく、静かに腕を下ろして両ポケットに収めた。
「すみません、なんでもないです」
「ほっぺた膨らみまくってるよ? 何に怒ってるの?」
「…………聖南さんに」
「えぇ、また喧嘩? 二人とも懲りないなぁ」
葉璃に近付いたケイタが呆れ顔で聖南を振り返ってくるが、昨夜の楽しい行為が未だ鮮明である聖南にはまったく効かない。
しかも葉璃の怒った風船顔は何時間でも見ていられるほど可愛いのだ。
誰にどう窘められようが、失敗に終わった聖南のお仕置きはいつでも正当化出来る。 尚且つ、ツンツンした葉璃も可愛いとしか言い様が無い。
聖南は至って冷静に言い返す。
「葉璃が一方的に怒ってんだよ。 俺が怒らせたっつーか」
「何で怒らせることをするのさ。 ハル君そんな怒るような子じゃないじゃん」
確かにケイタの言う通りだ。
しかし葉璃の公開AVなど、器が極小で嫉妬の鬼である聖南が許せる案件では無かった。
ポケットチーフを解いてからは葉璃も存分に啼いていたし、ベトベトになった下着が気持ち悪いと半泣きではあったがまんざらでも無さそうだった。
聖南はゆらりと葉璃のそばへ行き、ここにアキラとケイタしか居ないのをいい事に堂々と風船顔の葉璃を抱き締めた。
「はるーまだお尻ムズムズする?」
「ふんっ」
「あ、プイッてするな。 いい加減機嫌直せよ。 気持ち良かったろ? いつもと違うプレイしたと思えばいいじゃん」
「…………聖南さんっ」
人前でする話ではないとでも言いたげに、葉璃は聖南の胸元を押して猫パンチを繰り出す。
その拳をあっさりと受け取った聖南は、とりあえずむくれた葉璃を腕の中にしまい込んだ。
抱き寄せてしまえば、葉璃はおとなしくなる。
どんなにご機嫌斜めであろうと、聖南が優しく宥めるように葉璃の背中を撫でてやれば一発で彼の膨れっ面は治った。
「え、なになに? プレイ? どんな? 昨日どんなプレイしたの? ハル君がこんなに怒るようなプレイってどんなの?」
「……あーあ、ケイタがこうなったら話すまでしつこく聞いてくるぞ、セナ。 ハル、俺と会場見に行こ。 二人の話聞いてらんねぇだろ」
お茶を片手に興味津々なケイタに苦笑したアキラが、おいでおいでと葉璃に手招きした。
ケイタがこうなると、聖南も葉璃との惚気を聞かせたくてウズウズし始める。 赤裸々に……とまではいかなくとも、ケイタが喜ぶネタを笑顔で提供するのが目に見えていて、すぐさまアキラは助け舟を出した。
聖南の腕からひょいと抜け出した葉璃は、キッと猫目で睨んでくる。
「聖南さんっ、ちゃんとオブラートに包んでくださいよっ?」
「包んだら話していいって事?」
「なっ……!? あっ、うっ、ダ、ダメです! やっぱ何も話さないで!」
「あははは……っ、かわいー。 葉璃は今日もかわいーなぁ」
狼狽える葉璃が可愛くてつい揚げ足を取ってしまった。
度を超えた羞恥を恋人に晒すと、僅かにあった遠慮や気兼ねがその都度無くなってゆく。 葉璃と体を重ねる度に、聖南はそれを実感していた。
本物の家族になりたいと望む聖南には、少しずつでも距離が縮まっていくのは嬉しい事この上ない。
しかしたった今、揶揄ってしまったが故に風船顔に戻った愛しい聖南の恋人が、CROWNの実質長男の腕に収まろうとしている。
「ハル、大丈夫か? 歩ける?」
「アキラさんーーっ」
「あ! おいアキラ! 手繋ぐなっつの!」
「ハルの手小さいなー」
「そうなんですよ……アキラさん、手パァってしてください」
「ん」
聖南の目の前で、アキラと葉璃は右手を重ね合わせた。
こちらもまた葉璃を猫可愛がりするため、重ね合わせた手のひらをにぎにぎして感触を楽しんでいる。
『───我慢だ、我慢。 アキラは家族同然なんだから妬く対象じゃねぇ』
聖南はこうして、自分に言い聞かせる事を覚えた。
呑気に微笑みを絶やさないケイタと、最年長の聖南よりもしっかりしているアキラにはヤキモチは焼かないと決めている。
だが、この二人への遠慮も無くなってきた葉璃は、容赦なく可愛さを炸裂させた。
「背の高さと手の大きさって比例してますよね」
「あぁ、そうかもな」
「見てくださいよ。 俺、指も短い。 ほとんど室内に居るから真っ白で男っぽくもない……なんか悲しい……」
「ははっ……ほんとだ。 でも可愛いじゃん」
「可愛くないですよ。 揶揄わないでください」
「可愛いから可愛いって言ってんのに」
「アキラさんっ」
「見ろよ、こうやって繋いだらハルの手がすっぽりだ」
「ほんとだ……アキラさんのおっきぃ……」
「……手がな。 ちゃんと "手が大きい" って言ってよ」
「え?」
「いやなんでもない」
『なんでそこではにかむんだ、アキラ。 お前らしくないだろ』
聖南の自身への言い聞かせは三分と保たなかった。
葉璃とアキラのイチャイチャを見せつけられた聖南は、昨夜のプレイで今もまだ拗ねられていて抱擁もままならなかったというのに、アキラとは何分も手を繋いでいる。
極小の器は少量の水滴であえなくキャパオーバーした。
「てめぇら……俺の前で堂々とイチャつくんじゃねぇよ。 葉璃も葉璃だぞ! 俺という旦那がありながら!」
扉を隔てた廊下にまで響き渡りそうなほど、聖南は声を荒げて長男から葉璃を奪い去り、楽屋の隅でたっぷりと抱き締めさせてもらった。
いくつか猫パンチを背中に浴びたが、そんなものへっちゃらだ。
葉璃の髪を撫でて首筋のにおいを嗅ぐと落ち着く聖南は、どさくさに紛れてお尻を触るというセクハラを行い、またもや葉璃から睨まれる事にはなったが。
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